誕生日プレゼント
(福富寿一誕生記念)




もうすぐ、付き合って4回目の誕生日だ。
毎年この時期は頭を悩ませる。
寿一は物欲がないし、欲しいものを聞いてもりんごのお菓子だとか、およそ誕生日プレゼントには似つかわしくないものばかりを答える。
おかげで何度か衝突もした。
私と長く付き合うつもりがないから食べ物を選ぶんだと思って、泣いたこともある。
何度誘ってもキス以上をしてくれなくて、引っ叩いたこともある。
いつも私の空回りで、寿一を困らせている気がする。
それでも寿一は自分が至らなかったと私に謝るんだ。
悪いのはいつも早とちりの私なのに。
それでも一緒に居続けてくれる寿一に喜んで欲しくて。
私はまた、頭を抱えた。



大学生活もほぼ終わり、春からは社会人だ。
私も寿一も無事に就職先が決まっている。
仕事が始まったらゆっくりデート出来ないだろうと思い、久々に映画館に出かけた。

「ねぇ寿一は何観たい?」
「雛美が観たいので構わない。」
「もー、いっつもそれだよね。たまには寿一が好きなの選んでよ。」
「雛美が好きなのが観たい。」

そう言って少し赤くなる寿一。
4年も一緒にいるのにまだこんなことで照れる寿一が可愛くて、私は寿一の手を掴んだ。
寿一は私を見て、さらに赤くなる。

「じゃぁ怖いやつにして、ずっと手繋いでてよ。」
「……わかった。」

昔と違うのは、恥ずかしいことでも私がお願いすれば素直に聞いてくれること。
迷わずソファ型のペアシートを選ぶ私に困惑しつつも、上映中は手を繋いで寄り添って観てくれた。
意外と出来が良かったせいで、時々びっくりして強く握ってしまった時に小さく"大丈夫だ"と耳元で囁いてくれてとても幸せな気持ちになった。




映画を見終わり、一緒にぶらぶらと買い物をした。
出来るだけメンズの店に入ってリサーチするも、寿一はあまり反応が良くなかった。

「これとか、仕事始まっても使えそうじゃない?」
「そういうものは必要になってからでいい。」

怒っているわけじゃないのはわかってる。
でも提案するもの全てそんな感じで却下され続けて、段々イライラしてきてしまった。
誕生日プレゼント、下見したかったのに。

「せっかく一緒に買い物にこれたのに、寿一は欲しいものないんだね。」

ついトゲのある言い方をしてしまった。
言ってからまずいと気づく。
寿一を見ると、何やら言いたげだった。
きっとまた、寿一は悪くないのに謝るつもりだろう。
先手を打たなくては。

「ごめん、嫌な言い方した。ちょっと早いけど、ご飯いこっか。」
「あぁ。何が食べたい?」

いつだって寿一は私に優しい。
ごめんね、寿一。
私もっと、優しくなるから。




珍しく寿一の提案で、新開くんが勧めてくれたという個室居酒屋に来た。
少し薄暗いけど落ち着いた雰囲気のその店は、料理が美味しくてお酒の種類も豊富だった。

「ねぇ、次これ飲みたいー。」
「飲みすぎだ。」
「いいじゃん!卒業祝いってことで!」
「気が早いな。」

最後だぞ、そう付け加えて寿一はオーダーしてくれた。
やっぱり優しい。
寿一が大好きだな、そう思って見つめていると寿一と目があった。

「雛美。」
「なぁにぃ?」
「3月3日なんだが、空いているか。」
「うん!」

空いている、空けている。
それは寿一の誕生日なのだから。

「そうか。会えるか?」
「もちろん!」
「良かった。頼みがある。」
「頼みぃ?」
「今年、俺にプレゼントは買わなくていい。」
「え?」

今、なんて?

「毎年プレゼントしてくれて感謝している。ただ今年は買わなくていい。」
「どういう、こと?」

酔いが一気に引いて行く。
頭が真っ白になっていく。
もしかして私、嫌われた?

