誰よりも君を想う




小動物のような愛らしさに、気づけば恋に落ちていた。
ふわふわとした雰囲気にいつも笑っているその姿が自分だけのものであればいいと思ったのは、一体いつからだろう。
異性が苦手だというから、仲良くなるにはとても時間がかかった。
それはまるで野生動物を飼いならすようで、とても楽しくもあった。
一度懐いたら離れることはないと知ったのは、それからしばらく経ってからだ。
他愛ない話でじゃれることが出来るようになった頃、俺はその思いを告げた。

「付き合ってくれよ。」

雛美は驚きつつも頬を染め、こくりと頷いた。
それからは、本当にあっという間だった。
何をするのも俺優先で、どんなわがままだって聞いてくれた。
そんな雛美を試すように暴言を吐いたこともあったが、それすら受け入れて雛美は笑うんだ。
"至らない彼女でごめんね、頑張るから。"
いつしかそれが雛美の口癖になった。
俺が振り回していることは分かっていた。
傷つけていることも、無理をさせていることも知っていた。
だけど慢心はそう簡単には治らない。
離れないと高を括った俺は雛美に甘え切っていた。
守るべき存在だったはずなのに、俺はいつしか雛美を壊してしまうんじゃないかと怖くなった。
誰よりも幸せになって欲しいのに、不幸にしているのは俺自身だ。
それに気づいた時、鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
一体俺は何をしているんだろう。
自分のしていることを自覚しているのに治らない行動に苛立ちを感じ、八つ当たりしたこともあった。
"一緒にいたらダメになる"
そう思った。
俺が壊してしまう、と。
そしてそれは足音もなく、でも確実に近づいている未来だ。
外界から雛美を切り離せれば、なんて考えた自分が怖くなり俺は手放すことを決めた。
別れを切り出せば"捨てないで"と泣いて縋る雛美に胸が締め付けられた。
思えば、それが唯一のわがままだった気がする。
好きだった。
愛していた。
手放したくはなかった。
でもそうしなければ、いつか雛美を壊してしまう。
縋る雛美を突き放し、暴言を吐いて俺は立ち去った。
共通の友人なんてものはとうに俺を見放していて、気づけば一人になっていた。
それからはただ無機質な毎日を過ごした。
楽しいことなんて一つもない。
雛美がいた頃は、何をしていても幸せだったのに。
雛美の代わりにと一夜限りの相手とと関係を持ったこともある。
だけどそれは虚しさを募らせるばかりで、バカらしくてやめてしまった。
毎日をまるでノルマのようにこなすだけの日々。
そんな日にも飽き飽きして、仕事でも変えようかと思った頃同窓会の知らせが届いた。
"雛美に会えるかもしれない"というわずかな光が俺に差し込み、心を満たして行く。
一目見るだけでも構わない。
何を言われてもいい、ただ会いたい。
その思いだけで会場へ行くと、昔より落ち着いた知人が目に入る。
雛美も変わってしまっただろうか。
そう思いつつも辺りを見回すと、後ろから肩を叩かれた。

「隼人くん!」

懐かしいその声に振り向けば、愛しいあの笑顔が目に映る。

「あ、俺……。」

何かを口にしようとして、飲み込んだ。
あんなに酷い突き放し方をしておいて、今更俺に何が言えるんだろう。
雛美口ごもる俺の腕を優しく取ると、にっこりと微笑んだ。

「ちょっと、外でよっか。」




促されるままに外に出ると、雛美は俺に向き直った。
あの頃より綺麗になったその姿は、誰のためのものなんだろう。
……見えない相手に嫉妬するなんてどうかしてる。
自分でもわかっているのに、俺は自分自身をコントロール出来ずにいた。

「久しぶり、だね。8年ぶりくらいかな?」
「そう、だな。」

優しく笑うその顔が、とても眩しく感じられる。

「あれからどう?私はね、何にも変わらないよ。今でも、まだ……。」

そう言って、目に涙を溜めた雛美は俯いた。
その続きが察せない俺は、無粋な問いを投げてしまう。

「まだ、どうした?」
「……隼人くんは、彼女いるでしょ?それだけかっこいいんだもん、仕方ないよね。」
「雛美の後は誰もいないさ。ずっと一人だ。」
「本当に?」
「あぁ。」

雛美の表情が少し明るくなった。
懐かしいその顔に、胸がギリギリと締め付けられる。
今すぐ抱きしめてしまおうか。
俺は自分を抑えるのに必死だった。
そんなことは知らない雛美は、また俺の手に触れる。
遠慮がちに握られたのがとてももどかしい。

「隼人、くん。あのね、私……まだ隼人くんが好きなの。」

雛美は頬を真っ赤に染めてそう告げると、ポロポロと涙をこぼした。
信じられないその言葉に耳を疑う。
何も言えずにいる俺に、雛美はそっと言葉を重ねた。

「ごめんね、忘れられなくて。あぁすればよかった、こうすれば良かったってばかり考えちゃうんだ。今日も、会えるといいなって思って探してたの。しつこくてごめんね。」

眉を下げて困ったように笑う雛美を、気づけば力一杯抱きしめていた。

「好きだ。ずっとずっと好きだった。会いたかった。突き放すようなことして、信じてもらえねぇかも知れないけど……愛してる。」
「ほん、とに?」
「もう嘘はつかない、だから俺と」
「待って!そこから先は、私に言わせて?」

雛美は俺を抱きしめて、おでこを振り寄せた。

「隼人くんが好き。だから、また付き合ってください。」

答えなんて決まっている。
頬を染めて見上げる雛美の唇に、自分のそれを押し当てた。
もう二度と、悲しませるようなことはしない。
誰よりも何よりも大切にする。
俺の彩りは、いつも雛美が与えてくれるのだから。
もう二度とお前を離さない。


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