想いの強さ




なんとなく、流されて今まで生きてきた。
小学校から中学までは持ち上がりだったし、高校も一番近いからという理由で選んだ。
おかげで寮生が多いうちの学校では珍しく実家通いだ。
これからもきっと、なんとなくその場の雰囲気に流されて生きて行くんだと思ってた。



そんなある日、私は意外な人物に呼び出された。

「ちょっといいか。」

品行方正、真面目で先生からの評価も高い福富くん。
髪色こそ派手だけど、彼ほど制服をきっちり着ている人は見たことがない。
有名だから存在は知っていたけど、クラスも違うし関わりがないから噂程度でしか知らなかった。
そんな福富くんに呼び出されるなんて、何か悪いことでもしたのかと焦る。

「え、私何かしたっけ?」
「いや、そういうのじゃないんだが……。」

口ごもった福富くんは少しうつむいた。
一体何の用なのかは分からないけど、断るのも悪い気がして私は福富くんと教室を出た。




しばらく無言で歩いた。
何の用なのか言ってくれない福富くんは、口を閉じたまま少し怖い顔で歩いている。
福富くんはもちろん、自転車部とも関わりのない私が一体何をしてしまったんだろう。
考えても答えのでないそれは、次第に私を唸らせた。
それに気づいた福富くんは足を止めて私に向き直った。

「呼び出してすまない。」
「ううん、それはいいんだけど……。迷惑かけちゃった?」
「いや、そういうのじゃないんだ。ただ……。」

また口ごもってしまった福富くんは俯いてしまう。
その顔が薄っすら染まっているような……。
じっと見ていると、顔を上げた福富くんと目が合った。
その真剣な眼差しに胸がどきりと跳ねた。

「好きなんだ。俺と付き合ってもらえないだろうか。」

突然の告白に私は呆然とした。
マイナスなことばかり考えていたのに、どうやら違うらしい。
福富くんの真剣な目が私を捉えて離さないせいで、どんどん顔が熱くなる。

「やっ、でも!私、福富くんのことあまり知らないし……。」
「これから知ってもらえれば、と思っている。」
「福富くんも私のこと知らないんじゃない?」
「そんなことはない。色々と新開たちに聞い……」

言いかけた口を福富くんは手で覆った。
言ってはいけないことだったんだろう。
目が泳いでいて、その姿の先ほどとの違いについ笑ってしまった。

「福富くんって、天然?」
「髪は染めている。」
「いやいや、そういうんじゃなくてさ。」

思っていたよりも話しやすい。
受け答えがチグハグになってしまうのがもどかしく思いながらも、天然なその返答が面白い。

「俺ではダメだろうか。」
「ダメってわけじゃないんだけど。私、本当に福富くんのこと全然知らないの。だから、友達からでもいい?」

ぱぁっと表情が明るくなった。
あまり感情を表に出さないと聞いていたけど、そんなこと全然ない。
むしろとても分かりやすい方だ。
私は福富くんと連絡先を交換して、教室に戻った。




それから毎日の様に、規則正しく連絡が来た。
おはようから始まるそれは、毎日決まった時間に挨拶が送られてくる。
一日何通もメールが来るのが面倒で、メッセをやり取りするアプリを教えてあげたら気に入ったらしい。
時々何て返したらいいのか分からないようなスタンプも送られてくるけど、それがまた面白かった。
お昼休みは時々一緒にご飯を食べた。
部活が忙しいらしくミーティングで居ない日も多かったけど、何も予定がない時はいつも誘ってくれた。
最初は2人きりだと私が気を使うだろうからと自転車部の面々と一緒だったけど、逆にそっちの方が居辛くて断った。
2人きりの方が福富くんをしっかり見れるし、何よりその方がたくさん話してくれる。
私はその時間が、いつの間にか楽しみになっていた。




そんなある日、私はまた呼び出された。
今回は2人でどちらも多少関わったことのある人物だけど、相変わらず呼びだされた経緯がわからない。
自転車部ではこれが当たり前なんだろうか。
そう思いつつも、私は促されるまま教室を出た。
ひと気のない場所までいくと、2人は神妙な面持ちでこちらに向き直った。

