勿忘草




中学の時好きな人がいた。
彼は一つ年下で、私がマネをしていた野球部の後輩だった。
告白しよう、そう思っていた頃に色々あって結局思いは伝えられなかった。
高校に行ってからも私はそれを引きずり続けて、誰かと付き合うことはしなかった。
そしてそれは大学になってからも変わらない。
私の思いはあの時の熱を灯したままだった。




そうして一年が過ぎ、私は二回生になった。
色恋はなくともそれなりに楽しい毎日を送っている。
今日も何気ない話を友達としながら歩いていると、誰かに呼び止められた。

「小鳥遊、サン?」
「え?」

振り返った瞬間すぐにわかった。
胸が跳ねるのを感じて、私は泣いてしまいそうになる。
そこにいたのは間違いなく私がずっと思ってきた荒北くんだった。
あの頃より身長も髪も伸びて、顔つきもとても大人っぽくなった。
声だって変わっていてわからなかったけど、間違いない。
湧き上がる思いにつられるように目頭が熱くなる。
そんな私に荒北くんはニッと笑った。

「小鳥遊サンだろ?覚えてねェかな、俺荒北靖友。」
「お、覚えてる!覚えてるよ!久しぶりだね!」
「ほんと懐かしーよなァ。ここ通ってたンだな。」

私は友達に先に行ってもらうよう伝えて、荒北くんと近くのベンチに座ることにした。
久しぶりに見た荒北くんはすっかり男性になっていて、その姿に惚れ直してしまった。
あどけなさの残る笑顔が眩しい。

「俺あの時さァ、試合ダメになったろ。」
「あ、うん……。」

何でもないように笑って話すそれは、私とってはまだ痛々しいものだった。
怪我が元で試合どころか野球をやめてしまった荒北くんとは、それきりだったのだ。
胸がチクチクと痛んだ。

「小鳥遊サンが落ち込むことじゃねェからァ。」

そう言って慰めるように軽く背中を叩かれた。
そのての大きさに、お互い大人になったんだと感じる。

「それにしても小鳥遊サン。綺麗んなったね。」
「えっ?」
「あんま化粧してなくてそれとか、ずりィだろ。」

クツクツと笑う彼に、私はからかわれているんだろうか。
確かに化粧は苦手であまりしてないけど……。

「荒北くんも、かっこよくなったよ。何て言うか、男らしくなったね。」
「あれからもう五年くれェ経つしなァ。」
「ね。本当懐かしい。」
「……あのさァ。」

荒北くんは少し前かがみになり俯く。
どうしたのかと覗き込むと、目があった。

「俺あの時、小鳥遊サンのこと好きだったんだよね。」

突然の告白に時間が止まったようだった。
瞬きもしない私たちは見つめあったまま、呼吸するのすら忘れそうだ。
そのまっすぐな目に吸い込まれてしまいそうになる。
私は思い切って自分の思いも伝えた。

「わ、私も好きだったよ。ずっと、ずーっと荒北くんのこと……好きだった。」

そう告げた私を見て荒北くんは目を丸くした。
そしていたずらっぽく笑う。

「その言い方だと今もみたいじゃねェか。」
「い、今も!今も、だよ。ずっと忘れられなかった。」
「……高校ん時とか付き合ったりしてねェの。」
「好きじゃない人と付き合うとかは出来ないよ。」

荒北くんは少し赤くなると目をそらしてしまった。
やっぱり、今更だよね。
そう思っていると不意に手を握られた。

「……今から……」
「え?ごめんよく聞こえなかった。」
「だからァ!今からデートしようぜっつったんだよ。」

そう言うと荒北くんは立ち上がって私の手を引いて歩き出した。
それは、そういうこと?からかってるわけじゃないの?
私と同じ気持ちだと思ってもいい……?
私は言葉にできない思いを手に乗せて、そっと荒北くんの指に自分のそれを絡めた。
荒北くんは一瞬こちらをチラリと見てから笑って、その手をしっかりと握ってくれる。
それがまるで返事のようで、私の心はパッと晴れやかな気分になった。
少し力強いその手に引かれて私は歩き出す。
足も、心も、これからは前へ。



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勿忘草の花言葉は「真実の愛」「私を忘れないで」です。
秘めた思いは伝えぬまま冷めることもなく熱を灯し続けた。
そんな2人を書かせて頂きました。


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