屋上の給水塔の上。そこに上った僕の足元に、一人の女子が倒れていた。頭の中で状況を整理する僕の背後で昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。

「ねぇ、君」

見下ろしたまま声をかけてみたけどまったく反応がない。一瞬死んでるのかと疑ったが、僅かに胸が上下していることからするとただ熟睡しているだけらしい。二、三度呼んでみるものの、彼女が起きる様子はない。それどころか寝返りを打って僕から背を向けた。その寝返りのせいで肌蹴たスカートからピンク色の下着が見えているのを彼女が気にする様子もない。

仕方ないので片膝をついて彼女の肩を軽く揺すってみると、漸く小さな唸り声と共に閉じていた瞼がゆっくりと開いた。彼女は眠そうに何度か瞬きを繰り返す。そして僕がいることにやっと気付いたのか、寝ぼけ眼の視線が僕を捉えた。そして彼女はへらっと笑うと起き上った。その一つ一つの動作が苛々するほどゆっくりで、本当にナマケモノのようだった。

「授業始まったんだけど。早く行きなよ」

無意識のうちに少し怒気を含んだ声が出る。そんな僕をまったく気にしていない様子で大きく欠伸をした彼女は気の抜けた顔で「もういいんです」と言った。風紀委員の僕の前で堂々と授業をサボろうなんて大した度胸じゃないか。彼女の言動は妙に僕をいらつかせるようだ。

「咬み殺すよ」

僕がそう言ってトンファーを構えたら大抵の草食動物は逃げ出す。しかし目の前の彼女は逃げ出すつもりなんて更々ないようで、変わらず笑みを絶やさなかった。自然と眉間に皺が寄る。彼女は怖がるわけでも逃げ出すわけでもなく、ただ楽しそうに笑っているだけだ。一体何がそんなに楽しいんだろう。

「無理ですよ」

彼女はそう言って立ち上がるとスカートに付いた誇りを払う。ワォ、思わず口角が上がった。僕にそんなことを言ってきた奴は今までにいないことはない。ただ、例外なく全員僕に咬み殺された。弱い犬ほどよく吠えるんだ。しかし、一体この自信は目の前の彼女のどこから湧いてくるのだろう。スカートから伸びる脚も、腕も頼りないぐらい白くて細い。どこからどう見てもただの女子だ。まぁ僕に刃向かう奴は誰であろうと関係ない。トンファーを握り直した。しかしこのときの僕は次の瞬間に彼女から放たれる言葉に軽い眩暈を覚えることになるなんて知る由もない。彼女はさも当たり前のようにこう言った。

「だってあなた、牙がないじゃないですか」

開いた口が塞がらないって、まさにこういうことを言うんだろうね。


(110320)
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