目の前が一瞬、暗闇に飲まれた。瞬きをして再び開いた視界には見たこともないくらい苦しそうな顔をした土方さんがいた。総司が、労咳。あの総司が不治の病に侵されている。何て面白くない冗談。何て現実味のない冗談。それから俺が何度嘘だろ、と尋ねても土方さんは肯定も否定もせずにずっと辛そうに顔を歪めているだけだった。

「嘘だろ……、」

俺は先程の土方さんとの会話を思い出しながら一人、部屋に大の字に寝転んで呟いた。吐き出した溜め息はすぐに静寂に溶け込んで、ただ俺に虚無感を与える。

こんなのってねぇよ。何で総司なんだよ。だってあいつには千鶴がいるんだぜ?あいつには彼女を幸せにする義務があるのに。俺が勝手に決めただけだけど。でもあいつらにはずっと笑顔でいてほしいんだよ。なのに、何でだよ。

あいつらが普通の男女として出逢っていたらよかったのに。総司が普通に健康な身体で、千鶴が普通に女の子の格好をしていて、町かどっかで出逢って、知り合っていくうちにお互いを好きになって。そんで所帯を持って子供作って幸せに暮らしてたらもっと良い。あいつらの人生が、そんなありふれたものだったらよかったのに。でも総司が新選組じゃなかったら、千鶴が普通の女の子だったら、あいつらは出逢うことなどなかったのだから、なんて皮肉なことだろうと思わず苦笑する。今までの何かひとつでも抜けたらあいつらは出逢えなかったんだ。そのひとつの中に俺の存在はあるのだろうか。あったら嬉しいな、とひっそり祈った。そして再び深い溜め息を吐き出す。

「……ひでぇったらねーよ、」

結局あいつらはこういう形で出逢う運命だったのだ。出逢わない方が良かった、なんて千鶴といるときの総司の笑顔を思い出したら、到底言えるはずがなかった。大きく吸い込んだ空気を肺から押し出したら、目頭が熱くなる感覚と共に涙まで一緒に溢れてきた。


どうか世界が彼らに優しくありますように


(110406)
彼女
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