他人に触れられることをひどく嫌う人ってたまにいる。その典型的な例が隣の席の財前光だ。たしかに神経質そうだからわからないでもないけど。触れようもんなら問答無用で張った押されそうだ。

今もほら、気安く近付くんじゃねーよ的なオーラを纏いながら仮にも学校だというのにヘッドフォンつけて堂々と音楽聴いてはりますよ。

「あー、財前くん音楽聴いてるー!」

そんなときテンションの高い女子がここぞとばかりに絡みにやってきた。うわ、てか今の財前くんのめんどい奴が来よったわな目に気づかないのか女子!「あかんねんでー」なんてケラケラ楽しそうに笑いながらさりげなく仕掛けたボディタッチも、彼は当然の如く払い除けてしまった。これにはハイテンション女子だけでなく傍から見ていたあたしでさえ呆気に取られて目を丸くした。なにこいつめっちゃ怖い。男子はさりげないボディタッチに弱いんじゃないのか。黙って去っていったハイな女子のなんとも悲しげな背中にとても同情した。うわあ、あたしは絶対財前くんに触れないようにしよう。

しかし、こんなに綺麗な顔なんだからちょっと愛想良くすれば絶対もっとモテるのに。もったいないなあ。いや、もう十分モテてるのかちくしょう。あら、財前くんの頭になんかついてる。埃かな。

「あ、財前くん髪に埃ついてる」

その黒い髪に触れた瞬間にあたしは漸く「しまった」と思った。心臓が嫌な音を立てて跳ね上がる。やっべ、張った押されたらどうしよう。でも払い除けられるのも地味に傷付くなあ。あたしはあのハイな女子の二の舞になるのか。いやいや、てかなんで人の髪を触るごときにこんなに緊張しなきゃいけないの!あたしはついてる埃を取ってあげようとしてるだけなのにさ!むしろお礼言われてもいいだろうよ!

あたしがそんな葛藤を心の中で繰り広げている内に、あたしの手が彼の髪についている埃を摘まんだ。やんわりと触れた財前くんの髪の毛は思っていたよりも柔らかかった。ん?え、あれ?

「……おおきに、」

ぼそりと言われたお礼に返事をするのも忘れて、あたしは今の状況が正確に処理できないまま呆けていた。てか財前くんがお礼言ってるところ初めて聞いたよあっはっは。

このときの財前くんの顔がちょっとだけ赤かったことなんて、あたしはまったくもって知る由もなかったのだった。


(120808)
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