千歳は何を考えているのかよくわからない。学校にはあんまり来ないし常にふらふらしている風船みたいな奴だ。でも一番わからないのはそんな千歳のことが好きなあたしだ。鈍い、というかそういうことに疎そうな千歳はきっとあたしの気持ちに気付いていないだろう。

「告白せぇへんの?」

白石が物珍しげにあたしの顔を覗き込んで尋ねる。告白なんてぶっちゃけ考えたことがない。だって断られるあたしが在り在りと想像できるもん。てかさらっと流されそうだ。そんなのあたし立ち直れない。自分で言っといてあれだけど結構傷付いた。

「でも千歳は言わなわからんで」

そんなのわかってる。わかってるけどできないんだよ。なぜか泣きそうになってるあたしの頭を撫でて白石は「頑張り」と優しく言ってくれた。何であたし白石のこと好きにならなかったんだろう。まったくもって不思議だ。

そしてなけなしの勇気を振り絞って電話帳から千歳の番号を探し、通話ボタンを震える指で押した。プルル、というコール音よりもあたしの心臓の音の方が大きく聞こえる。早く出ろバカ。千歳はメールの返信も恐ろしく遅いし電話も滅多に出ないから祈るような気持ちで携帯を耳に当てる。届け届け届け。

『どげんしたと?』

呼び出しのコール音がブチッと千切れた途端に聞こえてきたのはいつもの千歳の声。電話に出てくれた喜びとか、何て言ったらいいかわからない緊張とか色んな感情がかき混ぜられている。とにかく早く何か言わなきゃ。

「……あ、会いたい」

格好悪いことに絞り出した声はか細くて震えていた。恥ずかしい恥ずかしすぎる。てか会いたいなんて言ったことないんだけど。気まずい沈黙が携帯越しに流れる。早くなんか言えよもじゃもじゃ!さむいだろうがあたしが!そしたら千歳が『今ね、』と言いにくそうに口を開いた。

『野良猫ば膝の上に乗っとるけん、動けんばい』

あたしの中のどこかがプチンと音を立てて切れた。今携帯を地面に叩き付けなかったあたしを心から褒めてあげたい。これは確実に殴っても許されるだろう。あたしの緊張と恥じらいを利子つけて返せ。

「今どこさっさと言え」
『学校の近くの公園?』

千歳に居場所を吐かせてあたしは全力疾走でそこへ向かった。きっと今のあたし、風になれると思う。てかもうまじ意味わからんあのひょろ長。ぎゃふんと言わせてやるからな。







公園に滑り込むように入ればベンチに座って言った通り猫と戯れている千歳がいた。ドスドスと一歩一歩を踏み締めながら千歳に近付くと、あたしに気付いた千歳が「おー」とへらへら笑いながら手を振ってきた。往復ビンタしてやりたい。千歳の前に立って見下ろす。彼の膝の上には気持ち良さそうに眠って猫が。

「起こしちゃいけんよ」

しーっ、と長い人差し指を口に当てると慈しむように猫の背中を撫でる千歳。もうなんかすべてどうでもよく思えてきて、気付いたらあたしは千歳を前にして「好き」なんて口走っていた。千歳が目を丸くしてあたしを見つめる視線を感じる。でももう知らん。どうにでもなれ。

「千歳が、好き。ずっと前から、千歳が好きだった」

言ってしまえば言葉はあたしの意志とは関係なくスラスラ出てきて。何であたしこんなことが言えなかったんだろう、と軽く後悔した。でも言った後の沈黙とか千歳の視線とかがすごく居たたまれなかったので、くるりと回れ右をしてさっさとその場を退散しようとしたそのとき。

「俺も」

あたしの背中にぽつりと投げられた言葉は間違いなく千歳が発したものだった。ゆっくりと振り返るとベンチから立ち上がった千歳があたしの方に近付いてきていた。膝で眠っている猫は飛び起きて恨めしげに千歳を一瞥するとどこかへ行ってしまった。さっきは起こすなとか言ったくせに。しかし千歳は猫のことなんかまったく気にも止めず、さっき猫に向けていた慈しむような、愛しいものを見るような優しい目であたしを見つめた。

「俺も、好き」

あたしよりも遥かに背が高い千歳が視線を合わせるように腰を曲げてあたしの顔を覗き込む。少し骨ばった手があたしの髪をさらりと撫でた。ふっと笑った千歳は憎たらしいぐらいかっこよかった。

「ちゅーしてええ?」

あたしの返答なんて聞く前にゆっくり近付いてきた千歳の顔にあたしは静かに瞼を伏せた。


(110412)
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