ゼラニウム
(待宮栄吉誕生記念)


※捏造が多々含まれます。
※アニメ派の方にはネタバレが含まれます。


私は昔から騙されやすかった。
疑うことが苦手だったし、疑って関係をダメにするのが怖かった。
だからいつも信じて、騙されて、裏切られて。
そんなことを何度も繰り返しているのに、私は変わることができなかった。
"そのままでは社会に出られない"そう言われつつも、私はとうとう大学生になった。




わからないことだらけで慌ただしく過ぎて行く毎日。
サークルも特に入りたいものがない。
こんなので本当に大学生活が楽しめるのかと不安になった頃、私はある人に出会った。
赤みがかった髪に少し細い目、大きな声はよく通りその独特な口調は目を引いた。
いつも友達と楽しそうに歩くその姿に私は心を奪われた。
一緒の講義があるわけでもなく、時々すれ違うだけのその人に私はいつしか恋をしてした。
声が聞こえるたびに目で探してしまう。
見かけるたびに胸が高鳴って、きゅっと締め付けられた。
友人から"待宮"と呼ばれるその人が先輩だとわかるのにそう時間はかからなかった。



しばらくして、私に転機がやってきた。
待宮先輩と仲のいい金城先輩と仲良くなることが出来たのだ。
キッカケは私の自転車のパンクだった。
立ち往生していた所を、金城先輩が直してくれたのだ。
それ以来構内で見かかるたびに声をかけた。
金城先輩は待宮先輩と荒北先輩の3人で居ることが多く、自然と私はみんなと仲良くなっていた。
そんなある日、金城先輩が私に声をかけてくれた。

「ちょっといいか。」
「はい、大丈夫ですよ。」

促されるまま私は外のベンチに腰掛けた。
金城先輩がジュースを二つ持って戻ってくると、私に一つ渡して隣に座った。
いつになく神妙な面持ちの金城先輩は、少し言い辛そうに口を開いた。

「小鳥遊は……待宮が好きなのか?」

突然の言葉にびっくりしてジュースを落としそうになった。
それを見て少し笑った金城先輩は、困った顔をする。

「驚かせてすまない、その……少し気になってな。」
「い、いえ……私ってそんなにあからさまですかね……。」
「待宮がいる時は声のトーンが違うな。」

くすくすと笑う金城先輩は、手にしていたジュースを一口飲むと待宮先輩の話をしてくれた。
部活は茶化しながらも真面目だけど、女性関係は少し派手なことを心配しているようだった。
待宮先輩が軟派なのはわかっていたつもりだけど、金城先輩からそれを聞くと胸にトゲが刺さった。
何とか笑って金城先輩にお礼を言うと、私はその場を後にした。




金城先輩からあの話を聞いてから、私の中でトゲは痛みを増していた。
好きでいたらもっと傷つくかもしれない。
それでも待宮先輩を諦めることができない自分に気づいてしまった。
モヤモヤとした思いはきっと一人ではどうしようもない。
それならいっそ思いを伝えようと、私は待宮先輩を訪ねて部室のドアを叩いた。
中から出てきたのは荒北先輩で、私を見ると金城先輩を呼ぼうとしてくれた。
それを断り待宮先輩を呼んで欲しいと頼むと、不思議そうに首を傾げた。

「待宮ァ?悪ィけど、あいつまだ来てねェよ。」
「今日はお休みですか?」
「何にも聞いてねェし、もうすぐ来るんじゃねェ?」

そう言う荒北先輩にお礼を言って振り返ると、ちょうど待宮先輩がこちらに向かって歩いてきていた。
隣には綺麗な女の子がいて、とても仲が良さそうな雰囲気に胸が痛い。
それを見た荒北先輩は待宮先輩を呼んでくれた。

「待宮ァ、お前に用だって。」
「ワシ?金城じゃないんか。」

不思議そうにしながらも待宮先輩は女の子と別れて、私のところに来てくれた。

「どうしたんじゃ?」
「あの、ちょっとお時間頂いてもいいですか……?」
「部活始まるまでやったらえーよ。」

そう言ってくれた待宮先輩にお礼を言って、ひとけのない場所まで一緒に歩いた。
いつもはおしゃべりな待宮先輩が何も言わないということは、私の行動が読めているのかもしれない。
そのことに少し不安を感じながらも、私は待宮先輩に向き直った。
待宮先輩はただ真っ直ぐに私を見つめていて、それがとても恥ずかしい。
それでも思いを伝えるため、私は口を開いた。

「私、待宮先輩のことがずっと好きでっ……付き合ってください。」
「えーよ。」

あっさりと返された返事にぽかんとする私の手を取って、待宮先輩は軽く口付けた。

「ほいじゃ雛美ちゃんは今日からワシの彼女じゃ。」

にっこりと笑うその顔を私はまともに見ることができない。
恥ずかしくて嬉しくて心臓が爆発しそうだ。
待宮先輩はそんな私を見てニヤリと笑い、手を繋いで部室の方へ歩き出した。
ちょうど荒北先輩と金城先輩が部室の外で話をしていて、こちらを見て2人とも目を丸くした。
何か言いたげな二人に軽く挨拶をして、私は待宮先輩に頭を下げると逃げるようにその場を後にした。



