片思い



"好きだよ"と何度言っても、あなたは私の頭を撫でて微笑むだけだった。
返事を聞いてもうやむやにされて、いつもの友達に戻る。
そんな日がもう6年も続いているのだから私も相当しつこいなぁ。




中学で隼人に一目惚れしてから、もう6年。
女子の中では1番仲がいい自信はあるけど、それ以上にはしてもらえない。
私はずっと隼人一筋だったし、その思いを伝え続けてきた。
だから彼氏がいたことがないのは当然なのだけど。
隼人の方も彼女がいたことがないというのは不思議だった。
私だけじゃない、いろんな子が告白して振られている。
私と他の子が違うのは、きっぱり振られているかどうかくらい。
いっそきっぱり振ってくれたら諦めもつくのかもしれない。
それでも隼人は、いつも笑うばかりだった。
優しいから、きっと私を傷つけたくないんだよね。
でもそれが辛いなんて口にはできない。
恋人になれないならせめて、女子で一番の友達でいたいから。




今日も隼人は一年の子に呼びたされて行ってしまった。
女の子の顔が赤かったから、きっとまた告白されてるんだろう。
結構可愛かったけど、付き合ったりするんだろうか。
私の中にはモヤモヤとした何かが溜まって行く。
好みを聞いてもはぐらかされるばかりで、いつもその手の話はまともにしてくれない。
そんなことを考えていると、早々に隼人は戻ってきて私の前の席に座った。

「ただいま。」
「おかえり。」

少し落ち込んだ様子からして、隼人は断ったんだろう。
前に振る側も楽じゃないねなんて皮肉を言って随分凹ませてしまってから、私は結果を聞かないようにしていた。
気にならないわけではなかったけど、帰ってきた隼人を見れば大体わかる。
優しい彼は、傷つけないように断ることの難しさにいつも悩んでいた。
曖昧にすればあとを引く。
かと言ってはっきり言いすぎるのも傷つける。
だからいつも、疲弊して帰って来る。
隼人は椅子を抱えるようにして私の方へ向き直すと、私の机に突っ伏した。
柔らかなその髪を撫でると、いつになく元気のない声がする。

「俺って悪いやつかな。」
「どうして?」
「嘘つきだからさ。」

隼人は回りくどい印象はあるけど、決して嘘つきなようには見えない。
私は隼人が言っている意味がよくわからなかった。

「嘘ついてきたの?」
「あぁ。ずっと自分に嘘ついてる。」
「自分??」

さっきの告白の話ではないのだろうか。
撫でていた手を止めると、強請るように手に頭を擦り付けてきた隼人はいつもと違って困惑した。

「もっと。」
「え?」
「手、もっとしてくれよ。」

突っ伏したままで表情はよくわからなかったけど、私は言われるままに髪を撫でた。
少しくせのある毛が指に少しくすぐったい。
しばらくそうしていると、ポツリポツリと独り言のように話し始めた。

「大事なもんほど失いたくねぇからさ。」
「うん。」
「手を伸ばしたら逃げちまうんじゃないかって不安なんだよ。」
「まぁ、そうかもね。」
「だからって俺に繋ぎとめられるもんなんて
何にもねぇのにな。」

一体なんの話をしているのかサッパリだ。
最初はうさ吉の話かとも思ったがそうでもなさそうだし、隼人はどうしちゃったんだろう。
どうしたの、そう言おうとした時ふいに撫でていた手を掴まれた。
バッと顔をあげた隼人の目にはうっすら涙が溜まっている。

「はや」
「雛美は何で俺のそばにいてくれるんだ。」
「え、どうしたの急に。」
「俺のどこが好きなんだ?」

改めて聞かれるととても恥ずかしい。
だけど、言わなければ隼人はきっと傷つく。
私は深呼吸すると隼人をじっと見つめた。

「優しいとこ。でも優し過ぎて傷ついちゃうから心配。いつも笑ってるとこ。でも辛いときも笑うからそういう時はちゃんと顔に出していいと思う。ロード頑張ってるとこ。でもオーバーワークには気をつけて欲しい。」

隼人の目から涙が溢れた。
泣いている隼人を見たのは、うさ吉の時以来だ。
眉間にシワを寄せて、泣くのを我慢しているのが見ていられない。

「ねぇ、甘えていいんだよ。そんなに頑張らなくていいの。泣きたいときは泣けばいいじゃん。」
「だって……。」
「うん?」
「泣くのとか、みっともないだろ。」

そんなことを言う隼人は小さな子供に見えた。
今までたくさん我慢して、しすぎて、甘え方を忘れてしまったんだろうか。
私は席を立つと隼人をそっと抱きしめた。

「みっともなくないよ。誰がなんと言おうと、隼人はかっこいいよ。愚痴でも文句でも、私は聞いてあげるよ。だからもう我慢しないでよ。」

小さく嗚咽を漏らす隼人の背中を優しく撫でながら、私はしばらくそのまま隼人を抱きしめていた。
時折、私がいるのを確認するように名前を呼ぶ隼人は子供のようだ。
一体いつから、甘えずに頑張っていたんだろう。
そのことに胸が苦しくなった。
もっと早くに気づいて上げられればよかった。
我慢しているのは知っていたはずなのに、私はなんてバカなんだろう。
悔しさで私の頬を涙が伝った。

「隼人、ごめんね。」
「え?」
「もっと早く、こうして抱きしめてあげればよかった。」

泣き止んだ隼人は立ち上がると、私のおでこに自分のおでこをくっつけた。

「俺、雛美に言わなきゃならないことがあるんだ。」
「うん?」
「ずっと好きだった。」

思いもよらない言葉に、私は文字通り言葉を失った。
あまりの衝撃に涙も止まる。

「俺こんなだからさ。付き合って嫌われんの怖くて、友達なら失うことなんてないとか勝手に思ってた。けど、そうじゃないんだよな。」

隼人は困ったように眉を下げて、目を伏せた。

「さっきの子に言われたんだ。"人の気持ちはいつか変わる。だから先輩気持ちもいつか私に向くんじゃないか"って。」
「それ、で?」
「雛美の気持ちもいつか変わるかもしれねぇって思ったら、何かもうよくわかんなくなっちまった。」

私は隼人の頬に両手を添えると、私の方を向かせた。
唇が重なるんじゃないかと思う程近い顔にドキドキしつつも、自分の気持ちを告げる。

「私の気持ちは変わらない。ずっと隼人が好きだよ。隼人の気持ちは変わっちゃうの?」

目を丸くした隼人は、首をぶんぶんと横に振った。
前髪がぺちぺちと当たってくすぐったくて、つい笑ってしまう。

「じゃぁ大丈夫だよ。私はどこにも行かない。だから甘えてよ。」
「雛美っ……。」

力強く抱きしめられて、体が軽く浮いてしまった。
慌てて私を下ろした隼人は、いつもの優しい顔で笑っている。
そっと降りてきたその顔に目を閉じて、軽く触れるだけのキスをする。
目を開ければお互い真っ赤で笑ってしまった。
片思いはもうおしまい。
これからはたくさん甘やかしてあげるから。
だからどうか、隼人が笑ってくれますように。


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