「あのー、聞いてますー?」
「あ、ごめんなさい聞いてなかったです」
いや、そんなはずがない。そんなことがあるはずない。きっとあたしの聞き間違いだ。聞き間違いだと言ってくれ。そして勘違いも甚だしいと爆笑してくれ。
「じゃもう一回言いますー。ちゃんと聞いてくださーい」
え、だってあの、え、何のドッキリ?あたしの目の前に立っているのはあのヴァリアーの幹部であるフランさんで。あたしなんかとは話をするはずもない人で。そんな人が。そんなすごい人が一般ピープルのあたしの目の前で。
「あなたが好きですー」
今まさにあたしの事が好きだとか何だとかおっしゃっている。告白みたいなことしていらっしゃる。空耳もいいところだ。
「……幻聴が聞こえた」
「いい加減聞き取れよー。現実逃避してんじゃねーよ」
「……あ、罰ゲーム?」
「だったらおもしろいですねー」
だってあのフランさんがあたしみたいなただの召し使いにこ、こここ告白するなんてそんなバカな。だってあたし今までフランさんと話した事なんてないし、顔だって今初めて近くで見たし。すごい綺麗だ。あたしの存在なんて気付いてもいないと思っていた。目すら今まで一度も合ったことないのに、なんで。
「信じられないんなら何回でも言ってあげますよー」
「いっ、言わなくていいです信じます信じます」
「で、返事はー?」
そう言って小首を傾げるフランさんは悔しいけど女のあたしよりも可愛かった。とりあえず、この告白が本当ならすごく嬉しいけど、やっぱり無理だよ。だってあたしフランさんのこと何も知らないし。そんなので付き合うのはダメだと思うんだ。
「……本当に嬉しいんですけどごめ「返事はイエスしか受け付けないんでー」
ええええ、ちょっと待って超自分勝手だよこの人。あたしの意見は?てか今あたしちょっとかっこよく決めようとしてたのに!てか選択肢ないなら初めから聞くなよ!あまりの横暴っぷりに呆然としていると、フランさんが徐に口を開いた。
「……ずっと見てましたー」
ぴくりとも変わらない無表情のまま、フランさんはあたしを見つめて呟いた。綺麗なエメラルドグリーンの瞳にあたしが映されている。吸い込まれるようなその瞳にあたしは目が逸らせなかった。
「なまえサンが好きですー。好きすぎてもうミーどうしたらいいかわかんないんですー」
あたしの手を握って大きく溜め息をつくと、フランさんはその場にしゃがみ込んでしまった。俯いているから表情はわからなかったけど、微かに震えているような気がした。あたしは超能力者でもエスパーなわけでもないが、握られている手からフランさんの気持ちが流れ込んでくるように感じた。
「だから、ミーの女になってくださいー」
ああ、もう、こんなの反則だ。フランさんはずるすぎる。こんなの、断れるわけがない。
(111010)