隼人の策略





それは、本当に突然だった。
コンビニでバイト中、ふらりと現れたのは同じ中学出身の隼人だった。
隼人は同じ部活の人と一緒だったけどレジにいた私に気づいたようで、声をかけてくれた。

「雛美じゃないか、久しぶりだな。」
「ほんとにね、2年ぶりくらい?」

相変わらず人懐っこいその笑顔に、なんだかホッとした。
卒業以来の再開に、私は嬉しくなる。

「懐かしいね。バイト中じゃなかったらちゃんと話せるんだけど、ごめんね。」
「今日はバイト何時までだ?」
「21時までだよ。」
「そうか……悪い、門限あるから今日は帰るよ。アドレス変わってないよな?」
「ううん、私こそ時間とれなくてごめん。アドレスは変わってないよ。隼人も?」
「あぁ。またあとでメールするよ。」

次第に混んできたこともあり、隼人は買い物を済ませて出て行った。
そういえば、箱学って寮なんだっけ。
大変そうだな、そう思いながらも私はバイトが終わるのが楽しみで仕方がなかった。




その日から時々、隼人が電話やメールをくれるようになった。
最初は他愛ない話ばかりだったそれは、恋バナに発展していった。
私はつい、”お前は女子か”と突っ込みたくなるのをぐっと我慢した。

「それで雛美は、今まで彼氏いたことないのか?」
「ないよー、好きな人がいるわけでもないし。適当に付き合うのとかは私はできないし。」
「相変わらずそういうところ、真面目なんだな。」

クスクスと笑う隼人の方こそ、恋バナが尽きないんじゃないかと思う。
なんせあのルックスで優しくて、長身で男らしい体つき。
もてないわけがない。

「隼人こそ、どうなの?」
「俺か?俺はまぁ、似たようなもんだよ。」

そう言って誤魔化されてしまった。
いつもそうだ、のらりくらりと逃げられてしまう。
そういえば昔、隼人の思わせぶりな行動で勘違いした女の子達の修羅場に巻き込まれたことがあった。
あの時は本気で隼人にビンタをかましたんだ。
それがキッカケでここまで仲良くなったんだっけ。
高校が離れてからは、お互い忙しくて連絡は取らなくなってしまったけど。

「そういうこと言って、また巻き込んだら今度はビンタじゃ済まないからね?」
「わかってるさ、大丈夫だよ。」

ハハッと笑う隼人の"大丈夫"は信用出来ないが、高校が違うのだからさして心配はいらないだろう。
あの時より身長も伸びて、幼さが薄れた顔は”男の子”という感じでとてもかっこよかった。
優柔不断なところも、思わせぶりなところも、あの顔だから許されるのだろう。

「それにしても、また一段とかっこよくなったよね。」
「そうか?変わらないだろ。」
「中身は変わってないかもしれないけど、見た目は大人っぽくなったんじゃない?」

そう言った私に、隼人は黙ってしまった。
何か地雷を踏んだのだろうか。
そういえば、隼人の怒ったところは見たことがない。

「は、隼人?」
「ん、どうした?」
「ごめん、何か悪いこと言った?」
「いや、そんなことないさ。それより、雛美のタイプってどんな奴だ?」

さっきより少しトーンの落ちた声色に、私は緊張した。
怒っているのだろうか。
それにしては聞いている内容がおかしい。
隼人は一体何を考えているのだろう。

「どんな、って?」
「そのままだよ。身長が高いとか、カッコイイとかあるだろ?」
「うーん……。見た目には拘らないよ。何でもいいってわけじゃないけど。」
「それじゃ誰でもいいと変わらないじゃないか。」

そう言って笑う声は、いつもの隼人に聞こえる。
さっきのは一体何だったんだろう。

「多分、私誰かを好きになったことないんだよね。憧れとかはあっても。だからよくわかんないや。」
「そうか。なら、俺の友達に会ってみないか?会わせたいヤツがいるんだ。」
「え?どういうこと?」