「寿一のことなんだけど。」
「実際どー思ってんのォ?」
「え、どうって?」
「福チャンがてめーのこと好きなのは知ってんだろ。いつまで返事待たせる気だよ。」
「寿一は何も言わないけど、何も進展してないみたいだから気になってさ。」

この2人は女子か何かだろうか。
普通男子は友達のこういうことに首は突っ込まないと思ってたんだけど、この2人に限ってはそうではないらしい。
荒北くんとはインフルエンザで休んだテストの追試で一緒になったくらいで、新開くんは委員会て一緒だった程度。
2人とも色々な噂は聞くけどこのまさかこんな風に関わることになるなんて思っても見なかった。
福富くんに出会ってから、私の平凡な毎日は日々新しいものへと変わっていく。

「別に、嫌いじゃないよ。」
「んなこと聞いてねェよ。」
「どっちかと言えば好き。」
「なんか中途半端だな。」
「これ以上は福富くんがいないところで話すのはフェアじゃないでしょ?」

そう言えば2人は押し黙った。
どうやら野次馬のつもりじゃなくてただ心配しているだけみたいだ。
それなら、と私は一言付け加えた。

「悪いようにはしないから。」

2人は顔を見合わせてニッと笑った。
口の前に人差し指を立てれば、新開くんは同じように真似て見せる。

「秘密だよ。」

そう言い残して、私は教室に戻った。




その日の部活は自主練だとかで、福富くんは部活前に私の教室に寄ってくれた。
時間があるのかと聞けばそうでもないらしい。
部活に対するまっすぐな強い想いは私にはないもので、少し羨ましい。
私は少しわがままを言ってみることにした。

「ねぇ、自主練って見れる?」
「見学か?」
「うん。福富くんが走ってるとこ見たい。」

福富くんは少し顔を赤らめた。
素直なところがすごく可愛い。
口にはしないけど、福富くんはとってもわかりやすい。

「構わないが……今日はローラーと言って外を走ったりはしない。面白みはないぞ。」
「うーん、ローラーがどんなのかわかんないんだけどさ。そもそも自転車に乗ってる福富くんも見たことないし、どんなでも良いから部活頑張ってる福富くんが見たい。」

"ダメ?"と聞けば、ブンブンと首を横に振る。
とても嬉しそうなその表情に、自分がどれほど好かれているのかを思い知らされた。
こんなにまっすぐ想ってくれる人なんて、他にいるだろうか。
私はいつの間にか福富くんに惹かれていたのだと気づいた。
何でもないことが楽しくて、相手をもっと知りたいと思う。
この気持ちをどう伝えようか。
嬉しそうに下駄箱に向かう福富くんの後ろを歩きながら私は頭を悩ませた。
そして考えながら歩いていたせいで、福富くんにぶつかってしまった。

「うあ、ごめん!」
「どうした?大丈夫か?」

心配そうに覗き込んできたその顔に、胸がきゅんと締め付けられた。
あーもう。雰囲気とかどうでもいいや。

「こんな時にごめん。私、福富くんが好き。」

目を丸くした福富くんはしばらく固まったあと、顔を真っ赤に染めた。
それがもう可愛くてたまらない。
一度自覚した想いは一気にその強さを増して行く。

「あの時の返事、もう時効?」
「そ、そんなことはない!」

慌てた福富くんは、少し大きな声を出してしまった。
そのせいで周りの視線が私たちに集まる。
今私も福富くんに負けないくらい真っ赤になっているだろう。

「じゃぁ、これからよろしくね?」

そう言うと、福富くんは少し笑って頷いた。
こんなに嬉しそうに笑うところは初めて見たかもしれない。
それに嬉しくなりながら、私は福富くんの手を取った。

「部活、いこっ。」

そう言って私たちは歩き出した。
時間をかけてごめんね。
私にないものをたくさん持ってる福富くんに、惹かれないなんて無理な話だよね。
好きになってくれてありがとう。

そのやりとりを見ていたあの2人に、からかわれるのはこの10分後。


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