照れ隠しは程々に




入学してすぐ、隣に座る緑色の髪に目を奪われた。
奇抜なはずのその色が彼にはとても馴染んで見えて、一つの作品のようだと感じた。
「彫刻みたいだね」と表現した私に、彼は「はぁ?」とでもいいたげな顔で睨んだ。
その顔が先ほどの例えとは真逆のもので、私はプッと吹き出した。
きっと、第一印象は最悪だっただろう。
それでも1年も経てば、一緒にバカできるくらい仲良くなれるのだから人生は面白い。



3月に入り、卒業式も終えて在校生の数がぐっと減った。
元々目立つ髪色は、さらに見つけやすくなる。
私が視界に入ったあの色を見逃すわけがなかった。

「巻島ぁ。」
「よぉ。」

ちらりとこちらを見て、軽く手を上げた。
そのまままた歩き出した巻島に、私は軽くタックルをかました。
ヒョロリと細いその体は、いとも簡単に前方へ飛んで行った。はずだった。

「ってぇ……何するショ!」
「呼んでんのに巻島がとまんないから。」
「てめぇら仲良いのはいいが程々にしとけよ。」

巻島の前方には縦にも横にもでかい田所くんがいて、いいクッションになったらしい。
二カッと笑うその姿はまるで商店街の元気なおじさんのようだと思う。
怒るから本人には言わないけど。
体勢を立て直した巻島は、少し髪をかきあげた。

「仲良いわけないっショ!」
「え、私普通に仲良しのつもりなんだけど。」

ちらりと見える細い眉やホクロが可愛くて、頬が緩む。
その顔をもっと近くで見たくて、巻島の左腕に自分の両腕を絡めて捕まえた。

「…………るショ。」
「え?何よく聞こえな」
「胸!当たってるっショ!」

空いた右手で顔を覆う巻島は、耳まで真っ赤だ。
こうやって照れる姿が可愛くて、ついいじめたくなってしまうのは仕方が無いと思う。

「当ててんだよ、って言ったらどーする?」

バッとこちらを見たかと思ったら、すっごい嫌そうな顔された。
ちょっと、私でも傷つくわよその顔。
頬を膨らませてみたら、両頬を親指と人差し指で潰された。

「いひゃい。」
「小鳥遊がバカなことしてるからショ。」
「バカひゃないもふ。」
「バカっショ。」

絡めていた腕を離すと、私の頬も解放された。
まだじんわりと痛い頬を撫でていると、巻島が何か言いたげにこちらを見ていた。

「なに、見惚れてた?」
「んなわけないショ。」
「なーんだ、残念。」

そう言いつつもずっと私を見続けていて、少し不安になる。
顔になんかついてたかな?

「巻島、なんか変だよ。」
「お前のせいっショ。」
「何もしてないじゃん?」

首を傾げて見せると、巻島は首の後ろあたりを押さえてる。
困ったとき時々するよね。
今は何に困ってるのかな、そう思っていたらぐいっと腕を掴まれた。
何も言わず歩き出す巻島に引きずられるように、私たちはひと気のない場所へと移動した。



「で、どうしたの。巻島なんか変だよ。」

移動したものの、私の手をつかんで離さない巻島は何も話してくれない。
何か話そうとしているのはわかるのに、それが何なのかがわからなくてもどかしい。
髪に隠れてしまった表情を確かめようとそっと髪に触れると、悲しげな目が私を見ていた。

「まき、しま?」

噛み締められた唇が白くなっていて、色っぽいと思うなんて。
きっと私はどうかしてる。
綺麗な白いその肌に吸い寄せられるように頬に触れると、巻島が口を開いた。

「誰にでも同じことするのかよ。」
「……何言ってんの?私がこんなことするのは巻島だけだよ?今更?」

また目が大きく見開かれた。
でもその瞳に先ほどの悲しみの色はなく、淡く喜びが見える。
口下手だけど、目は口ほどに物を言うってね。
巻島の目は、とてもおしゃべりだと思う。

「うそだ、とか思ってるでしょ。」
「……何でわかるんだよ。」
「私がどれだけ巻島好きだと思ってるの。バレンタインだってあげたじゃん。」
「ハッ?もらってないっショ!!」
「えっ?あげたよ!」

