ああ、つまらない。ただ繰り返されるだけの毎日。ただ生きてるだけの自分。何の意味もなくただ生きてるだけ。息してるだけ。吸って吐いて吸って吐いての繰り返し。反吐が出そう。たとえばあたしが60歳まで生きるとしよう。そしたらこれから先今まであたしが生きてきた14年の4倍以上も人生があるじゃないか。なんてなんて長い。それまでにあたしきっと退屈すぎて死んじゃうわ。

溜め息と一緒に如何にも体に悪そうな一酸化炭素の煙も吐き出す。そして再び手に持ったそれに口をつけようとしたそのとき、突然上から伸びてきた腕によってその行為は妨げられた。顔を上げると、視界に飛び込んできたのはきらきらと日光を反射するピアス。ああ、この人知ってる。なんかみんなが騒いでる人だ。名前なんだっけ忘れた。でもみんなが騒ぐだけあって確かにすごく整った顔立ちをしている。「イケメンだね」と思ったままのことを素直に口にしてみたが、完全に無視された。

「何してんすか」

あたしがさっきまで吸っていた煙草が彼の足で揉み消されるのを視界の端に捉えながら、あたしは笑顔を貼り付けて答える。

「息してる」
「………」
「いや、人生にうんざりしてる?」
「反抗期っすか」
「何事も斜めから見たいお年頃なんだよね」

彼は興味なさげにふーん、と呟いてフェンスにもたれ掛かった。そして、沈黙。こいつは一体何しに来たんだ。大して興味もないけど、一応常識として「名前、なに」と尋ねておいた。どうやら彼は財前光といって、あたしのひとつ下の学年らしい。今度はあたしが仕返しとばかりにふーん、と適当に返事をしてやった。そしてまた、沈黙。用がないならさっさと帰ればいいのに。音楽の授業をしてるクラスの下手くそな合唱にぼんやり耳を傾けながら、あたしは屋上から見える景色に遠く思いを馳せていた。

今日、天気いいなあ。寝ようかな。次の授業なんだっけ。あー、数学か。やだな。あ、そういえばもうすぐテストじゃん。ああもうだるい、死にたい。

これから先、面白くもなんともない未来が続いていくなら、いっそのこと今ここで、断ち切ってしまおうか。そしたら少しは息もしやすくなるかもしれない。「ねぇねぇ、光くん」あたしが声を掛ければ、財前光は視線だけをこちらにやる。

「死んじゃおっか」

一緒に。笑みを携えながらそう言ったあたしのことを、彼はなんて思っただろう。冗談だろって笑う?そうだよ、冗談。冗談だから、さっさと笑えばいいよ。

「ええよ」

だから、だから彼が至極真剣な面持ちで肯定なんてしてしまうから、あたしの方が目をぱちくりする羽目になった。なに言ってんの、なんてあたしが言えるわけもない。死ぬってどういうことかわかってんの、なんてあたしが一番言うべきでない奴だ。財前光もきっと何事も斜めから見たいお年頃なんだ、きっと。

「やっぱり財前光は死なないで」
「じゃあ先輩も生きてや」

そう言ってゆるやかに口角を上げた彼に、あたしは再び目を白黒させることになった。少しだけ、ほんの少しだけ、息がしやすくなったような気がした。


(111202)
Happy Birthday!!
≫chikura(1101)
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