夕陽が燃えるように輝いて、そこらじゅうにオレンジ色を撒き散らしている。まるでオレンジジュースの海に潜っているみたい、なんてぼんやり思った。今すぐあたしの汚い感情すべてこのオレンジの海に沈んでしまえばいいのに。

「青峰くん」
「あー?」
「さっきの女の子、だれ」
「だれって、ただのクラスメイトだけど?」

ああ、もうほんとに。彼のゆるやかに吊り上がった口角が憎らしくて仕方ない。あたしがどんな気持ちか全部知っていて彼はこんな態度を取っているのだから性質が悪いにも程がある。ただのクラスメイトを抱き締めたりしないよね。あたしが見てたこともきっと知ってるんでしょう。あたしはどうすればいいの。あたしが泣いたり怒ったりしたらあなたは困ってくれるの。どうすればあなたを掻き乱せるの。

「なんでこんなこと、するの」
「こんなことってなに?」

そうやってまた意地悪く笑うでしょう。だからあたしはいつもただ言葉に詰まって唇を噛み締めるしかないの。目頭が急速に熱くなっていく感覚がひどく不快。泣きたくなんかない。また彼の思い通りになってしまう自分が腹立たしい。せめてこんな不細工な顔を見られたくなくて必死に自分の爪先を見つめた。こんなことしても彼はきっと気付いてるんだろうけど。

「俺、お前の泣いた顔好きだから」
「……さいてー、」
「怒った顔も嫌いじゃねぇ」
「…も、う…いい」

聞きたくない、そう言いかけたとき、隣を並んでいた足音が突然止んだ。振り返ればやっぱり心なしか楽しそうな青峰くんの真っ直ぐな視線に捉えられる。その視線から逃げたいのに逸らすことができない。そういう些細なことからでさえあたしは彼に敵わないということを示唆されているような気がした。すっと伸びてきた男の子特有の骨張った手が、壊れ物を扱うようにあたしの頬を滑る。そんな動作ひとつで一気に鼓動が速くなってしまう自分の心臓が憎い。そして彼はあたしの目尻をゆっくりと撫でながら、そこに溜まる液体を親指で拭った。さっきまでの言葉からは考えられないほど優しい手つきだから、思わず愛されているような錯覚に陥りそうになった。「まぁ、」と口を開いた彼の笑顔をやっぱり好きだと思ってしまうあたしは恐らく重症に違いない。

「笑った顔が一番好きだけど」

ああ、もう、こんなの、嫌いになれるはずないでしょう。ねぇ、あなたってほんとに狡いのね。でもそんなあなたに溺れてるのは間違いなくあたしだから、これ以上悔しいことってきっとないと思うのよ。




(120616)
「ゆびさき」さま 提出
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