盲目 -前編-
入学当初は、その奇抜な髪型で気になって仕方がなかった。
気がつけば目で追っていた。
同じクラスとはいえ、席は離れているし話題も特になく、そもそも学校にあまりいない彼と関わることができなかった。
そんな彼が、いつの間にか自転車部に入部して髪型も変わった。
そしてその頃から私は、自転車部に通い始めた。
東堂ファンに紛れて、私はいつも荒北くんを追っていた。
二年に上がるとクラスも離れ、関わりが一切なくなってしまった。
荒北くんを見ることができるのは、いつしか部活だけになっていた。
「やぁ雛美ちゃん。今日も見学かい?」
そう言って声をかけてくれたのは、新開くんだった。
同じクラスになったことはないけど、自転車部に通うようになってからよく声をかけてくれた。
「こんにちわ、今日もお邪魔してまーす。」
「靖友もうすぐくると思うぜ。」
そう耳元で囁く彼は、私の想いを知っている数少ない一人だ。
時々荒北くんのことを教えてくれるありがたい情報源でもあった。
「いつもありがとう!今度何かお礼するね。」
「お礼、か。期待していいのかい?」
「もちろん!と言っても、大したことできないけど……あ、ケーキおごるとかどう?差し入れするよ!」
「そうだな、どうせケーキ食べるならバイキングでもどうだ?何ならこれもつけるぜ。」
そう言って差し出された携帯には、隠し撮りしたであろう荒北くんがいた。
居眠りしてる荒北くんや、ご飯を食べてる荒北くん。
あまり見ることができない姿に、私は興奮した。
「もらっていいの!?ケーキバイキングくらいいくらでも奢るよ!だから是非それ下さいっ!」
「オーケー。じゃあ明後日、土曜日なんてどうだ?ちょうど部活休みなんだ。」
「いいよー、大丈夫!また詳しくはメールするね。」
写真を転送していると、遠くから荒北くんがやってきた。
慌てて携帯を仕舞う新開くんを見て、荒北くんは眉を潜めていた。
「オィ新開。てめェ小鳥遊と遊んでる暇あったら練習しろォ、練習。」
「なぁに、遊んでたわけじゃないさ。ね、雛美ちゃん。」
そう言って新開くんが、私と肩を組むように腕を乗せた。
その手が勢い余って、私の胸に触れてしまった。
新開くんは気づかないのか、私を見てにこにこしている。
「し、新開くん!手がっ!」
新開くんは笑ったまま、パッと手を離した。
まるで何も悪いことをしていないかのようなその顔に、違和感を覚える。
「あぁ、悪いな。胸にあたっちまったか?」
「てめェ新開!イチャイチャしてんじゃねェぞこらァ!」
「ち、ちがっ……。」
あろうことか、荒北くんに誤解されてしまった。
それでも新開くんは、笑っているだけで否定してくれない。
「い、イチャイチャしてないから!新開くんとはそう言うんじゃないから!」
「ハッ、そーなのォ?んじゃまぁいいけどォ。」
誤解はなんとか解けたみたいだけど、新開くんの表情が硬くなった。
あれ、何か悪いこと言ったかな?
そう思っていると、遠くから福富くんの声がして、2人は練習に行ってしまった。
次の日は委員会があって、自転車部を見に行くことができず、そのまま帰宅した。
荒北くんの写メでも見て癒されようと携帯を開くと、新開くんからメールがきていた。
「明日11時に駅前で。あと靖友に雛美ちゃんのアドレスを聞かれたんだ。教えて大丈夫かい?」
荒北くんが??私のアドレスを??
理由はわからないけど、荒北くんと仲良くなれるチャンスだと思い、私はもちろん了承した。
しばらくすると、知らないアドレスからメールが来た。
荒北くんだ!
「俺荒北。新開に聞いたんだけど、小鳥遊のアドレスで合ってっか?最近よく新開と一緒にいるみてぇだけど、困ったらすぐ言えよ。」
普段の荒北くんからは想像出来ない内容のメールにきゅんきゅんした。
元クラスメイトでしかない私を心配してくれるなんて。
お礼のメールを打って、私は荒北くんからのメールを保護した。
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