北風と太陽




新開くんはかっこ良くて優しいし、とても柔らかい雰囲気ですっごくモテる。
そんな新開くんとよく一緒にいる荒北くんは、無愛想だし言葉は荒っぽいしすぐに怒鳴る。
そんな二人と私は共通点なんてなかったはずなのに、3年になって同じクラスになってからというもの二人ともいつも私のそばにいた。
私から特に話しかけたこともないのに、新開くんは新作のお菓子を手に今日もやってきた。
もちろん傍らには荒北くんがいる。

「やぁ雛美ちゃん。昨日発売のこれ、すごく美味しかったから一つどう?」
「あーうん、貰おうかな。ありがとう。」
「ったく、んなもんばっか食ってっからデブなんだよ。」

グサリと胸に刺さる言葉に、手にしたお菓子を落としそうになる。
それを新開くんが優しく支えてくれて、手の中に戻してくれた。

「靖友、女の子にその言い方はないだろ?」
「ハァ?テメーに言ったんだよ、バァカ。」

"小鳥遊は別に普通だろ"そう付け足してそっぽを向いてしまった。
自分ではややぽっちゃりだと思っていただけに、その言葉がちょっと嬉しい。
もらったキャンディを口に放り込むと、ラズベリーの甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がる。

「あ、これ美味しい。私好き。」
「本当か!俺も好きなんだ、俺たち一緒だな。」

そう言って笑う新開くんはやっぱりすごくかっこ良くて、キラキラして見える。
こんな人がどうして私にこんなに優しいのかとても不思議だ。
荒北くんも口調は荒っぽいけど、とても気が利く。
今だって私の隣を通ろうとした男子がぶつかりそうになったのをさりげなく庇ってくれたし、よく物を落とす私をからかいながらもいつも拾ってくれる。
そんな関係がかれこれ二ヶ月ほど続いていて、周りからは猛獣使いと呼ばれ始めてしまった。
それでも二人は私に対する態度を変えることなく、気付けばいつもそばにいる。

「ねぇ、二人ともさ。なんでいつも私にいろいろしてくれるの?」
「別に大した理由なんかねェよ。」
「俺は……そうだな。可愛い女の子を放っておけないから、かな。」

そういって笑う新開くんは本当のことを言っているのがわからない。
私のこと可愛いなんていうの、新開くんくらいだよ。
荒北くんはめんどくさそうに舌打ちをしていて、ちらりと私を見た。

「迷惑かよ。」
「えっ?いや、そういうんじゃないんだけどさ。何か対照的な二人が一緒にいるのも意外なんだけど、その二人とも私によくかまってくれるのは何でかなって。」
「そりゃもちろん……」
「んなの決まってんだろーが。」

二人は一度顔を見合わせて、ニヤリと笑うと私に視線を戻した。

「「好きだからだろ。」」
「……はい?」

聞き間違いだろうか。
聴力にだけは自信があったのに、もう自分の耳が信じられない。
特にこれと言って特徴もない、凡人の私がまさか二人に告白されるなんて思っても見なかった。
ぽかんと口を開ける私をみて、二人はクスクスと笑っている。
あっ。
まさか、騙された……?

「なっ!嘘はだめだよ!ずるい!卑怯!」
「アァ?誰が嘘なんて言ったんだよ。」
「嘘じゃないさ。雛美ちゃんの驚きっぷりがおかしかっただけで。」
「えっ、じゃぁなに。さっきの本気?」
「「本気。」」

今度は真剣な顔でそう言われれば、もう疑うことが申し訳なくなる。
今まで関わりなんて無かったはずなのに、一体どうしてそんなことになったのか尋ねると二人は何だか言い辛そうに目を背けた。
それでも諦めずに問い詰めれば、観念した新開くんが先に口を開いた。

「去年の修学旅行で、海にいったの覚えてるか?」
「え?あぁ、うん。でも二人ともクラス違ったでしょ?」
「それはそうなんだけどさ。まぁ海って色々……普段見えねぇもんとかが見えるだろ?」
「……ごめん、ちょっと何が言いたいかわかんない。」
「だからァ!水着見て惚れたっつってんだよ。」

顔を真っ赤にしながら荒北くんがそう言うと、新開くんは慌てて荒北くんの口を塞いだ。
あー、つまりはそういうこと?
確かに友達より少し大きいバストは、制服を着ているとあまり目立たない。
というより、目立たないように気をつけているのだ。
結局男なんてそんなものなのだ。
私がため息を付くと、新開くんが頭を下げた。

「ごめん、最初はその、水着だったけど……今は違うんだ。話して、色々わかったっていうか。本当可愛いなって思って。」
「ふぅん。」

新開くんの言葉はもう私の心には届かない。
今更取り繕ったって、ね。
呆れた私はちらりと荒北くんに視線を向けると、気まずそうにしながらも口を開いた。

「悪ィ。やっぱそういうのって気分悪ィよな。」
「え、あ……まぁ、うん。」

言い訳をされるんだと思った。
だけど荒北くんは謝るだけで、それ以上何も言ってくれない。
新開くんは変わらず私を褒めちぎってくれるけど、今の私にその言葉は全然入ってこない。

「ねぇ、荒北くんは私の体以外でどこが好きなの?」
「ハァ?もうどことかねェよ。全部ひっくるめて小鳥遊だろうが。」
「え、嫌いなとことかないの。」
「あったらこんなに絡んでねェ。」

誤魔化しも嘘もない、ただ本心からだとわかるその言葉に私は胸を打たれた。
ドキドキと鼓動が早まるのがわかる、顔が熱い。
荒北くんの視線が恥ずかしくてたまらなくて、私は顔を伏せた。
覗き込んできた新開くんの方が、顔もかっこいいし優しいはずなのに。
真っ直ぐな想いというのはこれほどまでに破壊力があるのだろうか。
今までのことを思い出せば思い出すほど、荒北くん一色になって行く。
私の中は、もう荒北くんでいっぱいになってしまっていた。
恋に落ちるなんて嘘だと思った。
恋は落ちるものじゃない、染まるものだ。

「あ、らきた、くん。」
「んだよ。」
「今度、部活休みの日とか……遊びに、いかない?」

目を丸くした荒北くんは、次第に口角をあげてニッと笑った。
私が気持ちを伝えるのはもう少し先。
ちゃんと私が荒北くんに向き合えるようになってから。
今はただ恥ずかしくて顔を伏せている私が、いつか気持ちを言葉にできますように。



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