「理由は当日説明する。だが買わずにいて欲しい。」

意味がわからない。
涙か溢れて止まらない。
私、泣き上戸だったかなぁ。
寿一の顔が見れない。

「雛美?」

私を呼ぶ声が、冷たく感じる。
寿一が変わったの?
私が変わったの?
寿一が遠く感じられて、胸が痛い。

「ごめん、帰るね。」

一緒にいるのが辛い。
立ち上がるとお酒のせいかふらついてぶつかった。
だけど痛みはない。
顔を上げると、寿一に抱きとめられていた。

「大丈夫か?家まで送ろう。」
「ううん、いいの。大丈夫。一人で帰れるから……。」
「しかし……。」

寿一が触れている場所が熱くなる。
淋しい、悲しい、捨てないで。
言葉にできなくてぐっと飲み込んだ言葉。

「ひとりに、して。」
「……わかった。」

そう言うと寿一は財布からお札を出して私の手に握らせた。

「タクシーで帰れ。電車は使うな。」

そう言って店の外まで送ってくれた。
寿一の優しさが、私に突き刺さるようだった。




誕生日プレゼントがいらないということは。
別れを切り出されるんだろうと思った。
私たちは社会人になるのだ。
生活も随分変わるし、お互い忙しくなる。
会えない日も増えるだろうし、辛い日もあるだろう。
でも寿一とならやっていけると思っていた。
そう思っていたのは、もしかして私だけだったのかな。
寿一にとっては、私は足枷にしかならないのだろうか。
わがままばかり言って困らせたから?
寿一に優しくできなかったから?
甘えてばかりの私が面倒になった?
ぐるぐるとループして、頭から離れなかった。




気がつけば、あっという間に当日になってしまった。
寿一から時々連絡は来るものの、怖くてろくに話していない。
結局、プレゼントも買わなかった。
もし最後になるのなら、そう思ってアップルパイを焼いた。
寿一が美味しいと言ってくれたアップルパイ。
食べてなくなるものなら、受け取ってくれるよねーーー?




待ち合わせ場所にいくと、まだ15分前だというのにすでに寿一は待ってくれていた。
心なしか、いつもより凛々しく見える。
私が2年目にプレゼントした時計と、3年目にプレゼントしたコート。
今までを思い出して辛くなる。
うつむく私に、そっと手を差し伸べてくれる。

「大丈夫か?」

その手には、1年目にプレゼントした時計がつけられている。
大切にしてくれてたんだね。

「ありがとう、大丈夫。」
「そうか、では行こう。」

初めて、寿一からしっかりと手を繋がれた。
いつもは私がねだらないとしてくれなかったのに。
どうして優しくするの。
辛くなるよ。
寿一はいつもと変わらない。
去年と違うのは、この日のデートプランを考えたのが私で無いことだけ。

「桃が見頃だと聞いた。まずはそこへ行こう。」
「うん。」

少し頬の赤い寿一。
何を考えているの?
最後にデートだなんて、忘れられなくなるじゃない。



桃は本当に見頃で、とても綺麗だった。
色々と調べてきてくれたんだろう、寿一が説明してくれるけどいまいち頭に入らない。
ただ桃をバックにした寿一がすごく綺麗で、写真を一枚撮った。
思い出に一枚くらい、いいよね?

「雛美も一緒に写らないのか。」
「寿一だけでいいの!」
「そうか……。ならば俺が雛美を撮ろう。」

そう言って桃の木のそばへおいやられる。
うまく笑えないのに。

「雛美?」

不思議そうな寿一に、精一杯の作り笑顔を見せた。
そしてカシャッと無機質な音が響いた。




ランチは有名なパスタのお店だった。
前に行きたいと言ったことがあるのを、覚えていてくれたのだろうか。
店には予約がしてあり、程なく座ることができた。

「疲れただろう。」
「大丈夫だよ、ありがとう。」

にっこり笑って見せると、寿一は少し笑った。
私はこの顔が大好きだった。

「ごめんね、誕生日なのに色々とエスコートしてもらっちゃって。」
「構わない。それは俺の希望だ。」

パスタもデザートも、本当はとても美味しいのだろう。
でも今の私は、固形物を飲み込んでいる感覚だけしかわからなかった。
少しでも多く寿一との記憶を残したくて、寿一のことだけを見つめ続けた。




