サンカヨウ-1-


※スイカズラの続きです。大学生になっています。
※視点が入れ替わります。
※アニメ派の方にはネタバレを含みます。

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+夢主視点+



やっちゃんと私は、幼馴染だ。
気づけばいつもそばにいたその存在はとても大きく、高校が分かれた時に初めて気づいた気持ち。
それもやっちゃんのおかげで、叶えることが出来た想い。
だけど私たちの進路は、すでに別れてしまっていた……。




大学に入って数か月が過ぎた。
やっちゃんとはもう1か月近く会えていない。
私たちが付き合い始めた頃にはもうお互いの進路は変えられなくなっていた。
私にもやっちゃんにもやりたいことがある。
それをどちらかを理由にして諦めるのは絶対にお互いを許せなくなる。
そうして私たちは別の大学へ進んだ。
ただ一つ救いがあるとするならば、お互いの大学がそれほど離れていないことだ。
私たちは地元を離れて、静岡という知らない土地にきた。
こっちへ来てすぐはお互いしか知らなかったのもありよく会っていたし、デートも出来たけど……。
大学に入ってからはやっちゃんは部活が忙しくて、電話もあまりくれなくなっていた。
何でも高校時代の知り合いが同じ部活にいるとかでとても嬉しそうだったっけ。
私もIHで会ってるらしいけどそんなの覚えちゃいなかった。
だってあの時は、やっちゃんしか見てなかったから。
慌ただしい大学生活は私に寂しさなんて感じさせないだろうと思っていたけど、それは少し違っていた。
新しい出会いが増える中で、恋人が出来たという話をよく耳にするようになった。
それは同期だったり、サークルの先輩だったり色々でみんな初々しい顔で笑いあっている。
ふと、私たちにそんな時期があっただろうかと頭をよぎる。
付き合い始めてからも私たちは劇的な変化をしたわけじゃない。
今までの仲の良い幼馴染に戻ったくらいだ。
やっちゃんが帰省する回数は増えたし、帰ってくるたびにお互いの家に行き来もした。
だけど受験生だった私たちは外にデートに出ることもなく、ただ黙々と机に向かっていた。
クリスマスとお互いが受かった時はお祝いをしたけど、実はキスもまだだなんて誰にも言えない。
良い雰囲気になる、ということがあまりないのだ。
お互いをよく知っているからこそ、茶化しあってしまう。
周りの変化が目につくようになってから私は不安になってきた。
やっちゃんは連絡もくれなくなったし、忙しそうだし。
もしかしたらあっちの大学で可愛い子を見つけたんじゃないだろうかと悪い想像が頭をよぎる。
ドキドキよりも安心をくれるその存在が私をこんなに不安にさせるなんて思ってもみなかった。
モヤモヤとした思いをかかえたまま送ったメッセージに、やっちゃんから返事がくることはなかった。




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+荒北視点+




高校3年の時付き合い始めた雛美とは、同じ大学にこそ進まなかったものの同じ土地へ行くことになった。
最初はそのことに浮かれた。
付き合い始めてからお互いに受験生だったこともあり勉強ばかりで何も進展していない。
触れたいという思いと気恥ずかしさに葛藤した末、結局一度だって手を出せたことがない。
それでも家族の目のない場所なら―――。
そう思っていたはずだったのに。
大学が始まり、気が付けば部活漬けの日々。
金城や待宮と言った知り合いがいたこともあり、余計に熱が入った。
今日の敵は明日の友なんて言葉があったな、なんて頭をよぎる。
だけどそれは俺たちには当てはまらないのか、それとも熱が入り過ぎたのか。
毎日ヘトヘトになるまで練習するおかげで家には寝に帰るだけの生活。
もちろん雛美に連絡することも忘れて、シャワーを浴びてベッドにダイブする日々。
そんな生活が数週間も続いていたことにカレンダーを見て初めて気づいた。

