好きだよ




進級してクラスが変わり、私はずっと気になっていた黒田くんと同じクラスになった。
今までは接点がなくて話したことなんて殆どなかったけど、クールに見えるのに笑うとすごく幼く見えて可愛いのを知ってから私は密かな黒田くんファンだった。
同じクラスになれて浮かれていた私は、友達の話なんて耳を素通りするばかりで無意識のうちに同意をし続けていたらしい。
気がついた時には、親睦会の幹事をすることになっていた。

「じゃ、よろしくねー。」
「え、ちょっと!どういうこと?」
「だからー、クラス変わったからみんなでカラオケでも行って仲良くなろうって言ったじゃん。」

聞いた覚えがないが、確かに私は賛同していたらしい。
頭の中は黒田くんでいっぱいで、親睦会の幹事なんてやる自信がない。
断ろうとすると、後ろから声がした。

「女子は誰になった?」

爽やかに笑う泉田くんは去年から同じクラスだ。
彼のおかげで、黒田くんの色々な一面を見せてもらえてとても感謝している。
どうやら親睦会を言い出したのは泉田くんで、カラオケは多数決で決めたらしい。
自分が全く聞いてなかったことを改めて思い知らされた。

「それで、小鳥遊さんでいいの?」
「あ、うん。でも私なんか……。」
「良かった、小鳥遊さんなら任せられるよ。男子はユキなんだ。あ、ユキって黒田のことなんだけど。」

もちろん存じてます!なんて思っても言えるわけもなく、私は頷くことしかできない。
まさか黒田くんと一緒にできるとは思ってなかったから、私の頭はもうお花畑だ。
"じゃぁよろしくね"そう言って爽やかに去る泉田くんを、私は心の中で拝んでいた。




いざ幹事をやると言っても、部活で忙しい黒田くんに雑務を押し付けたくない。
そう思ってなんでも抱え込んでしまったせいで、私はほぼ全て1人でやることになってしまった。
"何か手伝えることある?"と声をかけられても大丈夫と返してしまうのがいけないんだろう。
1人でやるのが大変なわけではなかったけど、せっかく一緒に幹事が出来るというのに仲良くなった気がしなかった。




そうして迎えた親睦会当日。
黒田くんには男子の確認をしてもらい、全員揃ったところで店に入った。
ところが、予約をしていたはずなのに店側のミスで大部屋が空いてないという。

「えっ、どうしよう。」
「普通の部屋って空いてないんスか?」
「バラバラでもよろしければ6部屋空きがありますが……。」
「じゃぁそれ全部で。」

いざという時決断力のない私の代わりに、黒田くんがいろいろと決めてくれた。
それだけでもう、一緒に親睦会の幹事が出来て良かったと思った。
結局小部屋しかないので、何人かが部屋を渡り歩くことになった。
男子からは面倒だと文句も出たけど、泉田くんと黒田くんが止めてくれて丸く収まった。




時間が進むに連れて、仲がいい子で集まるようになり部屋の人数がまばらになり始めた。
私はドリンクバーに近い部屋だったのもあり、移動が面倒でずっと同じ部屋にいた。
そろそろ時間かなぁ、そう思いながらドリンクのお代わりを取りに行くとちょうど黒田くんも空のグラスを片手にこちらに歩いてきた。

「お疲れ様、そっちはどう?」
「部屋に8人くらいいて狭いから移動するとこ。」
「そっかー、さすがに座るところなさそうだね。」
「小鳥遊のとこは?」
「うち?今私入れて3人かな。」

黒田くんきてくれたりしないかな。
あ、でも女の子ばっかは来づらいよね……。
誘おうかどうか迷っていると、黒田君の方から声をかけてくれた。

「俺も小鳥遊のとこ行くよ。」
「え、でも女の子ばっかだよ!?」
「もうすぐ時間だし、幹事揃ってた方がいいだろ。」

あぁ、そういうことね。
うん、別に期待なんてしてないんだから。
同じ部屋にいられるだけで十分だ。
私たちはそれぞれグラスを持って部屋に戻った。




部屋に入ると、中には誰一人いない。
トイレかな、そう思ったけど中々帰ってこない辺り移動したのかもしれない。
黒田くんと二人きり、歌うでもなく話すでもなく付かず離れずの距離が何だかもどかしい。

