部活の休憩時間中に何だか口寂しくなったので鞄を探ったらミルキーの袋が出てきた。ラッキーと思って一個口に放り込んだ。甘い味が口内に広がる。俺がミルキーを食べていることに気付いた仁王が無言で手を差し出してきた。優しい俺は仕方なくその掌にミルキーを一個乗せる。それを口に含んだ仁王は「歯にくっついてうざい」とぼそりと呟いた。とりあえず今すぐ吐け。そして俺とミルキーに謝れ。もう仁王には何もあげないと俺は密かに決意した。仁王に便乗して赤也が「俺もくださいよー!」と寄ってきた。あげないとうるさいので俺は赤也の掌にミルキーをひとつ落とした。赤也は嬉しそうにあざーっす!とそれを頬張る。そのとき幸村くんがひょっこりと後ろから顔を覗かせた。
「ミルキー?」
幸村くんにも「食べる?」と勧めてみたが断られた。そして幸村くんは俺が持っているミルキーの袋を何とも言い難い表情で見つめながらあのさ、と口を開いた。
「都市伝説って知ってる?」
俺と仁王が首を横に振るのを確認してから幸村くんはいつもより少し低い声音で話し始めた。赤也はいつの間にか俺たちから離れたところで鼻歌を歌いながらガットを弄っている。
「まだ戦争中の話なんだけど、お母さんと女の子の親子が食料不足に苦しんでいて、その女の子はいつも"お腹が空いた"って泣いていたんだって。それを見兼ねたお母さんが……、」
固唾を呑んだ俺の喉がゴクリと小さな音を立てた。幸村くんは少しの間を置いた後に先程よりも声のトーンを下げて囁くように言った。
「自分を女の子に食べさせたんだって」
仁王の肩が僅かに跳ねたのを俺は見逃さなかった。そして幸村くんはミルキーの袋にプリントされているお馴染みのペコちゃんのイラストを哀れむような目で一瞥した。
「だから、そのペコちゃんはお母さんの血を舌なめずりをしていると言われているんだ」
一瞬、背筋が凍った感覚に陥った。隣の仁王を見ると俺と同じような様子だった。幸村くんは最後に留めをさすように「ミルキーはママの味ってこんな意味があったんだね」と言った。そして俺たちは「ミールキーはママの味ー」と上機嫌で歌う赤也を複雑な心境で見つめたのだった。
(110409)
一応ギャグを目指したつもりである