「動物園か水族館に行くつもりだったんだが、映画館の方がいいか。」

ランチを終えて公園で一休みしていると、寿一は私の顔を覗き込んだ。

「えっ?」
「少し疲れているんじゃないか。」

元気がない、と言いたいんだろう。
いつもの私なら飛び跳ねて喜ぶようなデートコースに、手を繋いでいるにもかかわらず私の表情はそれに相応しくないのだろう。
気を抜くと涙が溢れてしまいそうだ。

「大丈夫だよ、少し寝不足なくらいかな。」
「そうか、無理をさせてすまない。しばらくここで休もう。」

少し待っていろ、そう言い残して寿一は自販機へ向かった。
空を仰ぐと、私の心とは打って変わって晴れ渡っている。
こんなに素敵な一日なのに、私は素直に楽しめない。
ぼーっとしていると、頭をそっと撫でられた。

「何を考えている。」
「……何も?」
「そうか。」

変わらない優しい声色。
寿一こそ、何を考えているの?
聞くのが怖くて、声にはならなかった。




結局どこへ行くこともせず、だらだらと公園で過ごしてしまった。
日が暮れてきて、少し冷え込む。
手に息を吹きかけると、そっと寿一の手が私の手を包み込んだ。

「寒いか?」
「少しね。でも寿一の手が暖かくて気持ちいい。」
「そうか。でも体が冷えてしまうな。」

私の手をさすって、背中もさすってくれる。
冷えていた体に、寿一の温もりが気持ちいい。
だけど同時に、それが長くは続かないのだと悲しみに襲われる。
それを知ってか知らずか、寿一は私の手を引いて立ち上がった。

「夕食にはまだ早いが、どこかで暖まろう。」
「ごめんね、せっかくのプランだめにしちゃって。」
「構わない。元々少し無理のあるプランだった。」

そう言って歩き出す。
動物園も水族館も、きっと私の為に選んでくれたんだよね。
本当にごめんね。
いつもと違い、少し早歩きになっている寿一に半ば引っ張られるようにしてついていく。
きっと何か考えながら歩いているんだろう。
”その時”が近いのだと思うと、私の足は重くなるばかりだった。





「軽く何か食べるか。」

歩きながら店を探す寿一を見て、鞄の中身を思い出した。

「あ、アップルパイ焼いてきたの。食べない?」
「作ってくれたのか。」
「うん、食べる?」

寿一はこくりと一度だけ頷く。
目が嬉しそうなのを私は見逃さなかった。
焼いてきて、良かった。
外で食べるのも寒いし、持ち込めるカラオケに入った。
ドリンクをオーダーして、アップルパイを取り出した。

「良い匂いだ。」

目を閉じてスンスンと匂いを嗅いでいる。
一日持ち歩いてしまったけど形は崩れてない、良かった。
ケーキを取り分ける私の手元を、寿一はずっと見つめている。
もしかして、と思って大きい方を渡すと少し笑った。
それを見て私も笑ってしまった。

「大きい方が食べたかったんだね。」
「む、いやそんなことは……。」
「あるでしょ?」
「……雛美のアップルパイは美味いからな。」

そう言って照れる寿一はやっぱり可愛い。
頂きます、と手を合わせて、口に含む。
寿一の口元が綻んでいく。
言葉よりもわかりやすい。
喜んでもらえたようでホッとする。

「たくさん食べると夕飯入らなくなるよ?」
「これは別腹だ。」
「女子じゃあるまいしー。」

クスクスと笑うと、寿一の顔は真っ赤になっていく。
それでもアップルパイを食べるのをやめないのが、余計おかしかった。
ねぇ寿一。
もっとアップルパイ作るの上手になるよ。
寿一の好きな物たくさん作れるようになるよ。
その言葉を、アップルパイと一緒に無理やり喉の奥へと押し込んだ。





