「八方美人て言葉知ってます?」

突然馬鹿にしたような薄い笑みを浮かべて財前があたしに尋ねてきた。残念ながら国語が苦手なあたしはその言葉の意味なんて知るはずがなく。てか美人って言葉が入ってるんだから褒め言葉なんじゃね?なんて思ったり。首を傾げると財前は鼻で笑った後に「先輩のことですよ」と言い捨ててどこかに行ってしまった。ええええ、何なんだ一体。まったく訳がわからないけど何だか財前が怒ってる感じだったのでとりあえず追いかけることにした。

「財前くーん、ねぇ、シカトですか」

数歩後ろを追いかけるあたしをガンスルーで早足のまま歩き続ける財前。苛々している雰囲気が背中から伝わってくる。何でだ、あたしなんかしたっけか。何度財前を呼んでも振り返ってくれるどころか足を止めようともしない。これはもしかしてかなりご立腹なんじゃね?財前が怒ることってあんまりないから、どうしたらいいのかまったくわからない。こんなとき白石はきっと上手く宥めるんだろうな、とぼんやり思った。あ、そうだ白石だ。困ったときの白石だ。

「……何しとるんですか」
「え、白石に電話しようと」

あたしがどれだけ呼んでも止まらなかったくせにあたしが足を止めたら財前は振り返ってきた。そしてあたしが白石に電話しようとしていることを知った途端にズンズンと近付いてきてあっという間にあたしの携帯は財前の手の中に。唖然とするあたしをさも不愉快そうな目で睨んでくる。何でやねん。おい、てか返せよあたしの携帯。

「ほんま先輩消えて」

やっと目が合って会話できると思ったら開口一番がこれか。財前は綺麗な眉根に皺を寄せて苛立ちを露わにしている。あたしは開いた口が塞がらない。きっとあたし今間抜けな顔してる。だって消えろって何だそれ、普通に傷つくからね。さりげなくかなりショックを受けているあたしを余所に財前はそのまま捲し立てるように言った。

「何かあったら部長ばっかりやし他の奴にもめっちゃ笑顔やし、むかつくねん」

え、ちょっと待って。それってあれじゃない?あれだよ、あれ。そう、やきもち。何だ、やきもち焼いてるだけじゃん。何だそれ可愛いじゃないのコノヤロウ。目の前でまだあたしに対する不満を炸裂させている財前の言葉なんてもう耳に入ってこず、思わずあはは!と笑ったら思いっきり頭を叩かれた。痛いよ。


(110410)
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