だったら捕まえてごらん?
(診断メーカーより/友人リクエスト)



荒北と私はいわゆる悪友だ。
最初は喧嘩腰でやり辛いヤツだなーなんて思ってたけど、話してみると案外面白いヤツだった。
一緒に授業サボったり、ゲーセンに入り浸っていたはずなのに急に付き合いが悪くなった。
それが荒北がロードにであった頃だというのにはあとから気づいた。
荒北は今までのサボりが嘘のように授業にちゃんと出て部活を真面目にやり始めた。
いつしか一緒にいるのが当たり前じゃなくなって、私の隣から荒北が消えたみたいだった。
そうなって初めて、私は荒北が好きだったことに気づいた。
荒北と一緒だったからあんなに楽しかったんだ。
一人ってなんてつまらないんだろう。
何をしても楽しくない。
どうせなら荒北が見えるところにいたい。
その思いから私は授業をサボるのをやめた。
そして放課後は、空き教室から自転車部を眺めるのが日課になった。




授業をちゃんと受け始めて気づいたことが二つある。
私はそんなにバカじゃなかったこと、そして荒北はバカだったことだ。
テスト前はあんなに必死になっていたはずの荒北は赤点のオンパレードだった。
一方、私は授業中しか教科書を開いてなかったにも関わらず学年上位に張り出されていた。
なんだ、やれば出来るんじゃん。
私は次第に勉強が面白くなって行った。




そうして2年に上がって、私は荒北と同じクラスになれたことを心の中でひっそりと喜んだ。
その頃にはもう、荒北と話すことはほとんどなくなってしまっていたけど。
テスト前に時々、教えてくれと言う以外荒北から声をかけてくることはない。
そしていつも荒北の周りには自転車部の人たちがいて、なんだか近寄り難かった。
遠目に見る荒北はあの時よりずっと優しい顔つきになって、ますますかっこ良くなったと思う。
だけど私は、何も変わらない。
そのことがとても恥ずかしいとさえ思った。
そんな私たちにも、またテストが近づいてきた。
そろそろかな、そう思っていると案の定荒北に声をかけられた。
ただいつもと違うのは、荒北の後ろにも人がいたことだ。

「小鳥遊。」
「なにー?」
「明日から部活ねェんだけどォ……その……」

珍しく歯切れの悪い荒北に首を傾げると、新開くんが口を開いた。
今年初めて同じクラスになったけど、モテて有名だからなんとなくは知っている。

「テスト前だから休みなんだけどさ。小鳥遊さんって頭いいんだろ?教えてくれねぇかな。」
「頭はよくないけど、わかることならいいよ。でも……。」

荒北の後ろにいる福富くん、彼は学年でもかなり上の方のはず。
私が教えることなんてあるだろうか。
口ごもる私に荒北は何をどう勘違いしたのか、ハッと笑った。

「礼はすっからァ。」
「いや、教えると自分の理解も深まるからそういうのはいいよ。」
「じゃぁ何して欲しいんだよ。」
「何、か……そうだなぁ。」

私を含めて合計5人、さすがに図書室では教えられそうにないし教室は邪魔が入りそうだ。

「場所の提供かな。」
「場所ォ?」
「5人が入っても狭くなくて、空調が効いてて、話しても迷惑にならないとこ。」

荒北は小さく舌打ちをした。
これって結構難しいかもしれない。
それでも"教える条件"と提示したからには断れないんだろう。
荒北はその条件を飲むと、明日の放課後から勉強すると言った。

「じゃぁ、また明日詳しく話そ。」
「おう、頼む。」

荒北はニッと笑って、自分の席に戻って行った。
顔が熱くてたまらない。
あの笑顔は卑怯だ。
荒北と二人きりも気まずいけど、こんなことでドキドキしてしまう私が本当にみんなに教えられるんだろうか。
一抹の不安を抱えながらも、私は明日が楽しみで仕方がなかった。




そして翌日の放課後から、私たちの勉強会が始まった。
場所は荒北の部屋と聞いて私は内心ガッツポーズした。
ただそのワクワクは、二人の致命的なおバカ加減に打ち砕かれる。
荒北は相変わらずノートが所々抜けていて、要点だけ書いてなかったりしてノート自体が使い物にならない。
新開くんも荒北ほどではないけど勉強は苦手らしく、すぐ茶化して中々集中してくれない。
福富くんはやはり頭がいいのか、一人で黙々とテキストを解いていた。
東堂くんも苦手科目は少ないのか、それほど大変そうではない。
東堂くんに教えている間に問題の二人はチャンバラを始めているし、本当に勉強する気があるんだろうか。