いつだよ、と聞く巻島に少し苛立ってきた。
バレンタインなんだから2月14日に決まってんでしょ、バーカ。
私はスマホのカレンダーを表示して巻島にみせた。
そこには自転車競技部の部活時間が記されている。

「2月14日、日曜日。部活は午前中だけ、でも巻島は自主練のためにお弁当持ってきてて、部室で食べてた。私がドアを叩くと中に入れてくれて、少し話してチョコ渡して帰った。」
「……小鳥遊がきたのは覚えてるショ。……どんなチョコだったんだ?」

目線を泳がせながら話す巻島は、慎重に言葉を選んでいるのだろう。
それでも忘れられていることが腹立たしくてつい口調がきつくなる。

「チロル!」
「ハァ?」
「チロルチョコ!巻島が食べたいって言ってた大学芋味。包装紙に好きって書いてあったでしょ。」

そう告げると、巻島の顔はみるみる変わっていく。
罪悪感と不安の色でいっぱいだったのに、今は呆れているようだ。

「そんっなのわかるわけないショ!しかもお前アレ差し入れっつったっショ!」
「面と向かって言えなかったから書いたんだよ気づけバカ!」
「包装紙なんてそんなマジマジと見ないショ!」

返事がもらえなかった理由がやっとわかった。
気づいてなかったなんて盲点だ。
これ見よがしにため息をつくと、巻島も同じようにため息をついた。

「チロル一個でバレンタインとか、義理だと思うだろ普通……。」
「巻島ならホワイトデーに本当に三倍返ししそうだから。三倍にされても高くないの選んだ。」

確かにな、そういって巻島はクハッと笑った。
いつもの巻島に私はホッとした。
そして一つの疑問が浮かび上がる。

「で、巻島は?」
「何がショ。」
「私は巻島がその……好きって言ったじゃん。で、巻島は?」
「それはその……アレだよ。」
「いや、ドレだよ。」

ごまかそうとする巻島の背中をバシンと叩いた。
巻島はよろめいたくせに、私に突っ込むどころか見ようともしない。
なんだか非常に腹立たしい。

「あー……今度の土曜日、空いてるか?」
「話そらさないでよ。」
「いいから答えるショ。」
「別に……何もないけど。」
「部活ねぇから、その……」

歯切れの悪い巻島がもどかしい。
私よりはるかに高い身長のせいで、目を無理やり合わせることもできない。

「何?振るならさっさとしてよ!長引かせる方が辛いんだからね!ホワイトデーには返事もらえるのかと思ってどれだけ待ったと、思っ……て……。」

泣きたいわけじゃないのに目からはボロボロと滴が落ちた。
涙を武器にするみたいなマネしたくないのに、拭うたびに次から次へと溢れてくる。
こんなみっともないところ、見られたくなかったなぁ。
巻島は俯いた私の手から、スマホを奪い取るとその画面を私に突きつけた。

「何、勘違いしてるんだよ。今週の土曜は……ホワイトデーショ。」
「へ?」
「ホワイトデーだから会おうっつってんだよ、その……礼もしたいショ。」

チロルの、と付け加えた巻島を見上げると顔が真っ赤になっている。
それってもしかして。

「付き合ってくれる、ってこと?」
「そういうけじめは俺がつけるショ!小鳥遊は黙って土曜開けとけばいいショ。」

そう言ってスマホを私に握らせると、巻島は教室へ向かって歩き出した。
慌ててあとを追うと、ちらりとこちらを振り返った。
見上げると、ゆっくり口をすぼめたあと笑うように横に開かれる。
なんて言ったか分からずに、その口元を真似てみる。
それを見た巻島はクハッ笑ってまた歩き出すした。
"スキ"、そう言ってくれたと思っていいんだよね?
だって巻島の顔が、真っ赤になっているから。



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いつも仲良くしてくださる友人の佐藤さんへ。
バレンタインにチロルチョコをもらったので、そのお返しホワイトデーのプレゼントです。
お気に召して頂ければ幸いです。








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