サンカヨウ-2-



※スイカズラの続きです。大学生になっています。
※視点が入れ替わります。
※アニメ派の方にはネタバレを含みます。


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+夢主視点+


そうして迎えてしまった土曜日。
最後かもしれないという不安を抱えつつ、最後ならと言う諦めもあった。
私は部屋を掃除して、出来る限り可愛い服を選んだ。
いつもは纏めるだけの髪を巻き、化粧もした。
いつくるんだろう。
ソワソワと落ち着かず、座っていられない。
そうしてしばらく部屋をうろついているとスマホが鳴った。

「も、もしもし?」
「アー、俺だけどォ。ついたよォ。」

どうやらすでにアパートの前にいるらしい。
いつも通り自転車を持って上がってくるというので、私は新聞紙を廊下に引いた。
少ししてカンカンという階段を上がる音がして、その足音は部屋の前で止まった。
そっとドアを開けるとやっちゃんが愛車と共に立っていた。

「よぉ。」
「ん、おはよ。」

久々に見たその顔は少し焼けたような気がする。
軽く挨拶を交わして部屋に通すと、やっちゃんは慣れた手つきで自転車を置くと部屋の奥へ進んだ。
私は冷蔵庫からベプシを取り出すと、座っているやっちゃんに手渡した。

「はい。」
「よくわかってんじゃナァイ。」

久々に聞いたその声に胸がぎゅっとなる。
メッセでも電話でもない、生身のその声は私の体に染み渡るようだった。
心の奥底から好きが溢れて止まらない。
それでも別れなくては行けないのかと思うと、涙が零れ落ちた。
それに気づいたやっちゃんは慌てて立ち上がると、私にティッシュを手渡した。

「……なんでお前が泣いてんだよ。」
「だ、だって……私まだ、やっちゃんのこと……。」

嗚咽にかき消された言葉は、きっとやっちゃんには届いていない。
伝えていいのかわからない。
縋っていいのかわからない。
ただ一つ分かることは、私はまだやっちゃんを諦めることなんてできないこと。
こんなにも胸を締め付ける存在を失うなんて考えられない。
泣きじゃくる私の背中をやっちゃんの手が優しくさすってくれる。
その暖かさが余計に私を苦しめた。
どうせ振られるなら優しくしないで欲しい。
私はその思いすら言葉にすることが出来なかった。




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+荒北視点+




約束の日、部活もないのに早朝に目が覚めた。
胸がざわつくような不快感で、飯を食う気にすらならねェ。
誰か男がいるんじゃねェかなんて不安が頭から離れない。
今日話してすべてが決まる。
全部ぶちまけて、それでも俺を選んでくれるだろうか。
こんな俺でもまだ好きでいてもらえるだろうか。
考えれば考えるほど不安と頭痛が増して、イライラする。
いてもたってもいられなくなり、俺は部屋を出た。




暫く目的もなくペダルを踏んだ。
どうせこんな時間に行っても仕方がない。
そう思いつつも自然と雛美の家へと向かうのは何故だろう。
何度も雛美のアパートへ行っては、向きを変えてペダルを踏む。
一体何してんだよ、俺……。
もういいだろう、そろそろいいだろう。
そう思って自転車を降りようとするたびに不安に押しつぶされそうになった。
それでも、いつまでも長引かせるわけにはいかない。
俺は不安をかき消すように頭をふると、雛美に電話した。

「も、もしもし?」
「アー、俺だけどォ。ついたよォ。」

おどおどしたような声に、胸がざわつく。
きっと雛美も今日が節目になることがわかっているんだろう。
部屋に向かうと伝えて切った電話を握る手に力がこもる。
正直に、話すだけだ。
俺にはもうそれしかない。
深呼吸をして階段を上がり、雛美の部屋の前まで行くと指先が冷たくなっているのに気付いた。
どんだけ緊張してんだよ、相手は雛美だぜ?
小さなときから知っている、幼馴染相手にこんなに緊張するなんて思ってもみなかった。
俺がそうこうしている間に、部屋のドアは開かれ中から雛美がひょっこり顔を出した。
これから誰かと会う約束でもあるんだろうか。
あまり見たことのない髪型に、見たことのない服、いつもはあまりしない化粧。
心臓を握られた気分になる。
大方余命1時間ってとこか。
そんなことが頭をよぎって、乾いた笑いが漏れた。

「よぉ。」
「ん、おはよ。」

懐かしいその声につい口元が綻んだ。
だけど中に入ると、またザワザワとした不安に襲われる。
やけに綺麗に片付けられた部屋に、見たことのない小物類。
前来た時とは違う雰囲気のその部屋は、まるで俺の知らない場所だった。
ソワソワと落ち着きなくあたりを見渡す俺に、雛美はベプシを持ってきた。