「あんたたちさー……赤点だとレース出れないんじゃないの?」

その言葉にビクリとした二人は動きを止めてこちらをみた。
その動作が二人ともシンクロしていてなんだかおかしい。

「そんなこと言ったってよォ……面白くねェんだよ。ただ勉強して何になるってーのォ?」
「そんなの私に言われても……。」
「そうだぞ、靖友。せっかく小鳥遊さんが教えてくれてるんだ。」
「いや、新開くんも遊んでたよね。」
「えっ、いやぁ。はははっ。」

結局いつまで立っても勉強に身の入らない二人に、私は条件を出した。

「前より順位が上がったら何でも言うこと聞いてあげる。購買へのパシリでも荷物持ちでも。だからせめて私の勉強時間を奪うな。」
「「マジで?」」

途端に目を輝かせた二人に嫌な予感がしつつも、今更撤回するなんてことは出来ない。
私は渋々頷くと、二人の意欲が目に見えて増した。
毎日荒北の部屋に集まり勉強するうちコツを掴んだのか、特に荒北はスラスラと問題を解けるようになっていた。
時々詰まる応用問題も、すこしヒントを出せば解けている。
なんだ、こいつもやればできるじゃん。
それが嬉しくもあり、私はすこしビビっていた。
荒北は私に何をさせるつもりなんだろう。
そうして、私たちはテストの日を迎えた。



どのテストもそこそこ手応えはあった。
これといって解けなかった問題もない。
手応えは荒北も感じていたらしく、いつになく上機嫌だった。
そしてテストの返却日。
私たちは再び荒北の部屋に集まった。
結果は一名を除いてとても良く、ほとんどの科目で順位を上げることが出来た。
それは荒北も例外でなく、とても嬉しそうに差し出された紙を見ると本当によくできている。
これでは断りようがない。
そう思いながら新開くんのテスト結果に目を通して唖然とした。
前より下がっていたのだ。
これには東堂くんが怒ってしまい、福富くんを含めた3人は追試に向けて勉強するとかで新開くんの部屋へ移動した。
そのすきに私も帰ろうとすると、荒北に引きとめられてしまう。

「約束、忘れてねェだろうな。」
「え、なんのことかなぁー。」

誤魔化そうとしたけど、そんなの荒北には無意味だ。
ドアを塞ぐように立ちはだかった荒北は、私をじっと見据えた。

「な、なに?」
「何でも言うこと聞くんじゃねェのかよ。」
「聞くよ?ベプシでも買ってこようか?」
「そういうのはいいんだよっ。」

少し苛立ったのか声を荒げた荒北は、ハッとして俯いた。
きっと怒鳴るつもりなんてなかったんだろう。
今のは私が茶化したのが悪い。

「ごめんて。で、荒北は何して欲しいの?」
「……付き合えよ。」
「ん?なんて?」
「俺と付き合え。」

聞き間違いだろうか。
荒北は耳まで真っ赤になっているけど、きっと私の方が赤いんじゃないかな。
だって今、火が出そうなほど顔が熱いよ。
何も言えない私に、荒北はガシガシと頭をかいた。

「返事はァ?」
「え、あ、うん?」
「だからァ!付き合えっつってんのわかんねェ?好きじゃなかったらわざわざ勉強教えてくれなんて言わねェよ!」

荒っぽい告白が、荒北らしくてつい笑ってしまう。
だけどそれが気に食わないのか、荒北はますます不機嫌になった。
そんな荒北の顔を引き寄せて軽くキスすると、目を丸くして固まってしまった。
先ほどとのギャップにまた笑いが漏れる。

「なっ……何してんだテメー!」
「なにって、キス?」
「バッ……返事が先だろ、普通!」
「私も荒北が好きだよ。」

通じ合ってるとわかったからこそ言えた言葉。
そして荒北の顔がゆっくり近づいてきた。
すると、なんだか急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
さっき自分がしたことなのに、されるのはとても恥ずかしくてつい顔を背けてしまった。

「おい、何してんだよ。」
「え?あーうん。またこんど、ね?」
「ハァ?ここまできてお預けってふざけんな!」

そう言って吠える荒北の耳元で、私はそっとささやいた。

「私より順位が上がったらまたいうこと聞いてあげる。」

荒北はポカンとしたあと、またガシガシと頭をかいた。
闘争心で燃える男なのは、重々承知している。
そしてご褒美があればさらに頑張れることも。

「っだー!クソッ。」

舌打ちをして私から離れた荒北は、私の条件を飲んでくれるらしい。
荒っぽいのに優しいとこ、大好きだよ。
そんなことはまだ当分言わないけど。
荒北にキスしてもらえるのは、もう少し先の話。



*****************
友人より、「狛なら何でも書けるよね?」という無茶ぶりを頂きました…。
夢主を繋ぎとめるために勉強も頑張る荒北先輩。
その思いがいつか届きますように。



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