夢の続き




福富は困り果てていた。
一体どうしてこうなってしまったのか、いくら考えてもわからない。
酔い潰れた同期と二人、見知らぬ部屋で過ごすのは気まずい。
それが兼ねてより気になっていた相手とあっては尚更だ。
福富は頭を抱えて、今日の出来事を思い出していた。




今日は新人だけの飲み会があるからと仕事を早めに切り上げた。
入社して3ヶ月、仕事の流れもなんとか掴めてきた。
あまり話すのが得意でない福富にも友人と呼べる存在が出来た。
その友人に誘われては断りづらく、また特に断る理由もなかったので飲み会に参加するともう既に何人か集まっていた。
角の席が空いていたのでそこに腰掛けると、あとからどんどん同期たちがやってきた。
その中に、福富が気になっている小鳥遊もいた。
小鳥遊とは部署が違い会う機会こそ少なかったが、見かけるたびにその言動に頬が緩んだ。
まるで小動物のようにパタパタと走り回る姿はとても可愛い。
時々ボケているのか本気なのかわからないこともあったが、小鳥遊の笑顔は場を和ませる力を持っていると感じていた。
その小鳥遊が福富と目が合うとにっこりと笑い、隣にやってきた。

「ここ、空いてる?」
「あ、あぁ。」

鞄を壁際にずらして席を空けると、小鳥遊は福富の隣にちょこんと座った。
小鳥遊は福富ににこりと笑いかけながら、メニューを広げた。

「福富くんは何飲むの?」
「俺は烏龍茶を頼んだ。」
「えー、せっかくの飲み会なのに!もったいないよ、一緒にのも?」

首を傾げながら福富を見た小鳥遊は、少し距離を詰めた。
その動作にドキリとさせられながらもどう断ろうかと考えていると頼んだ烏龍茶が運ばれてきてしまった。
それを見た小鳥遊は少し唇を尖らせる。

「きちゃったから仕方ないけど、次はお酒にしよ?」
「あ、あぁ。」

福富は疑問で仕方がなかった。
ただの同期でしかなく、話したこともほとんどない自分の横に小鳥遊が座った理由がわからない。
その上、嬉しそうにあれこれと話題を振って話してくれる小鳥遊はずっと福富の方ばかり見ていた。
気がつけばお酒も進み、席を立つ人も出てきた。
一方ではでは女性がまとまって話しており、また違うところでは男女まとまって話していたりとあちこちで違う話題が飛び交っている。
そんな中、福富は終始小鳥遊と2人で話し続けていた。
決してそれが嫌なわけではなかったが、疑問で仕方がなかった。
そしてそれはアルコールの力を借りて、口に出ていた。

「小鳥遊は、他のやつと話さなくていいのか。」
「他?私は今福富くんと話したいのに?」

きょとん、とした顔で見上げてくる小鳥遊はその可愛さを自覚しているのだろうか。
天然だとすればあちこちで期待を持たせているんじゃないだろうか。
福富は小鳥遊が少し心配になってきた。
先ほどから飲むスピードが早く、少し呂律が回らなくなってきている。

「そろそろ飲むのはやめた方がいい。」
「どーしてぇ?」
「飲み過ぎだ。」
「らいじょぶだよぉ。わたし、お酒好きだもん。」

にへら、と無防備に笑ったその顔に情けないことに興奮した。
抱きしめてしまいたい衝動に駆られながらも、福富は必死に理性と戦う。
それなのに小鳥遊ときたらまた福富との距離を詰め、軽く肩や腕が当たった。
ふわりと女性らしい甘い香りがして、福富はどうしていいのかわからなくなった。
そうして飲み会はお開きになる頃には小鳥遊は福富の膝を枕に夢の中に旅立っていた。

「小鳥遊は福富くんが送ってあげて。」

そう頼まれてはこの状況のこともあり断れず、福富は小鳥遊を連れてタクシーに乗った。
小鳥遊の友人に教えてもらった住所で小鳥遊宅につくと、うっすらと目を開けた小鳥遊に鍵を出してもらいなんとか家に入ることができた。
一人で立つこともできない小鳥遊を部屋まで抱きかかえて行くと、起きたのか寝ているのか、小鳥遊は福富の首に手を回した。
その手は小鳥遊をソファに座らせてからも緩むことはなく、しっかりと掴まれている。
どうしたものかと考えていると、小鳥遊がクスクス笑い始めた。

