「置いていく方と置いていかれる方って、どっちの方が寂しいんだろうね」
縁側に座って先刻千鶴が淹れてくれた茶を啜っていると、突然隣の総司がぽつりと零した。俺が湯飲みから口を離し「いきなりどうした」と問うと、「質問してるのは僕だよ」と苦笑しながら応えた。先程から総司は湯飲みに手をつけていない。まだ湯気がほんのり立つその湯飲みの口を遊ぶように人差し指で軽く叩いたりなぞったりしている。
「一君はどう思う?」
湯飲みに視線をやったまま総司が俺に尋ねた。俺はもう一度茶を啜ってから「お前はどうなんだ」と聞き返す。すると総司はまた可笑しそうに「質問を質問で返さないでよ」と笑った。まだ湯飲みには手をつけない。そしていつもより些か真面目な顔付きになると僕はね、と口を開いた。
「死ぬことは怖くないんだ」
一君もでしょ?と総司は付け足して俺を一瞥する。たしかに俺は死に恐怖を感じてはいない。しかし総司は俺の答えなど端から聞く気はなかったのか、呼吸を整えるように浅い息を一度吐くとまた口を開いた。
「でもね、僕がいなくなって泣いている子の姿を思い浮かべるとさ、胸が締め付けられるっていうのかな。すごく苦しくなるんだ」
これが怖いってことなのかな?と総司は笑った。総司は名前を出さなかったが、今こいつの頭には彼女のことが浮かんでいるのだろうと容易に想像できた。総司は今度は湯飲みを傾けて遊んでいる。しかし俺が「答えは簡単だ」と口を開くと湯飲みを弄る手がぴたりと止まった。総司の双眼が俺を真剣な眼差しで見つめている。俺は飲み終えた湯飲みを隣に置いてから、徐にその答えを紡いだ。
「お前が置いていかなければ良いだけだ」
俺の言葉に総司は目を丸くして何度か瞬きを繰り返した後に、少し眉を下げて困ったように破顔した。そして後ろ手をつきながら晴れた空を見上げ、眩しさに目を細める。その横顔は妙に清々しい面持をしていた。
「一君には敵わないよ」
そう笑った総司は漸く湯飲みに手をつけ、既に温くなっているであろう茶を啜った。
(110407)
第三者から見た沖千が好きすぎる件について