スイカズラ-2-

※視点が途中入れ替わります。



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+夢主視点+




高校生活は何だかとても退屈だった。
どんな刺激も、やっちゃんがいた頃に比べたら何でもない。
あのころは良かったと毎日のようにこぼす私は、友達に高校生らしくないとよくからかわれた。
色恋の話で盛り上がる友達を後目に、私はいつも空を眺めていた。
この空の下のどこかで、やっちゃんも勉強してたりするんだろうか。
高校に入ってからはちゃんと真面目にやってるのかな。
離れてしまっても、私の中はずっとやっちゃんでいっぱいだった。
お盆に少し帰省したと聞いたけど、結局会うことは出来なかった。
お正月は私が家族で帰省してしまったこともあり、会えなかった。
そうして月日を重ねて、気づけば2年が経っていた。
おばちゃんの話で新しく部活を始めたと聞いたときは心が躍った。
メールをしようか悩んで結局やめてしまったけど、いつかその話が聞きたいと思っていた。
それなのに一向に会えなくて、私はモンモンと悩んでいた。
今年の夏は、会えるだろうか。





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+荒北視点+




高校に入って暫くは、何もやる気が起きなくてただ毎日を浪費していた。
授業に出ることも稀だった俺は成績も悪く、もういっそ学校なんてやめてしまおうかと思ったこともある。
ただそれを出来ずにいたのは、ここを出たら俺には家に戻るしかなくなるからだ。
家に戻れば、嫌でも雛美と顔を合わせる。
あいつからソフトを奪った俺がどんな顔して会っていいかわからず、結局帰省も雛美を避けるように済ませた。
そんな俺がロードに出会って変わった。
毎日が充実してるとは言い難いが、やりたいこともできた。
もううんざりだと思っていたスポーツをまた楽しむことが出来た。
ただ、今の俺は胸を張って雛美にこのことを話す自信がなかった。
自信が出るまで、と先延ばしにしていたせいで結局もう3年だ。
今年で引退してしまう。
せめてその前に、一度でいいからロードに乗った俺を見てほしかった。
夏にはインターハイがある。
雛美に会うため、俺は帰省することを決めた。




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夢主視点



ある休日、いつものように家でゴロゴロしているとスマホが鳴った。
迷惑メールかなぁ、そう思いながら放っておいたスマホは鳴りつづけている。
どうやら電話らしい。
休日に突然電話してくるような知り合いはいないはず。
誰だろうと思いつつスマホを見ると、長らく見ていない名前が表示されて私は慌てて通話をタップした。

「やっちゃん!?」
「よう。今出れるか?」

スマホから響く懐かしい声にドキドキする。
体から”好き”が溢れてくるようだ。
私は自分の気持ちを必死に抑えつつ、平静を装う。

「今?出るってどこに?」
「外。」
「外?別に出れるけど……。」

言っている意味が良く分からずに聞き返したのが癇に障ったのか、やっちゃんの声は少し荒くなる。

「だからァ!外出てこいつってんのォ!今すぐ!」
「え、あ、はい!」

私は部屋着のまま玄関を開けて、言葉を失った。
やっちゃんが、いる。
あの時より少し身長が伸びただろうか。
幼さが消えて、凛々しくなったな。
髪は少し伸びたね。
色んな思いが頭を駆け巡って、私は泣いてしまった。
やっと会えた、その思いが私を満たしていく。
やっちゃんは通話を切ると、ため息をつきながら頭をかいた。

「なンで泣いてんだよ……。」
「や、ごめっ。うれ、しくて……。」
「ハッ、そんなに俺に会いたかったのォ?」
「会いたかったよ!ずっと、ずっと会いたかった……。」

思わず漏れた言葉に、慌てて口をふさいだ。
だけどしっかり伝わってしまったらしいその言葉に、やっちゃんは少し頬を染めた。

「話したいこと、あんだけどォ……。」

そう言われてハッとした。
部屋着のままで出てきてしまったことを思い出して、急に恥ずかしくなる。
このまま外にいることは出来なくて、私はやっちゃんを部屋に招いた。




別室で着替えてお茶を入れて部屋に戻った。
ドアを開けるまで、さっきやっちゃんが居たのは本当は夢だったんじゃないかと思っていた。
だけどドアを開ければちゃんとそこにいる姿に、私は胸をなでおろした。

「お待たせ。話って?」
「ん、部活の、ことなンだけど。」

そう言ってやっちゃんはスマホの画像を見せてくれた。
そこには青い自転車が映っていて、スタイリッシュなその自転車にやっちゃんが乗っているのだという。
ロードバイクのことはさっぱりわからない私に少しずつ説明しながら、やっちゃんは高校生活の話をしてくれた。
部活でロードに乗っていること、いい友達もできたこと、そして今度大きなレースに出ること。

「やっちゃんレギュラーなの?」
「おう。」

照れながらも嬉しそうに笑うやっちゃんは、野球をしていた頃のやっちゃんに戻ったみたいだ。
野球と同じくらい好きなものが出来たんだと言っているようで、私はとても嬉しかった。

