遠回り(巻島祐介誕生記念)




じっとりとした梅雨が続き、湿度と温度の上昇で教室は蒸し風呂のようだった。
手入れは怠っていないはずなのに毛先はうねり、その湿度からか肌に張り付くのが鬱陶しい。
連日の雨で練習もままならず、俺は不貞腐れていた。

「今日も雨かよ……。」

窓の外を見ると黒い雲が空を覆っていて、うるさい程の雨音が癇に障る。
一向に止みそうにない様子に、俺はため息をついて雑誌を取り出した。
もう何度目かもわからないグラビア雑誌は、正直少し飽きてきた。
そんな俺の肩を誰かが叩いた。
振り向くとそこにはクラスメイトの小鳥遊が嬉しそうな顔をして立っていた。

「おはよ、巻島。」
「おう、はよっショ。」

席が近いのもあり何かと話すことは多いが、ここのところやけに絡んでくる気がする。
ただそれは嫌な意味じゃなく、話すのが苦手な俺にとってはありがたい存在でもあった。
適当に返事をしても、返事をしなくても嬉しそうにいつも話しかけてくる。
そんな関係が気楽で、楽しくもあった。
小鳥遊は椅子をまたぐようにして俺の前の席をへ腰掛けると、身を乗り出してニヤリと笑う。

「今日さ、何の日か知ってる?」
「あぁ、七夕っショ。」

黒板をちらりと見れば、今日が何の日かなんて嫌でもわかる。
けどそう答えた俺を見て、小鳥遊は首を横に振った。

「確かに、確かに七夕だけどさ。もっと大事な日なんだけどなぁー。」
「何がだよ。」
「本当に忘れちゃったの?」
「忘れるも何も、普通今日は七夕以外の何物でもないショ。」

呆れたように言うと、小鳥遊は頬を膨らませた。
そしてポケットから小さな包みを取り出して、俺の机にそっと置いた。

「巻島、今日誕生日でしょ。」
「……なんで知ってんショ。」
「前に生徒手帳拾った時に見た。」
「あんなの少しだけだったショ?よく覚えて」
「だって巻島のだし。」

俺の言葉を遮って、小鳥遊は少し声を荒げた。
その言葉の意味がわからないまま固まる俺に、小鳥遊はまた頬を膨らませた。

「誕生日、おめでと。あと……」

先ほど机に置いた包みを持ち上げると、俺の手の中に置いた。
それはどうやら俺へのプレゼントだったらしく、裏に"巻島へ"と可愛らしい文字で記されていた。
お礼を言おうと顔を上げると、すでに立ち上がった小鳥遊から信じられない言葉が降ってきた。

「生まれてきてくれて、ありがと。」

小鳥遊はそれだけ言うと、逃げるように教室から出て行ってしまった。
そんなことを言われたのは産まれて初めてで、どんな顔をしていいかわからない。
顔が熱くてたまらない。
一体、何考えてるんだよアイツは……。
そう思いながら開けた包みの中は、前に小鳥遊が着けていたのと同じミサンガだった。
色合いが独特で、どこで売っているのか聞いたら自作だって言ってたよなぁ。
……俺のために作ってくれたのかよ。
材料費が高いってごねてたくせに。
素直じゃねぇな、そう思いながらも取り出すと何かが足元に落ちた。
拾い上げてみればそれはメッセージカードで、袋にあったのと同じ可愛い文字で俺宛のメッセージが書かれていた。

"巻島の支えになりたい"

それは素直じゃない小鳥遊らしい言葉だった。
他のやつから見れば、ただの応援かもしれない。
だけど俺にならわかる。
あの言葉に、ミサンガに、メッセージ。
小鳥遊が帰ってきたら、なんて声をかけようか。
とりあえずあれだな、まずはーーー。

好きを、君に。


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巻島さん、おめでとうございます!

      2015.7.7 灰色狛


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