続・照れ隠しは程々に


※2015WD「照れ隠しは程々に」の続編です。



なんとも言えない告白をして、私は巻島の彼女になった。
結局付き合い始めたのはホワイトデーからだ。
幸い、2年になってもクラスが離れることはなかった。
だからと言って、これと言って私たちの関係に変化はない。
付き合ってもう3ヶ月になるというのに、私たちは何一つ進んでいないのだ。
デートこそしたものの、キスはおろか手を繋いだこともない。
前は冗談で腕を絡めていたのに、今では妙な気恥ずかしさが湧いて出来ない。
会うことも話すことも出来るのに、触れることが出来ないだけで私は深刻な巻島不足に陥っていた。

「ねぇ、巻島ぁ。」
「何ショ。」
「次の部活休み、金曜だよね。」

机にだらりと体を乗せながら、前に座る巻島の服を引っ張った。

「あーそうだな。土日は部活だから……。」

言い方を間違えた、と思う。
多分巻島は、私が部活に不満を持ってると感じたんだろう。
髪を軽くかき上げながら困ったように眉を下げているのは、きっと謝罪の言葉を探しているからだ。

「あー、違うの。部活はいいんだけどさ。金曜自主練終わってから会えない?」
「自主練終わってからだとあんまり時間ないショ。」
「ダメ?」
「ダメってわけじゃ……。」

言葉を濁す巻島は、ハッキリとした言葉をくれない。
それでも嫌がられているのはなんとなくわかる。
付き合ってから、いつもこうだ。
前のように触れることも、2人でふざけたりすることも無くなっていた。
私に対して不満は言わないけど、誤魔化されてしまう。
幻滅されているのかもしれない。
私はため息を一つついた。

「無理ならいいよ、また今度ね。」
「悪いな。」

そんなホッとしたような顔で見ないでよ。
誤魔化されたことよりも、その表情に胸が痛くなった。




週末、部活を見に行ったけど巻島はあまり嬉しそうではなかった。
最近目を合わせてくれないな、とは思っていたけどそれが露骨と言うか、避けられているんじゃないかと思う。
休憩中田所くんが気を使って2人きりにしてくれたのに、当の巻島は金城くんの所へ行ってしまった。
”もしかして”という考えが、確信へ変わっていく。
きっと巻島は、私のことを好きじゃない。
巻島のことだから、別れを切り出せずにずるずるいるに違いない。
優しくされたら忘れられないじゃないか。
振るならキッパリ、バッサリと振って欲しい。
モヤモヤとした不満が私の中に積もっていく。
ねぇ巻島。
私は前みたいに、ふざけ合える方が良かったよ。
こんなことなら告白なんてしなければよかった。
ポタリと垂れた雫が私の頬を伝って落ちる。
そんな姿は見せたくなくて、私はそのまま家に帰った。




夕方になると、心配するメールが届いた。
何も言わずに帰ったからか、それとも金城くんたちに何か言われたのか。
早く振ってほしいと思いつつも、そのメールが嬉しくてたまらない自分が腹立たしい。
諦めなきゃ、いけないのに。
時間を戻せるなら間違いなくバレンタインの前に戻る。
告白なんてしない。
ただ巻島と笑っていたかった。
”クハッ”というあの独特の笑い声を最後に聞いたのはいつだろう。
それが私に向けて発せられたのは、いつだっただろう。
止めどなく溢れる涙を拭うのはとても億劫で、その雫はスマホにぽたりと落ちた。
あぁ、そういえばこれは防水じゃない。
慌ててスマホを拭うと、画面が光る。
巻島からの着信だった。
なんてタイミングの悪さだ、と思ったけど私が返信をしなかったからかもしれない。
だからと言って、電話をかけてくるなんて珍しい。
出ない訳にも行かず、私は通話をタップした。
電話の向こうから、愛しい声が小さく聞こえる。
心配そうなその声に、暴言を吐きたくなった。
誰のせいで、そう言いかけて言葉を飲み込んだ。

「心配かけて、ごめんね。」
「そんなことはいいショ。具合悪いのか?」
「大丈夫だよ。練習の邪魔しちゃ悪いかと思っただけだから。」
「それでもいつもは……最後までいるショ。用事でもあったのか?」
「ううん、そうじゃないけど……。」

”私のこと好き?”なんて馬鹿な質問をしてしまいそうになる。
そんなこと聞いてしまったら、私は決定打をもらうだけだ。
……いっそその方が、すっきりするだろうか。
私は自問自答を繰り返した。
巻島の声が聞こえるたびに、体中から好きが溢れてくる。
こんなに好きなのに。
また涙が溢れて、嗚咽をこらえることが出来なくなった。

「小鳥遊?」
「なん、でもっ。ないからぁ……。」
「何にもない訳ないっショ!」
「だいじょ、ぶ。」
「……だったら何で泣いてんだよ。」

小さなため息が聞こえて、私の胸にグサリと刺さる。
きっと巻島は呆れている。
私は何てウザいんだろう。
これ以上巻島に嫌われるくらいなら、いっそ。

「まき、しま。」
「何だ?」
「わかれよ。」

少しの無言のあと、プツリと通話が切られた。
仕方がない。
どうしようもなかったのだ。
巻島が好きすぎて、この中途半端な関係に満足なんて出来ない。
それならいっそすべてダメだとわかっている方が気楽でいい。
優しい巻島は、別れてもきっと友達でいてくれるから。