「場所は箱根だからこっからだとちょっと遠いけど……来ねェ?」
「えっ?」
「だからインターハイ。観に来てくれねェ?」
「行っていいの!?」

思わぬ誘いに、私は驚いて大きな声を出してしまった。
そんな私をみて、やっちゃんはクスっと笑う。

「来て欲しいから誘ってんだけど。」
「行く!絶対行く!当日、やっちゃんに会える?」
「会えんじゃねェ?連絡くれたら探すし。」

私は必ず行くこと約束した。
嬉しそうに笑うやっちゃんはやっぱりかっこよくて、思わず告白しそうになって言葉を飲み込んだ。
レース前の大事な時期に言うようなことじゃない。
自主練の為に今日中に箱根に戻るというやっちゃんを見送って、私は部屋に戻った。
そういえば、やっちゃんは何か用事があって帰ってきたんだよね?
それなのにうちに寄ってくれるなんて、珍しいけど嬉しい。
私はインターハイが楽しみで仕方がなかった。




それからやっちゃんは頻繁に連絡をくれた。
学校や部活の話を楽しそうにするやっちゃんはとても可愛くて、電話越しに聞こえるその声がとても愛しかった。
インターハイは3日間。
私はお母さんにお願いして近くのホテルを取ってもらった。
夜はホテルから出るなとか色々条件を付けられたけど、私の目的はやっちゃんのインターハイだ。
それ以外に興味はないと伝えると、お母さんは納得してくれたらしい。
私とやっちゃんの交流が復活したのを何より喜んでくれたのはお兄ちゃんで、お兄ちゃんが説得に付き合ってくれたのも大きい。
お兄ちゃんにお礼を言うと”弟のためだからな”と言われて首をかしげた。
男勝りの私のことだろうか?それとも弟のようなやっちゃんのことだろうか?
クスクスと笑うお兄ちゃんは、いくら聞いてもその真意を話してはくれなかった。



そして迎えたインターハイ。
やっちゃんに流れなどを教えて貰っていたこともあり、私はスムーズに観戦することが出来た。
毎日暑い中、すごい汗をかきながらやっちゃんは物凄いスピードで私の前を走り抜けていく。
その姿が本当にカッコよくて、私は興奮した。
もっと早くに教えてくれたら、もっとたくさんレースが観れたのに。
そうして迎えた3日目、やっちゃんは落車した。
そのことを聞いたのは、レースが終わってからだった。
”ゴールを切れるかはわからない”と行っていたから、覚悟はしていた。
そういうものなんだと納得するしかなかった。
でもやっちゃんの3年間の集大成がそれなのかと思うと、涙が溢れた。
暫くしてやっちゃんが私の所へ来て、嬉しそうに笑う意味がわからなかった。

「ゴールできなくて悔しくないの?」
「悔しいよォ。けど、インターハイ3日目で俺、チーム引いたんだぜ。最っ高に気持ち良かった。」

”やりきった”と笑うやっちゃんに、私はまた泣いてしまった。
やっちゃんの3年間は、キラキラと輝いていたはずだ。
最後にこんなにいい笑顔で笑えるくらい、充実した日々だったんだろう。
それを落車したことでマイナスに捉えていた自分が情けなかった。
そんな私を抱きしめて、やっちゃんはニッと笑う。

「ハッ、泣いてんじゃねェよ。」
「ご、ごめっ……。」
「落車したことも、1位取れなかったことも死ぬほど悔しい。けど、今までは無駄じゃなかったって思えたンだよ。」
「うん……。」
「雛美も来てくれたしな。」
「やっちゃんのためだもん。」

私は涙を拭って、ニッと笑った。
そんな私の頭を撫でて、やっちゃんはクスリと笑う。

「俺自転車続けるからァ。」
「うん。」
「また観に来ねェ?」
「教えてくれたら絶対行く。」
「ん、あと。」

”付き合って”そう囁かれて、私は目を丸くした。
やっちゃんは少し頬を染めて私を見ている。
返事をしなければ、そう思えば思うほど私は焦って言葉に出来ない。

「あっ、え……わた、……」
「落ち着けっつーの。」

クツクツと笑うやっちゃんには、きっと私の気持ちが伝わっているんだろう。
だったら、この言葉だけで大丈夫だ。

「ずっと、大好きだったよ。」
「ハッ、何だよ。一緒だったんじゃねェか。」

そう言って笑うやっちゃんはキラキラと輝いている。
あの時はやっちゃんを支えてあげることが出来なくてごめんね。
これからはずっと私がやっちゃんを支えて行けるよう頑張るから。
だからどうか、いつも笑っていて。
その笑顔が何より私を幸せにしてくれるから。



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友達のゆきちゃんにネタを頂き、書かせて頂きました。
スイカズラの花言葉は「愛のきずな」「献身的な愛」です。
楽しんで頂ければ幸いです。


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