◎主人公1年生


朝練終了後、みんなは制服に着替えてあたしは部誌を書いていた。今日の欠席者は千歳先輩(サボり)っと。えっと朝練のメニューは……。いつものように部誌を書いていると何だかすごく視線を感じて、顔を上げたら遠山くんが至近距離であたしをガン見していた。あまりの近さに思わず肩が跳ねる。「な、ななななに?」と噛みまくりながら尋ねると遠山くんはニカッと笑った。同い年ながらすごく可愛い。

「わいな、今日誕生日やねん!」

ん?誕生日?ちょっと待って、今日ってもしかして。はっと気付いて携帯を開くと待ち受けに表示された日付は4月1日。ああ、やっぱりね。まさか彼があたしを(に限らず誰かを)騙そうとしてするなんて予想外だ。残念だけどその手には乗らないよ遠山くん。あたしは得意げに笑いながら遠山くんに携帯の待ち受けを見せた。彼は目を丸くしている。

「残念でした!あたしは騙されません!」

あたしがそう言った瞬間に何故か部室の空気が凍った気がした。え、何この空気。白石先輩たちも固まってるし財前先輩に至っては蔑んだ目であたしを見ている。何でどうして!ここは大人しく騙されてろよみたいな?もしかしてあたしすごいKYなことした?遠山くんに視線を移すと何だかかなり落ちこんだ様子でとぼとぼと部室を出ていってしまった。ええええ、ほんとに何で!

「……やってもうたな」

遠山くんが出ていってしまった直後に白石先輩が苦笑しながらぽつりと呟いた。みんなもその言葉に頷いている。いや、あの、全然話が読めないんですが。そのとき謙也先輩が遠慮気味にあたしに言った。

「金ちゃんな、ほんまに今日が誕生日やねん」

あたしの頭がその言葉を理解するまでに結構な時間がかかった。その間に財前先輩が呆れたように深い溜息をついたのが視界の端に映った。え、今日が誕生日?今日はエイプリル。エイプリルが誕生日?じゃああれは嘘じゃない?あばばばば!あたしとんでもないことしちゃったんじゃね?

「誕生日を嘘やて断言されるんてめっちゃ悲しいやろな」

財前先輩の言葉がぐっさりとあたしの胸に突き刺さる。一気に押し寄せた罪悪感があたしを飲み込む。た、たしかにあたしひどいことしちゃったよどどどどうしよう!「とりあえず追いかけた方がええんちゃう?」と小春先輩に言われてあたしは部室を飛び出した。

ああああ、何て謝ればいいんだろう…!あんな純粋な子を傷付けちゃったよ。あたし最低だ。既に半泣きになりながら走っていると前方に真っ赤な髪が見えた。その背中は心なしかいつもより小さく見える。数分前の自分を本気で殴ってやりたくなった。やっと追いついて遠山くんの腕を掴んだ。振り向いた彼は大きな目をより大きく開いて驚いている様子だった。

「…あ、の、たっ誕生日、おめでとう!」

全力で走ってきたから息が切れて切れ途切れになってしまった言葉に遠山くんははにかむように笑ってくれた。そしてがばっと抱き着かれた。ちょ、心臓が止まるかと思ったよ!あたしの焦りとは裏腹に遠山くんは楽しそうに笑っている。あたしも遠山くんの背中に腕を回してみる。でもその腕はさりげなく震えているからちょっとダサい。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

少し照れながらそう言ったあたしに遠山くんは屈託なく「おおきに!」と笑った。この鼓動の速さはきっと全力疾走のせいに違いない。


(110402)
Happy Birthday!!
>>Kintaro.T(0401)
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