「これ4月のじゃねェか……。」

壁にかけてあるカレンダーはレースの日を書くためのもの。
それに雛美がうちに来るたびに、ピンクのペンでハートを書いて遊んでいた。
”今月は後何個ハートを増やせるかな”そう言って笑っていたのを思い出す。
気が付けば空気は湿気を帯び重く、梅雨が近づいてきているというのに。
めくったカレンダーには一つのハートもない。
改めて見たスマホには、雛美からの一方的なメッセージが数件。
数日置きに送られてくるそれに俺は目を通すことすらしてなかったことに気づいた。
蔑ろにしたかったわけじゃない。
ただ部活が―――。
そんなのは言い訳にしか過ぎないのは自分が一番よくわかっていた。
だけど今更どう返していいのか分からずに、俺は頭を抱えた。
”今何してる?”なんて気軽に聞けなくなってしまった。
休みの予定も、遊びに行く約束も、今の俺には提案することすら出来ない。
部活に休み何てあってないようなもんだ。
部活自体が休みでも自主練をしないわけにはいかないし、溜まりに溜まったレポートだってある。
何を優先すべきかはわかっているつもりだった。
だけど雛美が”邪魔をしたくない”と言うたびに、その順位は狂っていた。
雛美に甘えた結果がこれだ。
今更謝ったって……。
そう思えば思うほど、連絡を取れなくなる。
その時、スマホがメッセの受信を知らせた。
中を見ると雛美からで、いつも違ってスタンプのない簡素なメッセージだった。
”いらないなら早めに言って。ずるずるするのは嫌だ。”
頭がサーッと冷えていくのがわかる。
待てよ、いつ俺がそんなこと言ったよ。
一言もそんなことっ……そりゃそうだ。
最後に声を聞いたのは、いつだっただろう。
スマホの履歴を遡れば金城や待宮ばかりで、雛美の名前はずっと下の方にしかない。
それも不在着信だ。
何て言えば伝わるだろうか。
浮かんで消えるのは言い訳ばかりだった。
全部正直に話すしかないのはわかってる。
だけど気持ちが離れたのは雛美の方じゃねェかなんて考えがよぎる。
じゃなきゃあんないい方、しねェだろ。
もし本当にそうだったとしたら。
俺なんかよりもっと良い奴がいるんじゃねェか。
同じ大学で、かっこよくて、もっと構ってやれるやつが。
そこまで考えて頭痛がしてきた。
想っているのにその想いを表すことをしてこなかった報いだ。
俺は部活の休みを確認すると雛美に返事をした。
”明後日家で待ってろ。”
そのメッセージに返事が返ってくることはなかった。




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+夢主視点+




中々連絡をくれないやっちゃんに、一方的にメッセージを送り続けるのにももう疲れた。
天気の話題や学校の話題、色々話を変えてみたけど既読すらつかない日も多い。
どうせ疲れて寝てるんだろう、そう思いながらももし違ったらという嫌なイメージは拭えない。
やっちゃんかっこいいもん。
自転車に乗ってる姿とか本当ヤバいもん。
大学でもモテてるんだろうなぁ……。
私のことなんて忘れて、大学生活を楽しんでいるんだろう。
そう思うと、指が勝手にメッセージを送っていた。
”いらないなら早めに言って。ずるずるするのは嫌だ。”
ずっと頭の片隅にあったこと。
やっちゃんは私の存在なんて忘れてるんじゃないかって。
でもそれを伝えることはしなかった。
伝えたら本当に終わってしまう気がして、それが何より怖かった。
言ってしまった、伝えてしまった。
慌ててメッセージを消そうと操作すると、こんな日に限ってもう既読がついている。
見られた。
頭の中が真っ白になった。
捨てられる。
嫌われる。
嫌なイメージでいっぱいになって、頭がガンガンと痛んだ。
そして、やっちゃんから返事が返ってきた。
”明後日家で待ってろ。”
珍しく早くついた既読、そしてもっと珍しくすぐきた返事。
嫌な予感しかしない。
私は気持ち悪くなり、スマホを閉じるとそのまま布団にもぐりこんだ。




朝目が覚めて、昨日のことが夢だったんじゃないかなんて淡い期待を抱いてスマホを開いた。
だけど変わらずあのメッセージは変わらずそこにあって、まるでやっちゃんに睨みつけられているような感覚に陥る。
明後日は土曜日だ。
一体何をしにくるのか、考えるだけで気分が悪くなる。
自分が決定打を与えたのがわかっているだけに、余計落ち込んでしまう。
あんなことを言わなければ、細い繋がりを保っていられただろか。
あれがなければ、私たちはまだ付き合っていられただろうか。
……そんな細い繋がりだけじゃ、我慢何て出来るわけはないのに。
もう今更どうしようもない。
私はまるで死刑宣告を受けた気分だった。
もうどうにでもなれ。
それから土曜日まで、本当に生きた心地がしなかった。



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