みーんみーんとうざったいくらいに鼓膜を支配する蝉の声。じんわりと浮かぶ汗はゆっくりと首筋を伝う。真っ白な入道雲が、まるで鮮やかな青を押し上げているみたいな快晴だ。ボールの籠を降ろして一息つく。今日も暑くなりそうだ。

「なんやこのドリンク、うっす」

突然後ろから聞こえた声に振り返れば、先程あたしが作ったドリンクを怪訝な顔で見つめている財前がいた。部活が始まる時間までまだ結構あるのに、どうしたんだろうか。

「お前のドリンクはいつになったら濃くなるねん」
「濃すぎると体に良くないし」
「これは薄すぎや。こんなんただの水やわ」

そんな暴言を吐きながら財前は紙コップに入っているそれを一気に飲み干した。そして「ほんまうっすいわ」とあたしにわざと聞こえるようにぼやいた。

「てか今日早いね、気合い入ってんじゃん」
「……最初くらい、気合い入れとかなあかんやろ」
「え?」
「一応部長なんやし」

ぽつりと零すように財前が呟いた。ああ、そうだ、先輩たちは引退してしまったのだ。もう先輩たちはいないのだ。

金ちゃんを叱る白石先輩も、あたしのドリンクが薄いと騒ぐ謙也先輩も、毎日のようにあたしたちを笑わしてくれる一氏先輩も小春先輩も、みんな、みんな、ここにはもういない。ああ、こんなに広かったっけ、このコート。ぽっかりと、何かが足りない、抜け落ちたような不思議な感覚に陥る。

こんなにも先輩たちの存在が大きかったなんて、思いもしなかった。いつかはこんな感覚にも慣れて、これが、この広いコートが当たり前になっていくのだろうか。当たり前になる頃には、あたしのドリンクは濃くなっているだろうか。

ふと財前を見ると、彼はジリジリと日差しが照り付けるコートを静かに、ずっとずっと見つめていた。まるでいつものように、先輩たちが楽しそうに騒ぐ様子を、半ば呆れ気味に少し離れたところから眺めるように。

「ねえ、財前」
「……おん」
「寂しいね」
「…………」

財前は何も言わなかった。ただ誰もいない広いコートを、ぼんやりと見つめ続けていた。あたしもつられてコートに視線をやる。この気怠い暑さのせいか、先輩たちの声が聞こえたような気がした。でも瞬きして開いたそこに姿があるはずはなく、ただ蝉のひどい大合唱だけが鳴り響いていた。


(110903)
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