「はい。」
「よくわかってんじゃナァイ。」

買っておいてくれたんだろうか。
”俺の為に”そう思うと胸が熱くなった。
他に男がいるかもなんて、思い過ごしであってくれ。
何だか気まずくて俺はベプシを開けて一口飲んだ。
シュワシュワとした炭酸が、今日はやけに沁みる。
もう一口、そう思ったところで頭上から嗚咽が降ってきた。
見上げると雛美は立ったまま顔を覆い、その手からは涙が溢れていた。
俺は慌てて立ち上がると近くにあったティッシュを差し出した。

「……なんでお前が泣いてんだよ。」
「だ、だって……私まだ、やっちゃんのこと……。」

その後は何を言っているかわからなかった。
ただ泣きじゃくる雛美を抱きしめてやりたい。
だけどそうしていいのかわからない。
もしそれで拒絶されたら、立ち直れる気がしねェ。
それでも放っておくことは出来ず、雛美の背中をそっと摩った。
震える方が切なくてたまらない。
何を言おうとしたのか聞きたいくせに、聞くのが怖い。
雛美は暫く泣いた後、ティッシュで顔を拭いその場に腰を下ろした。
それにつられるように俺も隣に座ると、真っ赤な目をして切なげに微笑んだ。

「ごめんね。」

その声は震えていて痛々しい。
何を謝ってんだよ。
そう思いながらも声にならない言葉を飲み込んで唇を噛みしめた。

「私、迷惑ばっかりかけるね。」
「……んなことねェよ。」
「そう?でも今だって、泣いたりして……。」
「別に……泣きたきゃ泣けばいいんじゃねェの。」
「え?」
「付き合ってんだろ。遠慮する必要がどこにあんだよ。」

半ば自分に言い聞かせた言葉だった。
”まだ”付き合ってんだよな。
別れたつもりなんてない。
それなのに雛美は目を丸くして俺を見上げてた。
そう思ってたのは、俺だけかよ。

「私で、いいの?」
「ハァ?」

見当違いな返事にぽかんとする俺をよそに、雛美はまた泣きそうな顔になる。
ったく、泣き虫すぎんだろ。

「やっちゃん、全然連絡くれないから……もう他に好きな子とか、いるのかもって思ってて。」
「何だそれ。」
「だって、普通週に1回くらいは連絡取るでしょってみんな言うから……。」
「週に1回は連絡してたろ。」
「してないよ!メッセも私が送るばっかりで、見てすらないし。電話も出ないし、折り返しもないし。」

思い当たる節があり過ぎて頭痛がしてきた。
不安にさせてたのは俺の方だ。

「他に女なんていねェし、お前だけだっつの。」
「ほんとに?」
「ウソついてどーすんだ、バァカ。それよりお前はいねェの?」
「え?」
「可愛いカッコして、この後男と会うつもりだったんじゃねェの。」

”好かれている”という思いが俺を慢心させた。
それでも雛美は嬉しそうににっこりと笑って、俺の手を握った。

「やっちゃんに会えると思って、頑張ったんだよ。部屋だって片付けたし。」

”俺の為”……その言葉が胸に刺さる。
いつもそうだった。
忙しいだろうからと会うのを遠慮し、連絡も少なくなった。
いつだってコイツは自分のことなんて後回しだった。
それなのに、俺はなんだよ。
そう思うと申し訳なさとともに愛しさが込み上げてくる。

「悪ィ。」

気づけばそう言って抱きしめていた。
柔らかなその感触を味わうのはずいぶん久しぶりだ。
嬉しそうな顔をして見上げる雛美に、触れたくてたまらない。
もっと強く、もっと深く。
その関係を揺るぎないものにするため、俺はそっと顔を近づけた。
閉じられた瞳に安堵しつつ、そっと口づける。
初めての感触に、口から心臓が飛び出そうだ。
バクバクと打ち付けるような鼓動に息が苦しい。
そっと離れると、雛美は頬を赤らめて嬉しそうに笑った。
今までごめんな。
これからはもう間違えねェから。




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匿名様よりリクエストを頂き、スイカズラの続きを書かせて頂きました。
サンカヨウの花言葉は「親愛の情」「幸せ」です。
スイカズラの花言葉、「愛のきずな」「献身的な愛」からの成長を描けたらと思い書かせて頂きました。
楽しんで頂ければ幸いです。


※サンカヨウの花びらは水に濡れると透明になるそうです。
とても綺麗なので、気になった方はぜひ検索してみてください。



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