「なまえ!危ない!」

そう叫ぶ友達の声にえ、と思って振り返った瞬間に飛んできたサッカーボールがあたしの顔面にクリティカルヒットした。頭が真っ白になって周りの人たちの騒ぐ声が妙に遠く聞こえる。傾いていく視界の中であたしが最後に見たのは幸村が爆笑する姿だった。

パチ、と目を覚ますと視界は真っ白な体操服でいっぱいだった。朦朧とする頭を起こすと驚くほど至近距離に幸村がいた。ああ、これはあれか。おんぶされてるのか、あたし。

「あ、起きた?」

心なしか少し楽しそうに幸村が尋ねる。「あたしが倒れたとき爆笑してただろ」と睨みながら言えば「あ、見てたの?」と悪びれた様子もなくまた笑いだした。まったくもってこいつは最低だ。ごめんね、重いでしょ?なんて絶対言ってやらないからな。だって返ってくる答えなんて百も承知だ。

「そういえばさ、重いね」

ふははは、ほらね。あたしが言うまでもなくあちらからわざわざ言ってきてくれましたとも。てかそうゆうことは心の中に留めておくものじゃないのか。ちくしょう、とささやかな恨みを込めて幸村の肩に置いている手に力を込める。あれ?そこであたしはあることに気付いた。

「……幸村って案外がっちりしてるよね」
「何、みょうじは俺のことモヤシとでも思ってたの?」

いつもより高い目線は幸村とあたしの身長が全然違うことを明確に示している。もっと細いと思っていた肩も実際はちゃんと筋肉がついていて、立派な男の子の肩だ。何だろう、なんか変な感じだ。

「…なんか男の子、だね」
「当たり前だろ。……あ、もしかしてときめいちゃった?」
「意味わかんね」

大嘘だ。ときめいたどころか、今だって心臓がうるさい。この異常に喧しい鼓動が幸村に聞こえていないことを祈りながら肩に掛けられている幸村のジャージをそっと握りしめた。

不覚にも惚れそうだと思った。


(110320)
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