「キスしてあげようか」
「結構です」

嫌い嫌い嫌い嫌い大嫌い。こうやってあたしをからかう嘘ばかり吐く口も。人を見下したような赤い瞳も、嘲笑を浮かべる吊り上がった口角も、全部きらい。

「臨也さんはどうしてそんなに人が好きなんですか」
「面白いからだよ」

即答した彼はまたさも愉しそうに口角を上げる。この心臓の高鳴りはきっと彼に苛々しているせい。だって、あたしはこの人が嫌いなんだから。

「あたしは臨也さんのこと、嫌いです」

そう言ったあたしのことを覗き込んですべて見透かしているかのように見つめてくるこの人が嫌いだ。

「俺は好きだよ?君のこと」

知っている、あたしはこの先に続く言葉を知っている。だからあたしは期待なんて抱いたりしない。そうやって何度も傷付いてきた自分がいるから。

「あくまで"人"としてだけどね」

ほらね、こうやっていとも簡単にあたしの気持ちを破り捨てる彼が嫌いで嫌いで仕方ないんだ。彼はきっと気付いている、あたしの気持ちに。それなのにまるで何も知らないというような涼しい顔をして平気で近付いては離れていく彼が嫌い。どうせ離れていくなら近付いて来ないで。なんて、思ってもそんなこと絶対に言えないあたしに腹が立つ。

「そんな悲しそうな顔しないでよ」

いつだってあたしは容易くぐちゃぐちゃに掻き乱される。きっと彼はそんなあたしを眺めて滑稽だとでも思っているんだろう。無駄だってことぐらいわかってる、この人にこんな感情を抱いても。だからあたしは今日も何度も何度も暗示のように呟くんだ。

「臨也さんなんて、嫌いです」

嗚呼、あたしはこの人に依存してる。


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