災いの元




私は昔からいつもそうだ。
口から出る言葉はいつも鋭くて、周りを傷つける。
そうしたいわけじゃないのに、どうしてもうまく行かない。
いつも大切な誰かを傷つけて喧嘩別れしてしまう。
こんなことになるなら、いっそ話さなければいい。
誰かと仲良くなるより、できるだけ話さずに口を閉ざそう。
もう何度目か分からない友人との別れに、私はそう誓った。




でもその誓いは、入学早々破られることになった。
隣の席になった赤い髪の男の子は、いつも私に話しかけてくる。
返事をするまで続くそれに、私はいつも根負けしていた。

「雛美ちゃんおはようさん!今日もべっぴんやなぁ。」
「……はよ。」
「なんや元気ないんか?せや、ええもんあんねん。」

鳴子はポケットの中に手を突っ込むと、色とりどりのキャンディを取り出した。

「昨日商店街で買い物したら飴ちゃんの掴み取りやっててん!雛美ちゃんどれがええ?」
「いらない。」

"今はいいよ、ありがとう"なんて思っても、口から出るのはそっけない言葉ばかりだ。
そんな自分に嫌気が差す。
それでも鳴子は気にしていないようで、私の手を取ると赤いキャンディを二つ乗せてくれた。

「雛美ちゃんは特別やで!」
「何が?」
「赤はワイの一番好きな色なんや。」

キャンディを指差して太陽のように笑う彼は、なんて輝いているんだろう。
人懐っこいその笑顔が、すごく羨ましい。
そしてそんな鳴子のことが、私は知りたくなってしまった。
鳴子のことをたくさん知ったら、私も彼のようになれるだろうか。

「好きな色のキャンディなのになんで私にくれるの?」
「そんなん決まっとるやん、ワイが雛美ちゃん好きやからあげてん。」

カッカッカッ、と笑った彼は、ぽかんと口を開けている私を見て顔を赤くした。
それはもしかして、友人という意味ではないんだろうか。

「……なんか言うてや。」

何も言えずにただ鳴子を見ていたら、拗ねたように口を尖らせた。
それがとても子供っぽいのに、いつもと違ってドキドキするのは何故だろう。

「鳴子。」
「なんや?」
「私のこと好きなの?」
「めっちゃ好きやで。」

何を今更、そんな当たり前だとでも言うような顔をして、鳴子は私を見た。

「なんで?」
「強いて言うなら一目惚れやな!あとはまぁ、言いたいことはっきり言うとことか、気強いくせに脆いとことかええなって。迷惑か?」
「ううん……。」

一目惚れ、という一言にも驚いたがそれ以上に私は耳を疑った。
脆いなんて、鳴子に対してそんな素振りは見せたことがないはずなのにどうして知っているんだろう。
心がふわりと軽くなって、なんだか少し暖かくなった気がした。

「雛美ちゃん、どないしたん?」
「えっ?」

気づけば目からは雫が落ちていた。
目の前でオロオロする鳴子はいつもの自信が嘘のようで、とても可愛い。
私のこの口調を"気が強い"としか思わない鳴子となら、仲良くなれる気がした。

「ねぇ鳴子。」
「なんや?腹でも痛いんか?」
「友達から始めてもいいかな。」

その言葉に、鳴子は目を丸くした。
そしてプッと吹き出してしまった。

「ワイはもうとっくの昔に友達になったつもりやったで!」
「え、あ、ごめん?」
「ええよ、友達からで。その代わり」

"いつかその先も"
そう言って笑う彼は、やっばり太陽のように輝いて見えた。


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