ひとしきり泣いてお風呂に入ると、まるで体がお湯を吸っているんじゃないかという錯覚に陥る。
泣いた分だけ吸い込んで、私はぶくぶくに膨張してしまうんじゃないかなんてことを想像して笑った。
大丈夫、笑えるくらいにはなった。
お風呂から出ると、インターホンが鳴った。
お母さんが出たらしく、玄関が何やら騒がしい。
一体こんな時間に誰だろう。
まぁ私にはどうでもいい。
お風呂を出て着替えはじめると、外からお母さんの声がした。

「雛美、お友達が来てるわよ。お風呂入ってるって言ったら外で待つっていうから、雛美の部屋に上がってもらったから。」

”着替え終わったらお茶持っていきなさい”そう付け足すと、お母さんはいなくなってしまった。
こんな時間に来る相手なんて、私には一人しか想像できない。
でもなんで、そんはずないのに。
私は慌てて自室へ戻った。




自分の部屋にノックをするというのは、変な感じだ。
それでも深呼吸してノックをすると、中から愛しい声が聞こえる。

「入る、よ。」

そっとドアを開けると、玉虫色の髪が目に入る。
巻島は私を見ると軽く手を上げた。

「よぉ、勝手に上がって悪いな。小鳥遊のお母さんが……。」
「いいよ、わかってる。」

机にグラスを置き、床に座っていた巻島にクッションを手渡す。
受け取るその細い指がたまらなく愛しくて、私は唇を噛んだ。
何も言えずにいる私の頭を、巻島が優しく撫でる。
そんなに優しくしないでよ。
俯く私に、控え目な声が降ってくる。

「その……さっきの本気か?」
「本気だよ。今まで、ありがと。」
「納得いかないショ。俺何か悪いこと……」
「その逆だよ。巻島は、何もしてない。何もしてないから、……わかれよ。」

あんなにたくさん泣いたのに、涙はまだ枯れないらしい。
ぽたぽたと落ちる雫を乱暴に袖で拭って、出来る限り笑って見せた。

「大好きだよ。今までありが」

そう言いかけて、巻島に抱きしめられた。
今までこんなに力強く抱きしめられたことなんてなくて戸惑う。
押しのけようにも、全然離れない。
こんなことされたら、本当に諦められなくなる。
どんなに頼んでも巻島は離してくれなくて、もうどうしていいかわからない。

「まき、しま!も、やめ……。」
「好きだ。」
「え……?」
「小鳥遊が、雛美が誰より好きなんショ。他のヤツに渡すなんて考えられねぇ。別れるなんて言うなよ。」

巻島の声は震えていてとても弱々しい。
泣いているのかもしれない。
でもどうして?
私の頭は疑問でいっぱいになった。

「だったら、なんで!目も合わせてくれないし、避けられるし、もう嫌われたんだと思っ」

私の唇を、巻島のそれが覆うように重なって言葉を遮られた。
薄いけど柔らかいその唇は少しひんやりしていて、お風呂で火照った体にとても気持ちいい。
キスされていることを頭が理解するころにはお互いの体温が混ざり合って、どちらの熱かわからなくなっていた。
ゆっくりと離れた巻島は、ばつが悪そうに目を逸らした。

「一緒にいると、我慢できなくなるんショ。その目で見られると……。」
「なん、で。」
「そりゃ好きだからに決まってるショ。」
「違う!何で我慢するの!私だって巻島にいっぱい触りたいし触って欲しかったよ。何でしてくれなかったの。私がどれだけ不安だったと思って!」

吠えるようにそう捲し立てると、巻島は”クハッ”と笑い出した。
”俺だって不安だった”という巻島の口からは、思いがけない言葉が出る。

「小鳥遊が俺に触れなくなったからショ。手繋ごうにも避けられるし、どうしていいかわかんなかったショ。」
「そんなの、恥ずかしかったからに決まって……あ。」

もしかして、その予想は当たっているらしい。
お互い同じ気持ちだったのだ。
触れたいと思う気持ち、触れられたいと思う気持ち、そしてそれを上回ってしまった羞恥心。
だからこそすれ違い、こんなにもこんがらがってしまったのだ。
お互い顔を合わせて笑ってしまった。
私たちは何て似た者同士なんだろう。

「ねぇ、巻島。」
「何だよ。」
「好きだよ、大好き。巻島になら何されてもいい。」

そう言って抱き着くと、耳元で優しい声が聞こえる。
”反則ショ”なんていう巻島に、私はクスリと笑ってしまった。
私にとっては、巻島の存在自体が反則なのに。
こんなに愛しく思える相手なんてもう二度と現れない。

「裕介。」
「なっ……何ショ……?」
「名前で呼んでよ、裕介。」
「……雛美。」

大好きだよ、お互いそう呟いて目を閉じた。
ゆっくりと重なる唇の熱はもうどちらのものかわからない。
素直になれなくてごめんね。
ずっとずっと大好きだよ。


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☆いづみ様リクエスト☆
続きが読みたい、というリクエストを頂き書かせて頂きました。
優しい巻島は奥手な感じがして、こんなお話になりました。
楽しんで頂ければ幸いです。
リクエスト頂きありがとうございました!




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