「く、黒田くん歌わないの?」
「俺は別に……。小鳥遊は?」
「私も、いいかな……。」

歌はあんまり得意じゃないのに、黒田くんの前で歌うのは恥ずかしい。
気まずいながらもキョクナビを操作していると、ふっと影ができた。

「何見てんの?」

黒田くんが私のキョクナビを覗き込んでいて、その近さに心臓が止まるかと思った。
サラサラの綺麗な髪が少し揺れていて、触れたくなる衝動を必死に抑えた。

「な、なんでも!何か、適当に見てるだけで。」
「そうか。……あ、それいいよな。」

そう言って黒田くんが私のキョクナビに触れた。
それは私の大好きな曲だった。

「うん!私これ大好きなんだー!低めだから自分じゃ歌わないけど……。」
「じゃぁ、歌う?」
「え?」
「一緒なら歌えるだろ。」

突然の嬉しい申し出に言葉を失った。
え、なに?これ夢?
首を傾げながらマイクを差し出す黒田くんに他意はなさそうだ。
断るのも申し訳なくて、私はそれを送信した。
黒田くんは予想以上に歌が上手くて驚いた。
自分があまりにも下手に聞こえて歌うのをやめてしまうと、間奏中に"次のサビは小鳥遊な"なんて言うものだからずるい。
その笑顔に私が勝てるわけないのだ。
サビをなんとか終えると、その後は歌わずにいても何も言われなくて済んでホッとした。
でも歌いながら時々私を見てくるのが、すごく心臓に悪い。
しかも歌詞が告白してるような内容だから、黒田くんに言われてるんじゃないかと勘違いしてしまいそうだった。
曲が終わるとマイクを切った黒田くんは、私との距離を少し詰めた。

「小鳥遊歌わなさすぎ。」
「ご、ごめん。なんか、黒田くん上手くて聞きたくなっちゃって。」

クツクツと笑う黒田くんは、とても楽しそうだ。

「歌詞全部覚えてるんだね!私の方見ながらでも間違えてなかったし。」
「あー、まぁ、サビだし……。」

そう言いながら目を逸らした黒田くんは、そのまま俯いてしまった。
もしかして私、悪いこと言ってしまったんだろうか。
不安に思っていると、黒田君が視線だけこちらに向けた。

「サビ、覚えてる?」
「うん?サビはかろうじてなんとか。」
「言ってみて。」

試されてるんだろうか。

「きみが好き、ずっと一緒にいられなくても、きみが僕を好きじゃなくても、僕はきみが好き?」

言い終わるとまた、黒田くんは俯いてしまった。
間違ってないはずなんだけどなぁ。
キョクナビで歌詞を見直そうとすると、その手を黒田くんが掴んだ。

「俺を好きじゃなくても、俺はっ……。好きだ。」
「……え?」

顔を真っ赤にした黒田くんは、それだけ言うと手を離してくれた。
それは、歌詞じゃないよね?
勘違いじゃ、ないよね……?

「黒田、くん。」
「悪い、テンパった。」
「ううん、あのね。私も、黒田くんが好きだよ。」

顔を上げた黒田くんは、何やら難しい顔をしている。

「小鳥遊は、塔一郎だろ?」
「泉田くん?男子の中では話しやすいけど……。好きなのは、ずっと黒田くんだよ。」

なぜ泉田くんが出てきたのかは分からないけど、それを否定すると黒田くんは小さく息を吐いた。

「悪い、何か勘違いしてた。」
「ううん、謝ることないよ。それより、あの」

好きとは言えたけど、付き合ってというのは何だか急に恥ずかしくなって言葉に出来ない。
モゴモゴしていると、それは黒田くんが言ってくれた。

「付き合って、欲しいんだけど。」
「……っ!よろしくお願い、します!」

これから黒田くんの初めてを、たくさん見られますように。
顔を見合わせて笑う私たちが、一部始終を見られていたことを知るのはまだ先のお話。


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