隣がいい




隼人とは1年の時からずっと同じクラスだ。
席が近いのもありよく話していた私たちは、お互い甘いものが好きだということですぐに打ち解けた。
隼人は一人では入りづらい店に私をよく誘ってくれた。
代わりに私は調理部で作ったお菓子なんかを隼人に差し入れしていた。
そんな関係がもう二年半続いていて、周りからは付き合ってるだろうとからかわれていた。
その度に隼人は否定も肯定もしない。
慌てるのは私ばかりで、隼人の気持ちがわからなかった。
私はいつからか隼人のことを好きになっていた。
だけどそれを伝える勇気はない。
断られたら、友達ですらなくなってしまう。
それならいっそこの心地いい関係のままでいたい。
そう思っていた矢先、嫌な噂を耳にした。
隼人に好きな人がいる、というものだ。
自転車部から回ってきたところを見ると、あながち間違いではなさそうだ。
隼人に確かめる勇気なんてない。
だけど気になって仕方がない。
自然と私の視線は隼人に向いてしまう。
隼人は一体、誰が好きなんだろう。
誰を見てるんだろう。
そう思って目を向けると、よく目があって気まずくなった。
隼人は目が合うとにこりと笑ってくれるから、私は作り笑いで手を振る。
本当は笑う余裕なんてないよ。
気が変になりそうだ。
そうして落ち着かない日々を送っていると、隼人からケーキバイキングのお誘いが来た。
前から行ってみたかった店にとうとう予約が取れたのだという。
嬉しそうに話す隼人を見るのがなんだか辛い。
私なんて誘わなくても、隼人なら誰だって一緒に行きたがるはずだ。
どうして好きな人でなく私を誘うんだろう。
もしかして、隼人の好きな相手は甘いものが苦手なんだろうか。
悶々とした思いは私の中から消えることはなく、ぐるぐると思考はループし続けた。
そんなことを考えていたせいで隼人の誘いに返事が出来ずにいると、隼人は心配そうに私を覗き込んできた。
その近すぎる距離に心臓が飛び出てしまいそうになる。

「どうした?何か用事でもあるのか?」
「え、あーううん!大丈夫、だけど……。」
「だけど?」

困った顔で私を見つめる隼人は、子犬のようでとても愛らしい。
その表情に思わず抱きしめたくなる衝動を抑えながら、私は首を横に振った。
精一杯の笑顔を隼人に見せる。

「私なんかより、他の……隼人が好きな子とか、誘った方がいいんじゃない?滅多に行けないお店なんだしさ。」
「……なんだよそれ。」

どうしよう、怒らせた。
冷たい口調で発せられた言葉は、投げ捨てるようだった。
隼人の目つきは先ほどと違い鋭くなっていて、私を睨みつけていた。

「ごめん、私この前聞いちゃったんだ。隼人に好きな人がいるって……。だからさ、隼人のこと応援したくて。気を悪くしたらごめん。」
「雛美は俺のこと何とも思ってねぇのか。」
「え?」
「俺、悪いけど好きなやつの恋を応援とか出来るほど大人じゃねぇんだ。それとも好かれてると思ってたのは俺だけだったってことか?」

言っている意味がよくわからない。
私が応援したのが気にくわないのだろうか。
どうしていいか分からず黙りこくる私に、隼人はため息をついた。

「本当は、店で言うつもりだったんだけどな。」

そう言って小さな紙袋を私に差し出した。
可愛いリボンがついてラッピングされているそれは、私へのプレゼントだという。
中を開けてみると、前から欲しかったマカロンのストラップが入っていた。

「えっ、これ……。」
「ずっと好きだったんだ。雛美も同じだと思って、言葉にしてなかったけど。気づいてなかったのか?」
「え?……え?」

困惑する私は見て隼人はクスリと笑った。
もしかしなくても、隼人の好きな人って……。

「予約しなきゃ入れねぇような店、雛美じゃなきゃ誘ったりしないさ。」

そう言って笑う隼人に思わず抱きついた。
一人で突っ走ってごめんなさい。
勘違いしてごめんなさい。
傷つけてごめんなさい。
隼人が、大好きだよ。
満足そうに笑った隼人は、私の耳元で囁いた。

「お詫びにまた差し入れしてくれよ。甘いやつ。」

隼人のためなら、いくらでも。
その笑顔の隣に、いつも私がいられますように。



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