ふと目を覚ますと、隣に温もりはなかった。気怠い体を起こして、醒めきらない頭で温もりを探す。それはベランダにいた。生温かい空気に上半身を晒しながら。夜風に揺れるカーテンの隙間から見えるのは、愛しい後ろ姿。彼の吸っていてる煙草の煙がゆらりゆらりと燻らされている。

風と一緒に靡く細い黒髪が好きだと思った。その広い背中も。煙草を吸う仕草でさえも。

「ひかる」

愛しい名前を紡げば、彼は静かに振り返る。

「起きたんか」

そう言った彼の声はいつもよりも少し低い。彼もさっき起きたばかりなのだろうか。彼はベランダの柵にもたれながら吸いかけの煙草を灰皿に押し付けて、それを消した。別にあたしは気にしないのに。しかし彼はいつもあたしの前では煙草を吸おうとしない。その火が消え終わると、彼は漸く部屋に入ってきた。

そしてあたしが横たわるベッドへと歩み寄る。ズボンの裾をねだるように小さく引っ張れば、彼がゆっくりと口付けてくれることをあたしは知っている。合わさった唇は少し冷たく、ひどく苦かった。舌が絡まるとその苦味はより濃くなった。

唇が離れると、彼はあたしの隣に寝転んだ。あたしはその胸板に甘えるように擦り寄る。

「ねぇ、頭撫でて」

少し骨ばった大きな手が静かに優しくあたしの頭を撫でる。それがあんまり心地良いから、また睡魔がだんだんと押し寄せてきた。

「結婚しよか」

微睡みに堕ちていくぼんやりとした意識の中、彼の形のいい唇が緩やかに弧を描き、そう紡いだように見えたのはあたしの都合の良い幻だろうか。瞼が閉じる直前に見えたのは、滅多に見せてくれない柔らかく微笑んだ彼の顔だった。


(111202)
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