想いは平行線


※友人視点のお話です。



高校でできた私の親友には、幼馴染が2人いる。
1人は金髪だけど、品行方正で成績も優秀、真面目なで凛々しい福富君。
もう1人は茶髪でいつもニコニコしていて、みんなに優しく甘いルックスの新開君。
3人は中学から一緒らしく、とても仲が良い。
特に新開君と雛美はよく話すし、新開君も雛美には特別優しい気がする。
そのせいで何度か付き合ってると間違われたこともあるそうだ。
そんなことがあっても3人はいつも一緒で、そこに私が混ぜてもらった感じで最近は4人でいることも増えた。
そんなある日、私は雛美から相談があると呼び出された。
雛美の部屋をノックすると、カチャリとドアが開いた。

「きてくれて、ありがとう。」
「ううん。それで、どうかしたの?」
「うん、まぁ座ってよ。」

促されるまま腰を下ろすと、雛美はゆっくりと口を開いた。

「ねぇ、寿一って私のことどう思ってるように見える?」
「福富君?うーん、仲のいい友達かなぁ。新開君ほど露骨じゃないけど、大事には思われてるんじゃない?」
「そっか、そう、だよね。」

だんだんうつむいて行く雛美に、私はハッとした。
もしかして雛美は福富君が…?

「寿一はいつも自転車中心だからさ。きっと私のことなんて友達にしか見てないのはわかってるんたけどね。それでも、そろそろ辛いなぁ。」
「……好き、なの?福富君のこと。」
「うん、中学の時からずっと。隼人と噂されることはあるのに、寿一とされることはないのが正直辛い。まぁ、隼人は誰にでも優しいからだけど。」

そう話す雛美の目からは、ぽたりと涙が落ちた。
ねぇ、雛美。
雛美は気づいてないかもしれないけど、新開君は雛美に特別優しいんだよ。
そう言いたい気持ちを、ぐっと堪えた。
雛美は福富君しか見てないから気づいていない。
私は、雛美を見てる新開君を見続けているからわかる。
新開君は、雛美のことが好きなんだ。
こんなこと言っても困らせるだけだ。
私は出来る限り笑って雛美を慰めた。

「でも、福富君と一番仲がいい女の子は雛美だと思うし、諦めることないでしょ?自信もちなって。」
「そうなのかな。なんかもう、よくわかんなくて……。」
「大丈夫、一番仲いいのは雛美だよ。それは私が保証するから。」
「ありがとう。実は隼人にも同じこと言われてさ。でもやっぱ女子からの視点が聞きたくて……呼び出してごめんね。隼人にも謝らなきゃ。」

告白するよ、そう言った雛美の背中を私は押してしまった。
それが結果的に新開君の恋が叶わないことになるとわかっていながら。
我ながら、とてもずるいと思う。
雛美と別れて自室に戻ると、コンコンと窓を叩く音がした。
そっと覗くと、茶色い髪が目に入る。
私は慌てて窓を開けた。

「新開君!?」
「やぁ。ちょっといいかい。」

窓枠に手をかけてよじ登る新開君を部屋に招いてしまった。
門限前とはいえ、部屋に男子がいるなんてあってはならないことだ。
私はソワソワしてしまう。

「急にどうしたの?窓からなんて……。」
「雛美から寿一が好きだって聞いてさ。女の子にも意見を聞きたいって言ってたから。」

雛美の言った女の子、というのは私のことだ。
そして新開君も、それが私だと察したらしい。
だからわざわざ私の部屋まで様子を伺いに来たのだという。
新開君は何時ものように笑いながら、でもどこか寂しげに口を開いた。

「参るよな。好きな女に違う男が好きだなんて相談されたら。」

私の予想は、確信へと変わる。

「雛美はどうするって言ってた?」
「告白、するって。近いうちに。」
「そうか……。なぁ、雛美が振られた所につけ込むなんて、俺はずるいか?」
「雛美は、振られるの?」

ずるいなんて言えない。
自分だって同じようなことをしようとしてた。
新開君は悲しそうに笑いながら、一度だけ頷いた。

「福富君好きな子でもいるの?」
「いや、前に一度聞いたことがあるんだ。なんで誰とも付き合わねぇんだって。そしたら"自転車より大事には出来ないから"って言うんだよ。」

笑っちまうだろ、そういう新開君の瞳は寂しい。
私は黙り込んでしまった。
雛美の背中を押したのが、誰にとっても悪いことにしかなっていない気がしてくる。
今更もう後戻りなんて出来ない。
私は全ての行く末を、見守ることしかできないのだから。




数日後、雛美から振られたと報告された。
応援してくれてありがとう、と告げるその声は震えている。
俯いたまま顔を上げないのは、泣いているからかもしれない。
私は罪悪感でいっぱいになった。

「ごめんね……。」
「誰も悪くないよ、大丈夫。なんとなく、わかってたから。」

そう言って必死に笑う顔は痛々しくて、私は見ているのが辛くなった。

「それにね。自転車より大事に出来ないってことは、自転車の次くらいにはなれるかも知れないじゃない?だからまだ、諦めるつもりはないの。」

雛美は、どうしてこんなに強いんだろう。
私なんかと違って、いつも真っ直ぐでキラキラしている。
新開君が好きになるのも、わかる気がした。
こんな雛美に、勝てる気がしない。
パッと顔を上げた雛美の頬は、少し濡れている。

「実は、隼人にも相談してたんだよね。報告、してこなきゃ。」

涙を拭って笑う雛美を、私は引き止めることができなかった。
もう何が良くて何が悪いのか、私にはわからない。
雛美を見送る私の頬は、なぜか濡れていた。




その日の夜、また窓を叩く音がした。
開けるとまたそこには新開君がいた。

「こんばんは。ちょっといいか?」

そう言いながら新開君は窓をよじ登って入ってきた。
きっと雛美のことだ。
私は胸が痛くなった。

「今日、雛美が寿一に振られたって言いに来たよ。おめさんとこにも行ったんだろう?」
「うん……。」
「その時さ、俺も言っちまったんだ。雛美が好きなんだって。……でも振られちまったよ。それでも寿一が好きなんだと。」
「それで、新開君はどうするの……?」

我ながら酷なことを聞いたと思う。
新開君は困ったように笑った。

「俺も、諦められねぇんだ。それでも雛美が好きだ。」
「雛美のこと、本当に好きなんだね。」
「あぁ。ダメ元だったんだ、また自分を磨くさ。」

気持ちに嘘はつけないから、と言う新開君の目は真剣だ。
やっぱり、勝てる気がしないよ。
雛美も新開君も、とても強くて輝いて見える。
もちろん福富君も、揺らがない強さがある。
4人で一緒にいても、やっぱり私は3人の中に入り込んではいなかったんだ。
この後に及んで告白する勇気なんてない。
私の気持ちは、誰よりも弱かったんだと思う。
何よりも、誰よりも、どうしても、なんて思えなかった。
そう思える3人の中では私はポツンと浮いているように感じて、それからは距離を取るようになった。
最初は雛美も気にかけてくれていたけど、私が一緒にいるのが辛くて結局疎遠になった。
そうして数年が過ぎて、風の噂で雛美が福富君と結婚したと聞いた。
それまでずっと想い続けた雛美はすごいと思った。
私の中にはもう新開君はいない。
あの時に感じた強さは、やっぱり私にはなかったんだ。
いつか、私もあの強さを手に入れることができるだろうか。


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