忘れてた。やばいやばいまじすっかり忘れてた。何をって、真田副部長の誕生日。何がやばいって、忘れてたことがやばいんだけど、もっとやばいのは"みんな"忘れてたこと。そう、俺を含めたテニス部全員が真田副部長の誕生日を綺麗さっぱり忘れてたいたのだ。

「うああああ、やばくね?真田怒ってない?なあ、怒ってない?」
「ブンちゃんの誕生日はちゃーんと祝ったき」
「余計にやばいな」
「そういえば誕生日の日、なんか真田そわそわしてなかった?」
「絶対それサプライズ的なものを期待してただろおおお!」
「そしてたしかその日は午前練」
「そしてたしかその日俺たちは久しぶりの休みに浮かれてカラオケに直行」
「何やってんだ過去の自分んんん!」

先輩たちも非常に焦っている。まぁそれもそうだ。だって丸井先輩の誕生日はきっちり祝っといて真田副部長の誕生日は華麗にスルーなんて鬼畜もいいところ。

「よし、じゃあこうしよう」

そんなとき、幸村部長が真剣な面持ちで立ち上がった。

「名付けて"真田の誕生日?ああ、忘れてないよ全然。ちゃんと知ってたけど。これもサプライズだよ"作戦!」

要するにこの人はしらばっくれるつもりだ。自分の過ちを綺麗に抹消するつもりだ。しかし幸村部長の提案にポカンとしているのはどうやら俺だけみたいで、みんなそれぞれ適当にプレゼントを見繕おうとしている。仁王先輩は既にちゃっかり自販機の前でどれにしようかなーと選んでいるし、丸井先輩は自分の鞄をひっくり返して出てきた大量のお菓子を自分用と真田副部長用に分けている。幸村部長に至ってはボール籠の中から比較的綺麗なボールを箱に詰めていた。てか何でみんなこんなに行動が的確なわけ?

わけがわからないまま焦っていると、タイミングが良いのか悪いのか真田副部長が「遅れてすまん」と入ってきた。その瞬間に打ち合わせも何もしていないのにみんな一斉にハッピーバースデー真田!と拍手喝采。なんでそんなに息あってんだよみんな。

「む、む…!俺の誕生日は…」
「知ってるよ何言ってるんだよ真田。俺たちが忘れるわけないだろう?サプライズだよ」

俺はここまで当たり前のように嘘を吐ける人を初めて見た。そして幸村部長は笑顔で真田副部長に使用済みのボールの箱詰めを渡した。みんな次々と先程適当に見繕ったプレゼントを渡していく。それを受け取ってとても喜んでいる真田副部長が哀れで仕方なかった。

もうなんかどうでもいいや、と俺も途中で投げやりになって偶然鞄の中にあった開封済みの少し湿気たポテチの袋に手を伸ばした。


(110530)
真田の誕生日を忘れていたのは霰である。てか霰が書くとどうやっても立海がみんなバカになる
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