「じゅーいーちくーん。」

甘えたように名前を呼ばれて小鳥遊を見れば、にっこりと笑っているのに目は空いていない。
どうやら寝言らしい。

「じゅいちくん。かっこいいねぇ。」

へへっと照れたような笑が聞こえ、福富の顔が熱くなる。
聞こえた言葉が聞き間違いでなければ、褒められたのだろうか。
それがたとえ夢の中だとしても、福富は嬉しかった。
いつまでも解かれない腕をどうにか外して小鳥遊の隣に腰掛けると、するりと伸びてきた手に腰を掴まれてしまった。
福富の腰や足にスリスリと頬擦りする小鳥遊は起きているようには見えない。

「なんて寝相だ……。」

そう呟いた福富の頬は緩んでいる。
なんとか抜けようと試みたものの、離そうとする度に小鳥遊は福富に抱きついた。
8回目になろうかというところで福富も諦め、そっと小鳥遊の髪に触れた。
こんなに無防備な姿を、他のやつにも晒すんだろうかーーー。
そう思うと、胸が痛くなった。




どれくらいそうしていたのだろう。
いつの間にか眠ってしまった福富は、外の明るさで目が覚めた。
隣にいる小鳥遊は、未だ気持ち良さそうにスースーと寝息を立てている。
私服とはいえ座ったまま寝てしまったせいで体が少し痛い。
腕を上げて伸びをすると、小鳥遊がもぞもぞと動き出した。
どうやら起こしてしまったらしい。
起き上がって座った小鳥遊はまだ寝ぼけているようで、目がしっかりとあいていない。

「あれ……?寿一くんが部屋に……?」
「おはよう。」
「……夢ぇ?」

何度も目をこする小鳥遊は、これが夢じゃないと気づくとソファに正座して頭を下げた。

「ご、ごめんなさい!私なんてこと……。」
「気にしなくていい、何もしていない。」
「何もって……え?あれ?」

小鳥遊は自分の服や福富の服を何度も確認して首を傾げた。
寝ていたので多少崩れてはいるが、そこまで着崩れているわけではない。

「うん……?」
「どうかしたのか。」
「私、昨日福富くんと……その……ごめんなさい、どこまでが夢かわからなくて……。」

頭を抱えて唸る小鳥遊は一体どんな夢を見たのだろうか。
人一倍鈍い福富は小鳥遊の言おうとすることがいまいち理解できずにいた。

「俺は夢で、小鳥遊と何をしたんだ?」
「私が福富くんをベッドに押し倒してしまって……そのまま……。でもソファにいるってことは夢だよね?」

鈍い福富も、ここまで言われれば流石にわかる。
不安そうに顔を覗き込んでくる小鳥遊の目を見るのが恥ずかしくて、首を縦に振ることしかできない。

「良かったぁ……何か、本当にごめんね。昨日のことあんまり覚えてなくて……。」

どんどん落ち込んで行く小鳥遊に、福富は昨日のことを話した。
大丈夫だと伝えたかったはずなのに、小鳥遊は余計落ち込んでしまった。

「本当にごめんなさい……。私、福富くんと話せるのが嬉しくて。お酒弱いのに調子乗って飲んだりして。送ってもらった上にこんなところで寝かせてしまうし……。」
「気にするな、好きでしたことだ。」

でも、と言葉を続けようとした小鳥遊の唇を福富は手で塞いだ。

「俺は、小鳥遊と話せて嬉しかった。……好きでなければ、ここまではしない。」

目を丸くした小鳥遊は福富の手を剥がすと身を乗り出した。

「それって、その、本当に?」
「嘘はつかない。」
「私と、付き合ってくれますか?」
「よろしく頼む。」

小鳥遊は福富の言葉を聞いて思わず抱きついた。
それに応えるように福富も抱きしめた。
この無防備さは目が離せないな。
そう思いながらも、小鳥遊が自分の物になったことに福富は嬉しくなった。
次に名前で呼んでもらえるのはいつだろうか。
そう遠くない未来を想像して、福富の頬は緩んだ。
そして福富は、小鳥遊が見た夢がそう遠くない未来であることを願うのだった。


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