カラオケを出ると、すっかり夜になっていた。
寿一に連れられるまま予約した店に向かう。

「どこの店予約してくれたの?」
「行けばわかる。」

寿一はずっとこの調子で教えてくれない。
でもこっちの方ってそんなお店あったっけ……?
暫く歩くと大きなホテルが見える。
ここって確かこの前雑誌で見た高級ホテル……。
寿一は迷わずそのホテルに入っていく。

「え、ちょ、まって!?」
「どうした。」
「予約って、ここ!?」
「そうだが。」
「いやいや、ここすごく高いよ!」
「俺が支払う。問題があるのか?」

何か不満があるのか、と続ける寿一に何も言い返せない。
寿一が何を考えているのか全く分からない。
最後だから贅沢に?
それにしたってなんだかおかしい。
そんな私をよそに、寿一はずんずん進んでいく。
もしかして少しきちんとした服を着ていたのはこの店のため?
ワンピースを着てきたけど、もっとちゃんとした服を着ればよかった。
そう思っていると、椅子を引かれて座るように促される。
コースを頼んでいるようで、ドリンクメニューだけ渡された。
それを眺めていると、寿一が口を開いた。

「大事な話がある。」
「うん?」
「悪いが今日はアルコールは控えてくれ。」
「ワイン飲むな、ってこと?」
「そうだ。」

私も寿一もそれほど強くない。
グラス一杯ですら、たぶん私はヘロヘロになるだろう。
むしろ、ヘロヘロになったら別れ話聞かなくていいんじゃ?なんて考えが頭をよぎる。
でも寿一がこんなに真剣なんだ、私だけが逃げちゃいけない。
そのために今日を楽しもうとしたんだもん。
寿一の言うとおりに、私はソフトドリンクを頼んだ。
料理が順々に運ばれてくる。
いつその話が始まるのかとそわそわしてしまう。
寿一も落ち着かないようで、グラスにフォークをカチャンとぶつけていた。
魚料理が終わり、ソルベが終わり、肉料理も終わる。
寿一の口から出るのは、今日の話と料理の話ばかりだ。

「たまにはこういう料理もいいな。」
「うん、そうだね。初めて食べたけど美味しいよ。」
「そうか、それはよかった。」

本当は味なんてあまりわからない。
味覚が酷く鈍っているようで、ただ食べる作業をしているようでもったいないと思う。
それでもこれから訪れるであろう悲しみを思うと、やっぱり味わうことが出来なかった。
料理も大方終わり、デザートが運ばれてくる。
おしゃれなアップルパイが出てきて、少し笑ってしまった。

「これ、寿一のリクエスト?」
「いや、リクエストはしていない。」
「偶然?」
「あぁ。」

そう言ってそっと口に運ぶと、私のよりずっと美味しい。
さっき食べたばかりだ、いやでも比較してしまう。
失敗したなぁ、そう思って寿一を見ると口に含んだまま止まっていた。

「どうかした?」
「いや。」
「美味しいよ?」
「そう、だな。」

大好きなアップルパイのはずなのに、どうも寿一の進みが悪い。
どうしたのかと思っていたら、寿一がぽつりとこぼした。

「俺は雛美が作ったほうが好きだ。」
「なっ……。」

何て事をいうんだろう。
でも寿一は真剣そのもので、きっとそれは本心なんだと思う。
そう思うと顔が熱くなってきた。
私が手を止めていたのが気になったのか、寿一に呼ばれた。

「雛美、大丈夫か。」
「う、うん。」
「無理して食べることはない。」
「大丈夫だよ、美味しいし。」

もうすぐデザートも終わる。
食事自体が終わってしまう。
いつになったら”大事な話”が始まるんだろう。
私の頭の中はそれでいっぱいだった。





レストランを出ると、そのままエレベーターに乗せられた。
寿一は緊張しているのか、表情が硬い。

「ねぇ、どこにいくの?」
「部屋を取ってある。」
「え?」
「何も聞かずに今はただついてきてほしい。」
「……わかった。」

エレベーターはどんどん上がっていく。
一体何階まで行くのだろう。
最上階につくと、寿一は私の手を引いて歩き出した。
ゆっくりとしたその歩調は、私を緊張させるのに十分な時間を作り出した。
部屋に入ると、とても広い。
噂に聞くスイートルームというやつだろうか。
寿一はなぜこんな部屋を?
そう思っていると、コートを脱がされソファに座るよう促された。
隣に、寿一がそっと腰かける。

