「ねぇ、白石くんの嫌いなものって何?」

一瞬何を言われたのかわからなかった。そして「え、あー、嫌いなもの?」と尋ねられた人物に尋ね返せば、にこりと肯定の笑みを向けられた。白石くんの好きなものって何?なら何度も聞かれたことはある。しかしいきなり、しかも初めてまともに話した相手からの話題が自分の嫌いなものについてだったのだから、訝しむのも無理はないと思う。

「何でそんなこと聞きたいん?」
「知りたいから」

彼女はニコニコと愛想よく笑いながら言う。表面的には笑っているけど、目がまったく笑っていない。かなり敵意を感じるのはきっと気のせいではないだろう。おかしい、たしか彼女はさばさばしていて誰にでも優しいとなかなか評判の良い女子だったはず。俺は今まで彼女と話したことはないけど、謙也とかと話しているのを見たときは確かに普通に楽しそうに笑っていた。ということはあれか、俺のことが嫌い、ということか。

「で、白石くんの嫌いなものは何?」
「逆ナンしてくる女の子」

彼女の貼り付けたような笑顔に亀裂が入った気がした。口角が引き攣っているように見えないこともない。明らかに彼女からはふざけるなよオーラが出ている。これは俺にオーラが見えるとか見えないとかそんなことじゃなくて、彼女から剥き出しの険悪さを感じるのだ。これがわからないとなれば相当空気が読めないとしか言いようがない。

「あー、そうですか失礼しましたうふふふふ」

一種の不気味ささえ感じさせる笑みを浮かべると彼女は踵を返した。そして何か思い出したように「あ、」と振り返った。その表情は変わらず満面の笑顔で。そして彼女はちなみに、と口を開いた。

「あたしの嫌いなものは左手に包帯を巻いてて、何においても完璧で聖書なんて呼ばれてる人なんだ」

それってまるっきり俺のことやん。

あんなに真正面から嫌いだなんて言われたのは、今まで生きてきてあれが初めてだ。自慢ではないが、そもそも人に嫌われたことなんてあまりない。俺、彼女に何かしたっけ。記憶を辿ってみるが、会話をしたこと自体、今が初めてなのだから嫌われるようなことをした覚えなどあるはずがない。怒る、というよりも疑問の方が遥かに大きかった。唖然としながら離れていく彼女の背中を見送った。

「ひどい言われようやな、白石」
「謙也……、」

彼女と入れ代わるようにして謙也が近付いてきた。苦笑いを浮かべていることからすると、俺たちの会話を聞いていたらしい。前の席に座った謙也は「でもおかしいねん……、」と納得がいかない様子で呟いた。何が、と尋ねた俺に謙也は少し悩んだ後に遠慮気味に答えた。

「俺、みょうじさんは白石のこと好きやって聞いたことあるねん」

いやいや、絶対ありえへんやろ。


(110321)
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