◎おお振り


同じクラス(そして隣の席)の利央は馬鹿らしい。とてもとても馬鹿らしい。大事だから2回言っといた。たしかに授業中はずっと寝てるし(アホ面で)珍しく起きてると思ったら教科書を逆さまに持って「俺真剣に授業受けてますけど」的な顔をしてたから、本気で引いた。突っ込んでほしいのかと思って「面白くないんだけど」と言ったら、意味わかんねぇ何言ってんのお前頭大丈夫?って顔をされた。どうやらこの馬鹿さ加減は天然のものらしい。

「りおー、何してんの」
「グローブ磨いてんの」
「え、何あんた野球やってるの」
「知らなかったのかよ!」

そんな馬鹿な。あんな馬鹿な利央がルールがたくさんある(あたしでもわからない)スポーツをしている姿なんて想像できない。きっとフライとか受け損ねて顔に当たるんだよ、うわぁ笑える。

「俺ベンチ入ってるし」

ええええ、まじでか。だって利央はまだ1年生。なのにベンチ入りってことは上手い?教科書逆さまに持って真剣に授業受けてる奴が桐青高校のレギュラー補欠。実は利央はすごい奴だったみたいだ。まぁ馬鹿と天才は紙一重って言うしね。

「くそー!お前絶対馬鹿にしてるだろ!よし、お前今日部活見に来い!」
「えー、めんどー、」
「絶対来いよ!俺がすげーってことを思い知らせてやる!」
「すげー」
「しね!」

利央をからかうのは実に愉快だ。あはは、と笑うと利央は怒ってそっぽを向いてしまった。でも部活してる利央は見てみたいかも。しゃきしゃきしてる利央とか考えられん。ウケる。







放課後、いつもは校門に向かう足が今はグランドに向かって着実に近付いている。気合いの入った声やボールを打つ金属音がだんだん鮮明に聞こえてくる。利央どこだろう。広いグランドを見渡してみたら、色素の薄い髪が視界に飛び込んできた。

「ナイボー!もう一本!」

授業は睡眠学習な利央が、教科書逆さまに持ってる利央が、あんなに生き生きした目をしているのを初めて見た。あんなに真剣に、楽しそうに何かをしているところを初めて見た。あたしの知らない利央がすぐそこにいる。

「利央!何やってんだ!」
「はい!すんません!」

ちゃんとしゃきしゃき行動できるじゃん。あんなに良い返事してるとこ聞いたことないよ。そのときふと振り返った利央があたしがいることに気付いたのかバチッと目が合った。手でも振っといた方がいいのかな、と考えていたら、利央があたしより先に屈託のない笑顔で手を上げたから、思わず手が引っ込んだ。え、なに、何であたしこんなにドキドキしてるの。左胸にそっと手を当てるといつもの倍以上の速度で心臓が脈打っていた。

手を振っているのがバレて先輩らしき人に頭を叩かれている利央を見て笑いが込み上げる。もう一度左胸に手を当ててみたら、既に鼓動の速さも落ち着いてきていたので、きっとさっきのは何かの間違いだったんだろう。でも部活中の利央は本当に輝いていたので、明日は素直に褒めてみようかな、と思った。利央のぽかんとするアホ面が思い浮かんで無意識の内に頬が緩んでいた。


(110403)
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