それから待宮先輩は毎日連絡をくれた。
カッコいいのにマメだなんて、モテないわけがなかった。
私以外の子とも良く連絡を取っていて、一緒にいても他の子が良く声をかけてきた。
それを嫌だというのは自分が子供っぽく見えて口に出来ずにいた。
大人の付き合いがどういうものなのかは知らない。
それでも待宮先輩を束縛するようなことはしたくなくて、私は何も言えなかった。
一緒にいる時はとても楽しかったし、待宮先輩は私を笑わせてくれるのが上手かった。
会うたびに可愛いと褒めてくれたし、好きだと言ってくれた。
そんな付き合いがしばらく続いて、私は幸せだった。
そのはずなのに、独占欲はどんどん強くなるばかりだ。
そんな時、待宮先輩が他の子に抱きつかれているのを見てしまった。
嫌がるそぶりもなく、少し困った顔をしながらその子の頭を撫でるその姿に私は頭が真っ白になった。
好きだと言ってくれたのに。
その言葉は私だけのものじゃなかったのかも知れないという思いが私を占領していく。
溢れる涙は拭う意味すらないほどボタボタと滴っていく。
気がつけば私は走り出していた。
頭の中がぐちゃぐちゃでよくわからない。
走って、走って、気がついたら部室の前にいた。
こんなところにいたら待宮先輩に見つかってしまう。
踵を返すと、金城先輩がそこにいた。
慌てて顔を伏せたけどそんなの無意味だ。
金城先輩は私に駆け寄り、ハンカチを貸してくれた。

「すみ、ません……。」
「気にするな。待宮か?」
「あ、いえ……。」

待宮先輩に何かされたわけではないから、なんと説明していいかわからなかった。
そんな私の手を引いて、金城先輩は少し離れたベンチに座らせてくれた。
"何でもいいから話してみろ"という言葉に甘えて、私はさっきの出来事を順に話した。
金城先輩は最後まで何も言わず聞いた後、私の手を取り立ち上がった。

「待宮のところへ行くぞ。」
「え!無理です、こんな顔じゃ会えないですっ。」
「いいから。」

私は半ば引きずられるように歩き出した。
途中で金城先輩は待宮先輩に電話して居場所を聞いていた。
本当にこの顔のまま、このぐちゃぐちゃな思いのまま会うことになるのか。
そう思ったら足が動かなくなった。
怖い。
嫌われるのも、決定打を与えられるのも、呆れられるのも。
何もかもが怖い。
そんな私を諭すように、金城先輩は頭を撫でてくれる。

「大丈夫だ。」

その言葉の真意はわからない。
だけど金城先輩の優しさは知っている。
私はその言葉を信じることにした。




しばらく歩くと、待宮先輩の声が聞こえてきた。
何かもめているようなその声の相手は女の子みたいだ。
またあんな光景を見てしまったら……そう思うと胸が痛い。
それでも金城先輩に連れられて、私は歩みを進めた。
角を曲がってすぐに、待宮先輩と目が合った。
にこりと笑うその顔が今は辛い。
顔を伏せた私の手を握ると、待宮先輩は先ほどから話していた女の子に向き直った。

「わしゃぁこの子と付きおうとるんじゃ。だからもう遊んだりできん。」
「今までは他の子とも遊んでたのに!なんで急にダメになったの?その子が何なのよ!」
「雛美ちゃんは遊びと違うんじゃ。大事にしたいんじゃ。」

その言葉に驚いて待宮先輩を見ると、私を見てニッと笑った。

「みっともないとこ見せて悪いのぅ。」
「そんなっ……待宮先輩はいつも、かっこいいです。」

嬉しくて溢れてしまった涙は、待宮先輩の少しゴツゴツした指で拭われる。
それが嬉しくて、私の涙はさらに溢れて行く。
そんな私たちを見て、女の子はどこかへ行ってしまった。

「あの、ごめんなさい。私っ……。」
「金城からちーと聞いたからもうええ。心配させてすまんかったのぅ。」

そういいながら待宮先輩は私の頭を撫でてくれた。
金城先輩の"大丈夫"の意味がやっとわかった。

「ほんとに、ごめんなさい。」
「もうええて。」

何かお詫びを、そう何度言っても頑なに断られてしまう。
勝手に勘違いして、待宮先輩を疑ってしまった。
待宮先輩の言葉をそのまま信じて受け入れられなかった自分が恥ずかしい。

「何でもやりますっ。だから何か……何かさせてください。」
「そうじゃのぅ……ほいじゃ、"ミヤくん"て呼んでくれんか?」
「……へっ?」
「雛美ちゃんいつまでも待宮先輩じゃけぇ。ワシら付きおうとるんじゃろ?」

確かに付き合って結構経つけど、呼び名を変えるのはなんだか恥ずかしくてずっと変えずにいた。
指摘されて初めて、待宮先輩がそれを気にしていたのだと気づかされた。
お互い少しすれ違ってしまっていたらしい。
"付き合ってる"その言葉が、私には嬉しくてたまらなかった。

「ミ、ミヤくん。」
「なんじゃ?」
「……大好きっ。」
「ワシも雛美ちゃんが好きじゃ。」

目を細めてニッと笑う待宮先輩につられて私も笑った。
一人で突っ走ってごめんなさい。
もう疑うことはしない。
ミヤくんなら、信じられるから。



+++++++++++++++++
「金城、何で小鳥遊のこと気にかけてンのォ?」
「素直でまっすぐで他が見えないところが、あいつに似てないか?」
「アー、わからなくもねェな。」



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ゼラニウムの花言葉は「信頼」「尊敬」です。
かっこいい先輩に憧れる、そんな思いを詰めました。
待宮くん誕生おめでとうございます!


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