財前生誕記念'11 | ナノ



タイムリミットまで、あと2分。

やばい、やばい、やばい!あたしは今非常に焦っている。なんでって理由は簡単である。寝坊したから、ただそれでけのことである。自転車を立ち漕ぎしながらいつもの倍以上のスピードで風を切る。髪が乱れるのもスカートがはためくのも今は気にしていられない。だって1限の先生すごい怖いし!しかもあたしあと1回遅刻したら夏休み強制補習だって担任に脅されてるんだよ実は!

学校まであともうちょっと。この分ならなんとか間に合いそうだ。少し安堵しながらペダルを踏む足に力を込めると、あたしの自転車はより一層スピードを増す。前方に学校の校舎が見え始め、ほっと肩の力が抜けたそのとき。

「………!」

曲がり角から突然人が現れたのだ。心臓が大きく脈を打ち、反射的にブレーキを強く握り締める。ブレーキが悲鳴を上げながら軋み、あたしの自転車はスピードを殺しきれずに思いっきり転倒した。

鈍い痛みが襲ってきたと同時にあたしは思った。ああ、遅刻決定だ。あと僅か数十メートル先にある校舎を恨めしく思いながらあたしは意識を手放した。閉じていく視界の中で見えたのは、いくつもの光りを放つピアスだった。







うっすらと漂う薬品の匂いが鼻孔を擽る。気怠い体を無理矢理起こし、まだはっきりとしない意識で周りを確認する。どうやら学校の保健室のようだ。あー…、頭痛い。あたしあの後どうなったんだろう。

そんなことをぼんやりと考えていたとき、あたしはハッと気付いて時計を見た。10時20分、完全に遅刻だ。はあ、と大きく溜め息をつく。もうここまで遅れたらあとどれだけ遅れようが同じだ。あたしは諦めモードに入って再び布団に潜ろうとした。

「あ、やっと起きよった」

そのとき、いきなりカーテンが開かれたと思ったら、知らない男の子が現れた。呆然とするあたしを余所にその男の子はベッド際にあるパイプ椅子に腰掛けると、偉そうに脚を組んだ。彼のするどい視線があたしを捉える。

両耳に光る5色のピアスに無意識の内に目が行く。てかピアス開けすぎ!怖い!彼はあれか、所謂不良というやつか。あたしってなんてついてないんだろう。遅刻した上に不良と事故るなんて。

「自分とばしすぎやろ」

彼は呆れた様子で溜め息をつきながら言う。彼の話によると、転倒して気絶したあたしと自転車を学校まで運んできてくれたらしい。意外といい人だ!と思いながら感謝の意を込めて深々と頭を下げる。

「ご、ご迷惑をおかけしました…!ありがとうございます…!」
「無理」
「………は、い?」

今この人なんて言った?無理?何が?意味がわからず目が点になっているあたしを、彼は口角を上げて馬鹿にしたような笑みを浮かべながら見ている。ああ、ダメだ。嫌な予感しかしない。

「あんた重いしチャリ重いしほんま散々やわ」
「はあ…、すいません…」

前言撤回、いい人ではない。ちょっとイラッとしたけど後で絡まれたくないし、何よりチキンだから反論できるわけもなく、適当に謝罪の言葉を並べるあたしに、彼は「やから」と口を開いた。

「俺のパシリになって」

何度も瞬きを繰り返してみたけど、視界にはやっぱり薄い笑みを浮かべた彼しかいない。ああ、やっぱり。あたしの予感はぴったり的中したようだ。


パシリになりました
(こんなのってひどい!)

(110718)

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