「大事な、話がある。」

ゆっくりとそう言った寿一の言葉で私の涙は溢れてしまった。
きっと別れ話をされる。
私はこんなにも寿一を必要としているのに。
それがただ悲しかった。

「雛美?どうした。」

慌てる寿一をよそに、私は涙が止まらない。
寂しくて悲しくて、寿一に抱き着いた。
寿一は背中に手をまわしてポンポンと叩いてくれる。
その優しさが余計、辛くなった。

「寿一ぃ……。」
「どうしたんだ。」
「別れたくないよぉ、もっと努力するからっ、だから、お願いっ……。」

捨てないで、必死に絞り出した声は寿一の耳に届いただろうか。
抱きしめていた手が外され、向き直させられる。
寿一の顔が見れない、怖い。

「何を勘違いしているんだ。」
「ふぇ?」

寿一の声に、変な返事が出た。
勘違い、ってなんだろう。
顔を上げると、寿一は目を丸くしている。

「雛美は何か勘違いしている。俺の話を聞け。」
「は、はい。」

そう言って袖で涙を拭ってくれた。
涙でぐちゃぐちゃの顔が恥ずかしくて俯くと、寿一の手が頬に触れた。

「俺を見ろ。」

そう言って顔を上げさせられる。
いつになく真剣な目。
いつだったか、前にもこんな顔を見たことがある気がした。

「雛美。」

優しく名前を呼ばれる。
心地いいその声に、酔いそうだ。
寿一は一度深呼吸して、私を見つめなおした。

「結婚して欲しい。」

予想外の言葉に、私の頭は真っ白になる。
今、なんて?
何も言えずにいると、寿一は私の手に何かを握らせた。
手元を見ると、小さなジュエリーボックスがある。
寿一は、それをそっと開いた。
中にはキラキラと光る石のついた指輪が入っている。
大事な話って、このこと?
じゃぁなんでプレゼント断ったの?
理解が追い付かずに寿一と指輪を交互に見ていると、寿一は困ったように言った。

「返事を、聞かせてくれないか。」

答え何て決まっている。

「よろしく、おねがいしまっ……」

涙が止まらない。
最後まで言葉にしたいのに、ちゃんと言葉にならない。
何度も言いなおそうとする私を、寿一は強く抱きしめてくれた。
ホッとしたように、寿一がつぶやく。

「ありがとう。」

中々泣き止まない私に、寿一はゆっくりと言葉を降らせた。

「心配させて、すまない。」
「プレ、ゼント。いらないって、そう、言ったからぁ……。」
「プレゼントに、雛美のその言葉が欲しかった。」
「バカ……。」
「バカで構わない、雛美がいてくれるのなら。」
「何で、今なの……。4年目、だから?」
「卒業するからだ。」
「就、職した、から?」
「そうだ。雛美のすべてに責任を取る。」

何て不器用な人なんだろう。
寿一が愛しくてたまらない。
しがみつくと、頭をそっと撫でて腕を離された。
名残り惜しくて寿一を見上げると、おでこに軽くキスされた。

「愛している。」
「わた、しもぉ……」

初めて寿一から深い口づけをされる。
優しくて丁寧で、少し控えめなところが彼らしい。
息をしようと少し離れると、後頭部に手を回されて捕まった。
逃がしてもらえない、それでもこんなに求められることが嬉しくて。
どれくらいそうしていただろう、最後に軽くおでこにキスされた。

「雛美。」
「なぁに?」
「結婚するまでは大切にする。だから」
「うん?」
「今日は一緒に泊まってくれないか。」

真っ赤になりながら俯いて寿一はそう言った。
”結婚するまでは大切にする”なんて本当に彼らしい。
返事なんてもちろん決まっている。

「一緒のベッドで寝るんだからね。」

寿一、大好きだよ。




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福富先輩、おめでとうございます!

      2015.3.3 灰色狛




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