言葉よりも君が欲しい(東堂尽八誕生日記念)
いく度となく迎えてきたこの時間、いつも最初に祝ってくれるのは幼馴染の雛美だった。
日付を超えた瞬間に届くメッセージは、もう何年目だろうか。
そんな雛美を愛しく思い始めたのは、もう随分前な気がする。
薄れることのない思いは伝えることができずにいた。
照れと今更という思いが俺の中で入り混じり、いざとなると言葉にならない。
そんな俺を知らずに、柔かに笑う雛美には一体誰が写っているんだろう。
今年こそ、その思いは俺を奮い立たせた。
8月7日、23時50分。
もうすぐ日付が変わる、そんな時間に着信音が響いた。
「む、どうした。」
「あ、尽八?今ちょっと出れる?」
「出れないこともないが……どこにいるんだ?」
「部屋の前だよ、窓から見て。」
慌てて窓から外を見れば、雛美がにっこり笑って手を振っていた。
こんな時間に一人で外にいるなんて!
俺は慌てて外へ飛び出した。
「な、なにをしている!」
「お祝いしに来た!」
「なっ……こんな夜中に来なくてもいいだろう。」
「だって私が一番に祝いたいもん、去年は負けたでしょ?」
そう言って雛美は口を膨らませた。
そういえば去年は新開がフライングしたんだった。
でも確か、誕生日に一番に祝ってくれたのは雛美だったはずだ。
「お前のそれには、フライングもカウントされるのか?」
「もちろん!だから今年は一番になりたくて。」
嬉しそうに笑い、そう告げる雛美は自分がどれほど俺を惹きつけるか気付いてないんだろう。
そんなこと言われたら、期待するだろう。
同じ気持ちなんじゃないかと、思いたくなるだろう。
ごそごそと手荷物を漁り始めた雛美の手をつかむと、俺は真っ直ぐと見据えた。
「今年は欲しいものがある。」
「あー、高くないものならいいよ。今年はこれ買ってあんまり残ってなくて。」
そう言って取り出したのは、綺麗にラッピングされた紙袋だった。
「誕生日きたら渡すから、あと五分待ってね。」
にこにこと笑う雛美はとても楽しそうで、告げるのをためらってしまう。
それでも今告げなければ、また一年何も言えずになりそうだ。
俺は小さく深呼吸して、もう一度頼んだ。
「欲しいものに金はかからん、今すぐほしいのだ。」
「へ?なに?」
「雛美が欲しい。俺のものになってくれ。」
言ってしまった。
関係が壊れるかもしれない不安よりも、想いが勝ってしまった。
体が熱く、中から湧き出てくるようだ。
そんな俺を見て雛美は泣いていた。
とても難しい顔をして俺を睨みつけていた。
「……ばか。」
「なっ、何故だ!振られるならまだしもばかとは」
「ちゃんと誕生日になってからお願いしてよね!」
その時、誕生日にセットしていたであろう雛美のアラームが鳴り響いた。
ハッピーバースデーの曲それは、二人の間で流れ続ける。
「尽八。」
「な、なんだ?」
「これ、開けて。」
渡されたプレゼントを開くと、グローブに手紙が添えられていた。
"プレゼントが気に入ったら私と付き合って"
可愛い文字で書かれたそれは間違いなく雛美の字だった。
視線を手紙から雛美に移すと、不安そうな顔で俺を見上げている。
「読んだ?」
「あぁ。……雛美からのプレゼントが嬉しくないわけないだろう。」
嬉しそうに笑う雛美の目尻には涙が光っている。
先程までは悲しみに見えたそれは、今は喜びに満ちている。
愛しくてたまらないその姿に思わず抱きしめると、優しい声が染み渡る。
「誕生日おめでと。来年も一番になるからね。」
「あぁ。ありがとう。」
心を満たすこの思いが幸せというのなら。
どうか雛美も同じ想いでありますように。
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東堂尽八くん
お誕生日おめでとうございます!
一日遅れてしまい申し訳ないです…。
2015.08.09 灰色狛
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