未来を君と/鳴子誕生日記念




楽しいことのあとに訪れる、喪失感や虚無感が苦手だった。
楽しい時間がずっと続けばいいと思う反面、そうはいかないことを知っていた。
だから私は平凡を求めた。
起伏の少ない日常は、私をワクワクはさせてくれないけど悲しみも感じない。
そんな普通の毎日で良かったのにいつからだろう。
私のクラスに、あの子がやってくるようになったのは。




今日もまた、あの元気な声が教室に響く。

「雛美さーん!はよーございまーす!」

上級生のフロアでも堂々とやってくるその姿には少し感心するけど、こう毎日だと驚きも薄れる。

「おはよ、今日も元気だね。」
「そりゃ雛美さんに会えたら元気になりますわー。」

カッカッカと笑いながらそう言われても、本当かどうか分からない。
なぜ気に入られたのかはわからないけど、鳴子くんはもう2ヶ月もこの調子だ。

「今日も会えて何よりっすわ!あ、せや。昨日ゲーセンでようけ取ったんで、良かったらどうですか?」

そう言ってポケットから飴玉を幾つか取り出して、私に差し出した。
私はその中から赤い飴を一つもらうと、お礼を言った。

「ありがと、もらうね。」
「雛美さん、赤好きなんすか?」
「うん?あー、イチゴ味かと思って赤にしたんだけど。色で言えば赤は好きな方だよ。」
「ほなワイと同じっすわ!ほら、髪も」

そう言ってニコニコ笑う姿は、何だか私をワクワクさせた。
なんだか鳴子くんといると、自然と笑顔になってしまう。
いつもニコニコと笑うのが移ってしまうんだろうか。

「やっぱ雛美さん、笑とる方がええですわ。」
「え?」
「せっかく可愛いんやから、もっと笑ろたらどうですか。」

しれっとそんなことを言う鳴子くんと対照的に、私は真っ赤になってしまった。
可愛いなんて言われたの初めてだ。
ドキドキと高鳴る胸が、締め付けられるように痛んだ。
なんだろう、これ。

「すぐに赤くなるとこも、ワイは好きやけど……」

鳴子くんはそう言うと視線を伏せて、頬をぽりぽりと指で掻いた。
何やら言いづらいのか、ポソリと小さな声で零した。

「あんま他のやつに見られたくないっすわ。」

髪と同じくらい顔を赤くした鳴子くんに、つられて私も恥ずかしくなってきた。
えっと、それって、つまり……。

「えっと、あの、私っ」
「すんません!急ぎましたわ!ゆっくりでええから、ワイのこと考えてもらえません?」
「ち、違うの!待って、私……。」

悲しそうな顔に胸が痛む。
ずっと気づかない振りしてた。
鳴子くんの気持ちにも、自分の気持ちにも。
鳴子くんが来てくれる毎日は楽しくて、ワクワクさせてくれた。
いつしか来てくれるのが楽しみになっていた。
だけどそれに気づいてしまったら失うんじゃないかって怖かったんだ。
でも、もうそんなのどうでもいい。
失う「かも」な未来より、満たされると確信できる今が欲しい。

「もっと、仲良くなりたいから、その……」
「待ってください!それ言うたらあかんやつでしょ!」
「へっ?」
「そういうのは男がしゃんとせなあかんでしょ、だから言わんといてください。」
「え、でも私……。」

戸惑う私に、鳴子くんはニッと笑った。

「初めて見た時から好きでした、付き合ってください。」

真っ直ぐな瞳はまた私の顔を染めて行く。
頷くことしか出来ない私に、鳴子くんは嬉しそうに笑ってくれた。
その時やっと、教室のど真ん中だったことを思い出す。
あちこちから好奇の声が響く中、ひときわ大きな声が耳にはいる。

「おう鳴子、通ったかいあったじゃねぇか。」
「オッサン!」
「オッサン言うな!」
「オッサンはオッサンでしょ。」
「うるせぇ!小鳥遊、こいつは小せぇけど悪い奴じゃねぇ。よろしくな。」
「え、あ、うん。」
「小さいは余計でしょ!あと二年もすればでっかい男になって……。」

田所くんに噛み付くように話す鳴子くんは、いつものにこやかな雰囲気とは違って新鮮だった。
仲が良さそうなその姿に少し嫉妬しそうなくらいだ。
いつか鳴子くんと私も、あんな風にじゃれ合うことができるだろうか。
鳴子くんが私にしてくれたように、ワクワクさせることが出来るだろうか。
平凡な日々とサヨナラを、新しい毎日をあなたと。



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鳴子章吉くん
お誕生日おめでとうございます!



2015.08.28 灰色狛


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