雨降りの日




その日は朝から雨だった。
寮生の多いこの学校では珍しく実家から通っている私は雨が嫌いだ。
家から歩けば必ず濡れる。
徒歩数分の寮を何度も羨ましく思っていた。
今日も憂鬱な気分で傘を差して登校したのは間違いない。
だけど何度探しても傘立てに私の傘はなかった。
誰かが間違えたんだろうか。
そう思いつつ外へ目を向けると、傘なしでは辛そうな土砂降り。
これでは家に着く前に風邪を引いてしまう。
運悪く友達はもう帰った後で、頼る人なんて誰もいない。
小雨になるまで待つか、走って帰るか。
走ってもびしょ濡れは免れないだろう。
私はため息をついた。

「何してんだよ。」

不意に後ろから声をかけてきたのは荒北くんだった。
同じクラスになってから何度か話したことはあるけど、昔の噂を知ってるだけに少し近寄りがたい。
驚いた私をマジマジと見つめて荒北くんは笑った。

「ハッ、傘ねェのかよ。」
「あ、うん……朝はあったんだけど。」
「盗られたのォ?」
「いや、間違えただけかも、だし。」

そう言って俯く私に荒北くんはクスクス笑った。

「小鳥遊は置いてある傘てきとーに使ったりしねェんだな。」
「うん?だって持ち主が困るでしょ?この雨だし。」
「それはてめーだろ。」

終始楽しそうな荒北くんは機嫌が良さそうだ。
私は少し胸をなでおろした。

「でもまぁ、待ってたら止むかもだし。」
「今日1日雨だけどォ?」
「うっ……。」

天気予報は嫌という程見た。
そしてそれが当たっているのを目の当たりにしている。
言葉に詰まった私に荒北くんは透明なビニールの傘を投げてよこした。

「使えよ。」
「えっ?でも荒北くんは?」
「俺は寮だかんな。走ったらすぐだろ。」
「じゃぁそこまで一緒に」
「バァカ、一緒の傘なんて恥ずかしくてできっかよ。」

そう言って荒北くんは走り出した。
その顔はうっすら染まっていて、なんだかいつもの荒北くんじゃないみたいだった。
傘、貸してくれてありがとう。
その言葉さえ伝えられなかった。
ぶっきらぼうだけど優しくて、照れ屋で少し可愛い荒北くんの新しい一面をたくさん見つけた。
もう今までの話し辛さは感じない。
明日、朝会ったら一番に言うね。
傘を貸してくれてありがとう。
今度何かお礼をさせてね。



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