記念日




今年のホワイトデーは土曜日だ。
街にはデートするカップルで溢れかえるだろうし、当然私もデートだと思って楽しみにしていた。
なのに。
二つ年下の彼氏は部活が休みだというのに自転車にご執心で、私の部屋にきているというのに私そっちのけでメンテナンスを始めた。
一人暮らしだし部屋でメンテナンスしていいって付き合い始めてすぐ言ったのは私だけど、何も今日しなくてもいいじゃない。
私は不貞腐れてベッドに転がった。

「やっともくん。」
「ナァニ。」
「あとどれくらいかかるの?」
「30分くれぇ。」

こちらを見もせずに、黙々と作業を続けている。
今日が何の日だか、知らないんじゃないだろうか。
会いたいっていうのも私ばかりで、なんだか腑に落ちない。

「今日なんの日か知ってる?」
「知ってるヨォ。」
「何の日?」
「付き合って半年とホワイトデー。」

予想外の言葉に慌てて起き上がろうとして、私はベッドからずりおちた。

「ハッ、ナァニしてんだよ。」
「いや、だってまさか」
「覚えてると思わなかったァ?つーか雛美チャンが忘れてたんじゃナァイ?」

図星をつかれて何も言えない。
ホワイトデーだからと浮かれていたけど、付き合って半年なんてことはすっかり抜け落ちていた。
呆然としていると、靖友くんのスマホが震えた。
一度だけだから、通知か何かだろう。

「やっときたか。」

そう言って立ち上がると、靖友くんは片付けて手を洗いに行ってしまった。
まだ時間かかるんじゃなかったっけ?と思っていると、戻ってきた靖友くんはマフラーを巻き始める。
あれ……?

「靖友くん、どこいくの?」
「寮に戻んだよ。」
「え?どういうこと?」

慌てる私を見て、靖友くんは意地悪そうに笑った。
この顔は大好きだけど、時と場合によって私に致命傷を与える。

「寮入ってみたいって言ってたじゃナァイ?今日は寮母サンいねぇからくればァ?」

そう言って、自転車を担いで先に出て行ってしまった。
私は上着を羽織って慌てて後を追った。




「ねぇ、なんでうちでメンテしてたの?最初から寮に呼んでくれたら行ったのに。」

歩きながらそう尋ねると、靖友くんはちょっと眉間にシワを寄せた。
あ、まずいこと聞いたかもしれない。
これたぶんめんどくさいやつだ。

「新開の野郎がホワイトデーにデート誘ったら断られたとかで昨日の愚痴りにきやがったンだよ!深夜まで居座ったあげく俺の布団で寝やがった。」
「それで早くにうちにきたの……?」
「ソーダヨ。」

8時に電話が来た時は何事かと思ったけどそういうことか。
さっきの通知が何かの合図だったのだろう。
ぐちぐちと文句を言いながらも、靖友くんの足取りは軽い。
少し早くて、靖友くんの上着の袖をそっと掴んだら立ち止まった。
邪魔だったかと思って手を離すと、手をつないでくれた。

「雛美チャン。」
「うん?」
「その……プレゼントもちゃんと用意してるからァ。」

部屋も掃除したし、そう言って顔を真っ赤にしながら靖友くんはまた歩き出した。
今日という日が、まだまだ終わりませんように。








story.top
Top




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -