しあわせのカタチ


「今度の土曜日、あいてるか?」

そうにこやかに話しかけてきたのは隼人だった。
2歳年下だというのに体はもちろん、最近は態度も心なしか大きい気がする。
それでも嫌な気がしないのは、隼人がそれ以上に優しくて気が利くからだろう。

「ん、あいてるよー。うちくる?」
「いや、連れてきたいとこあるんだ。」

自転車競技部に入っている隼人は部品とかに結構お金がかかるみたいで、普段はあまりお金のかかるデートはしないのだけど。
どこかいい公園でも見つけたのかもしれない。
私は二つ返事で快諾した。





土曜日の朝、いつもより少し早く起きて支度を始めた。
新作のシャドウとチークでいつもより甘めのメイクをして、新作のスカートを履いた。
少し歩いてもいいように低めのパンプスを探しているところでスマホが鳴った。

「もしもし?」
「あ、俺だけど。少し早く迎えに行っていいか?」

隼人は楽しみで早起きしてしまったという。
準備もほとんど終わっているし、大丈夫かな。

「いいよ、何時ごろ?」
「ん、今。」

クスリと電話口で笑い声が聞こえたかと思うと、インターホンが鳴る。
電話口でも同じ音がして、慌ててドアを開けた。

「隼人!?」
「おはよう、雛美。」

にっこり笑った隼人は、ゆっくり私を引き寄せておでこにキスしてくれた。
いつもよりオシャレをしているのは隼人も同じで、すごくかっこいい。
ぎゅっと抱きつくと、しっかりと抱きとめてくれた。
この大きくて暖かい体に抱きしめられるとホッとする。

「もう準備終わってたのか?早いな。」
「うん、あとパンプス探してて……上がって待ってて?」
「パンプス?これじゃダメなのか?」

足元のパンプスを指差すと、隼人は不思議そうに聞いてくる。
それはいつも履いているヒールの高いものだった。
私は首を横に振った。

「今日歩くかと思って、ヒール低いやつ探してるの。どこかにしまったはずなんだけど……。」
「今日はそんなに歩かないから、これ履いて行けよ。」

そう言いながら私の顎に手を添えて、キスしてくる。
初めはあんなにぎこちなかったのに、いつの間にかこれが普通になりつつあるのが少し怖い。
それでもキスの後に優しく微笑む隼人が大好きで、私は拒むことができない。

「グロスついちゃうよ。」
「グロスくらい拭けばいいさ。いつもより明るい色だな、良く似合ってる。」

撫でられた頬が紅潮するのがわかる。
もう、本当に年下なのかわからなくなる。
隼人に促されて、そのまま勧められたパンプスを履いた。
そっと差し出された手を握って、私たちは出かけた。



私の手を引いて、隼人はにこにこと前を歩いて行く。
私がいくら行き先を聞いても、笑ってごまかされてしまった。
街はホワイトデーのせいか恋人同士でいっぱいで、私たちもその一部なんだと思うとなんだが頬が緩んだ。
隼人と一緒に出かけるのはいつも公園や自転車屋で、ゆっくりデートなんて本当に久しぶり。
時々女の子が隼人を見て振り返るのが、少し誇らしい。
隼人はそれを知ってか知らずか、私を見てにこりと笑う。

「ついたぞ。」
「ここ……?」

隼人がお店のドアを開けてくれて中に入る。
そこはスィーツメインのカフェで、ホワイトデーにカップル限定のデカ盛りをやっているらしい。
隼人はこれが目当てだったのか、嬉しそうにデカ盛りののパフェを頼んだ。

「これが食べたかったの?」
「あぁ、これ30分以内に食べ切れば賞金も出るんだ。」
「大丈夫?食べきれる?」

不安になって聞き返す私に、隼人は笑顔で返事する。
確かに隼人はたくさん食べるけど、さすがに多すぎるんじゃ…そう思っているとパフェが運ばれてきた。
カットケーキが五つ、アイスが三つにソフトクリームみたいなのが三つ、チョコソースにバナナに…とにかく山のようになっているパフェは圧巻の一言だ。

「だ、大丈夫?無理しないでね。残っちゃったら私払うから!」
「俺を信じろって。」

バキュンポーズを決める隼人はかっこいいけど……。
店員さんがタイマーを押すと、隼人は食べ始めた。
冷たいものばかりでお腹が冷えないか心配だったけど、取り越し苦労だったようだ。
隼人はにこにこと笑いながら食べ進める。
あちこちから視線を感じるけど、恥ずかしさより心配が上回った。

「これ美味いな。」

でも隼人は感想まで言えるくらい余裕があるらしい。
終始笑ったまま、ペロリと完食してしまった。
タイムは18分で、周りの人から拍手が沸き起こる。
私が萎縮していると、賞金を受け取った隼人は私の手を取って甲にキスした。
外でこんなことされるのは初めてで、顔から火が出そうだ。

「ちょっと隼人っ。」
「雛美、お待たせ。いつも何もしてやれなくてごめんな。今日はなんでも叶えてやるから。」

そういって笑う隼人の口元にはクリームかついていた。
いつもなら笑ってしまうのだけど、私は嬉しくて泣いてしまった。
抱きしめてくれる隼人は、いつもより少し暖かい気がした。



「どこ行きたい?」

お店を出てすぐに聞いてくる隼人の口を拭ってあげると、目を細めて笑った。
隼人のこの顔が私は大好きだ。

「うーん。」
「映画でも見るか?水族館とか……あとで、前に行きたがってたレストラン行って、ケーキも買おうな。」

嬉しそうに話す隼人は、とても可愛い。
でも、私はそのどれにも魅力を感じなかった。
あんなに楽しみだったお出かけなのに、なんでかな。

「ねぇ、隼人。」
「なんだ?決まったか?」
「おうち、帰ろう?」

そう言った私に、隼人は困惑したようだ。
目を見開いたかと思ったら、眉を下げて悲しそうな顔に変わる。
ごめんね、傷つけたいわけじゃないの。

「どうしたんだ?俺なんか悪いこと……パフェ食ったのが嫌だったのか?目立ったからか?……俺といるのは、嫌になった?」
「違うよ隼人。私は隼人が大好き。」
「じゃぁどうして……。」

私の顔を覗き込んでくる隼人の目は潤んでいて、小動物みたいだ。
こんなに大きいのに、私には甘えてくれる隼人が大好きだよ。
だからね。

「隼人と2人になりたいの。他の人に隼人を見せたくない、私だけの隼人で居て?」

だからおうちに帰ろう、そう言うと隼人は困ったように笑った。

「バレンタインのお返しがしたかったんだけどな……。いつも家デートか公園くれぇだし、何もしてやれない。俺はどうしたら雛美を喜ばせられるんだ?」
「隼人が、私の隼人でいてくれるだけで十分だよ。お家デートも公園も、隼人と一緒だから嬉しいよ。隼人を見せびらかして歩くのもいいけど……今日はもっと触れたいから。」

そこまで言うと、隼人はやっと笑ってくれた。
頭を優しく撫でた後、ふわりと抱きしめられた。
いつもごめんな、そう言うけど私はいつも幸せだよ。
特別な何かがなくても、あなたがいるだけで毎日が特別なのよ。

「いつも私を幸せにしてくれてありがとう。」





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