気付いたときには白石くんの顔が視界を占領していた。ああ、やっぱり近くで見ても綺麗だなあ、なんてぼんやり思っていたら唇がゆっくりとひんやりした何かに覆われて。白石くんは目を瞑っていた。その長い睫毛が僅かに震えるのを、あたしはただボーッと見つめていた。頭が上手く働かなくて、何も考えたくなかった。そしてあたしは制服の裾から侵入してきた体温よりもはるかに冷たい手が素肌に触れたことによって漸く現実に引き戻される。

「…抵抗、せえへんの」

あたしが意識を取り戻すのと白石くんがそうぽつりと呟いたのはほぼ同時だった。彼らしくない、感情がない冷たい声音。唇が触れるか触れないかぐらいの距離で、白石くんはあたしを真っ直ぐ見つめる。声とは裏腹にその瞳が熱を孕んでいることにあたしは気付かないフリをした。

「…なんで、」

まったく回らない頭で精一杯に考えて出たのはたったそれだけの言葉だった。それを聞き取ったからなのかはわからないが、白石くんは自虐的な笑みをその端正な顔に浮かべた。あれ、白石くんってこんな感じの人だったっけ。

そんなことを考えていたらいつの間にかまた白石くんが視界いっぱいに広がっていて、あたしの唇は再び塞がれていた。しかも今度は先程よりも深く、貪るようなキスだった。白石くんの舌が口内を侵す。頭の整理が追い付かないあたしはそのままされるがままだった。舌で歯列をなぞったり唇を舐めてみたり、2回目のキスはどこか性急な気がした。でもそれは決して荒々しいものではなかった。

しばらくの間そのキスは続いた。そして漸く気が済んだのか白石くんが唇を離した。安堵して乱れた呼吸を整えようとしたのも束の間、あろうことか白石くんは再び顔を近付けてきた。おいおい、流石に苦しいんだけど。半分諦めている小さな抵抗を示してみたら、予想外なことにすぐに反応して体を離してくれた。

「わからない」
「……?」
「意味がわからないんだけど」
「……やから、」
「は?」
「好きやから」

白石くんはその言葉と共にあたしの肩を掴んで手近な机に押し倒した。しかしその動作はやはり乱暴とは程遠いもので。下から見上げた白石くんも文句なしに綺麗だった。でも、ねぇ、なんでそんな泣きそうな目してるの。

「ねぇ、白石くん」
「なん」
「順番が逆だよ」

あたしの言葉に白石くんは一瞬目を丸くさせたけど、すぐにその顔はいつもの優しげな微笑みへと変わった。うん、やっぱりあたしそっちの白石くんの方が好き。

「そうやな」と嬉しそうにはにかんだ白石くんの3回目のキスを、あたしは静かに受け入れた。









(120105)
title by 花畑心中
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