窓越し




「なァ、何見てんのォ?」

席替えで窓際のこの席に来てから、私は毎日窓の方を眺めていた。
隣になった靖友は、そんな私によくそう問いかけた。

「んー、何にもー。」

そう言いながら靖友の方を見ると、机に肘をついて顎を乗せている。
靖友と仲良くなったのはこの席に来てからでまだ付き合いは短いけど、靖友のことは前からよく知っていた。
入学当初、変わった髪型だったことも理由の一つだけどそれはきっかけに過ぎない、
顔や仕草という目に見える部分はもちろん、声や匂いがとても好きだった。
靖友の新しい顔を知るたびに惹かれて行く自分が怖い程だった。
恋は盲目とは、うまくいったものだと思う。

「いっつも外見てねェ?」
「見てるのは外じゃないんだけどね。」
「じゃぁ何見てんだよ。」

窓に映る靖友だと言えれば、どんなに楽だろう。
じっと見つめることができない代わりに、私は窓越しにいつも靖友を見ていた。




素直に気持ちを伝えられない私は、靖友と仲良くなればなるほど苦しくなった。
靖友のことが好きで仕方ないのに、"友達"という安定した関係を壊すのが怖い。
好きだと言ってしまえば少なからずこの関係が変わってしまう。
それでも口から溢れてしまいそうな想いに、私は必死で蓋をした。
そして季節は流れ、また席替えがやってきた。
こんなに仲良くなれたのに、もっとそばにいたいのに離れてしまうかもしれない。
そう思うと胸が痛い。
しかし私の心配は杞憂に過ぎなかった。
私はまた窓際の席、今度は一番後ろ。
靖友は、私の前だった。

「雛美が後ろかよ。俺と変わらねェ?」
「やだよ、私だって一番後ろがいいもん。」

ぶつくさとしばらく文句を言っていた靖友も、担任の声でおとなしくなった。
今度は、窓越しじゃなくても見ることが出来る。
私はそれが嬉しくて仕方がなかった。




それからと言うもの、休み時間は振り返った靖友と話せたし授業中も遠慮なく見つめることができて私は幸せだった。
そんな時、ふと気付いたことがある。
最近靖友は授業中、ずっと窓を見ているのだ。
何かあるのかと視線を落として見たが、特に変わったことはない。
何だろう、私は気になって仕方がなかった。
そして私はその疑問を靖友にぶつけた。

「靖友、授業中外見過ぎじゃない?何見てんの?」
「別に見てねェよ。」
「見てたよ、さっきだって。」
「……雛美も前の席ん時見てたろ。」

そう言われてハッとした。
まさか靖友も窓越しに隣の席を見ていたのだろうか。
私は目線だけ動かし靖友の隣を確認するが、そこは男子の席だ。
あれ?と思っていると、靖友がニヤリと笑った。

「ハッ、やっぱりな。」
「え?何?」
「雛美が見てたの、俺だろ。」

そう言われて、鼓動が早くなる。
息がしづらくて、顔が熱い。
靖友は、外じゃなくて窓を見てたんだ。
窓を見て、私がいつも何を見てたのかに気付いたんだろう。
どうして気づかなかったんだろう。
なんて答えようか迷っていると、靖友が小さく息を吐いた。

「なァ、違ェの?」
「……違わない、です……。」
「何で窓越しなンだよ。」
「じっと見たら嫌がるかと思って……。」

我ながらストーカー臭い発言だ。
顔を伏せた私の顎を、靖友が持ち上げた。

「雛美は嫌だったわけェ?」
「は?」
「俺は雛美を見てたンだけど。」

よく見ると、靖友の頬はうっすら染まっている。
そういえば席替えの前は、隣を見るたび靖友と目が合った気がする。
言われたことの意味に気づいて、私の顔はさらに熱くなった。

「え、あの、それって!」
「気づくの遅ぇんだよ。」

私から手を離して、靖友は壁にもたれかかるように座り直した。
口を尖らせながらダルそうに教室を見ている靖友の顔は、気づけば真っ赤になっている。
今なら、言える。

「好き、だよ。」

靖友はバッと私を見て目を見開いた。
きっと靖友の顔と同じくらい、私の顔も赤いんだろうな。
私は確かめるように、今度は靖友の顔を見て言った。

「靖友のこと、好きだよ。」
「……俺のが好きだっつの。」

小さく呟いた靖友は黒板の方を向いて座り直してしまった。
顔は見えないけど……後ろ姿でも、なんだか少し嬉しそうなのがわかった。
ねぇ靖友。
靖友が席を代わって欲しがった理由が今ならわかるよ。
私たち、同じだったんだね。


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