「ごめんなさい、」
彼女がこうして瞳を潤ませて俺の前でこの言葉を何度も何度も繰り返すのは一体何回目なのか。思い出すのも憂鬱だ。いや、思い出せないくらいかもしれない。
「……今度は誰なん」
「……ナンパされて、」
思わず深い溜め息が零れた。名前すら知らないどこかの男と身体を重ねてしまう彼女にもう何度目かわからない絶望を感じる。信じられんわ、と呟くと彼女の大きな瞳に涙が溜まった。そしてそんな姿にさえ興奮を覚える俺にもかなり幻滅した。
「ごめんなさい、蔵…、」
聞き飽きた、台詞。彼女は幾度もこうやって嘘を吐いた。でもその度に許してしまう俺は呆れ返るぐらいのバカだ。自暴自棄になった俺は彼女の腕を強引に引き寄せてその細い肩に顔を埋める。
「……何が不満なん?」
情けなく震えてしまった声で尋ねると、彼女の腕が遠慮気味に背中に回った。そして譫言のように「ごめんなさい」を繰り返し呟く。ちがう、違う、俺が聞きたいんはそんな言葉やない。
「ごめんね、蔵、大好き……、」
これもまた嘘なんだろうか。もしこれが偽りの言葉だとしても、俺の絶望感を癒してくれているのは確かだ。
「………抱いて、」
彼女の甘い囁きが俺にまた期待をさせる。彼女の唇から身体からすべてが俺を誘惑する。俺は知っているんだ。何度裏切られようと、何度絶望を感じさせられようと、俺は彼女を手放そうとは思わない、決して。ああ、いつからこんなにも彼女に依存してしまっているんだろう。
「……頼むから、捨てんといて、」
俺の言葉に大きな瞳をさらに大きくさせた彼女が俺の後頭部に優しく手を添えてそっと触れるだけのキスを落とした。「愛してる」と彼女は俺の耳元で甘く囁く。ああ、そうやってまたはぐらかすんだ。こんなにも愛しいのに、もうどうしようもないくらいに。どうやったらこの想いは伝わるんだろうか。
お願いやから、俺の愛に目を伏せんといて。
(111010)