隼人の声が、少し明るくなった。
もしかして、今までの声色はこのための作戦だったのだろうか。
疑いをかけられているとも知らずに、隼人は楽しそうに続けた。

「今度の土曜日、バイト休みだって言ってたろ?10時にバイト先近くのファミレスにきてくれよ。」
「休みだけど……。別に会うのはいいよ、でもこっちまで来ると遠いでしょ?」
「いやー、しょっちゅう行ってるみたいだし大丈夫だろ。」
「は?」

ハハッと笑う隼人に誤魔化され、結局約束してしまった。
そういえば、一体誰と会うことになったんだろう。
もしかして福富くんかな?
まぁ、隼人の友達なら大丈夫でしょ。
その信頼を色んな意味で裏切られることになるとは、私はこの時思いもしなかった。








土曜日の朝、少し早目にファミレスについた。
店内を見回しても隼人らしき人物はおらず、連れがくることを伝えて窓際に席に座らせてもらった。
ドリンクバーだけを頼み、持ってきた本を開いて読み始めた。
どれくらいそうしていただろう。
気づけば10時半を過ぎていて、慌ててスマホを確認したが隼人からの連絡はない。
辺りを見回すと、私の席の近くに一人の男の子が立っていた。
私はその姿に、見覚えがある。
よくコンビニに買い物にくる”ベプシ君”だった。
いつもベプシを買っていくから、うちの店で彼はそう呼ばれている。
ベプシ君は私と目が合うと、気まずそうに目を逸らした。
首に手を当てて、何やら考え込んでいる。
余り他のお客さんをじっと見るのも悪いかと思いスマホに目を落とすと、上から声が降ってきた。

「小鳥遊、サン。」

見上げれば、テーブルのすぐ横にベプシ君が立っている。
もしかしなくても、私の名前を呼んだのは彼だろう。

「あの、何か……?」
「アー、そのォ……」

何やら言い辛そうにしている姿は、いつも見る鋭い目つきと違ってとても可愛く見えた。
だけど何が言いたいのか一向に伝わらない。
隼人に早く連絡したいのに。
申し訳ないけど、私は話を遮ることにした。

「ごめんなさい、ちょっと待ち合わせしてて。」
「アー、ウン。それ俺なんだけどォ……。」
「え?いや、私は友達と待ち合わせを」
「トモダチって、新開、だろ?」

隼人の名前が出たことに驚いた。
薄らピンクに染まった頬をポリポリとかいている彼こそが、隼人の会わせたい友達だったんだろうか。
私は立ち上がって頭を下げた。

「ごめんなさい!私、隼人と一緒にくるんだと思ってて。今日会う友達の名前とかも聞いてなくて……。」

未だこの場に現れない隼人は後できっちり締め上げなければ。
いくらなんでも連絡もなくこの時間は遅すぎる。
ベプシ君はホッとしたのか小さく息を吐いて、少し笑った。
鋭い目つきとのギャップに、私は彼に興味が湧いてきた。

「隼人まだみたいですけど、良かったら座って下さい。もしかしてずっと立ってたんですか?」
「タメだし、敬語いらねェよ。小鳥遊サン、ずっと読んでっから声かけていいかわかんなくて。」

眉を少しハの字に下げて笑うベプシ君は、見た目に反して優しいのかもしれない。
ドリンクバーを頼むと、私のグラスにも新しく入れなおしてくれた。

「ごめんね、ありがとう。」
「これくらい別にィ。それより小鳥遊サン、下の名前教えてくんねぇ?」
「雛美だよ。小鳥遊雛美。えっと……何くん?」

そういえばまだ名前を聞いていなかった。
きょとんとした彼は、プッと吹き出した。

「荒北。荒北靖友。箱学3年で新開と同じクラス。」
「あらきたくん、ね。よろしくね。」
「おう、よろしく。」
「そういえば荒北くんは覚えてないかもしれないけど、私ここの近くのコンビニでバイトしてて。荒北くんのことよく見かけてたよ。」

荒北くんはそれを聞いて、目を丸くした。
飲んでいたグラスが少し手から滑って、危うく落ちそうになる。
自分が言ったことを思い出して、ハッとした。
もしかして、私ストーカーみたいなこと言ったかもしれない。
どう訂正したものか、と思っていると荒北くんが先に口を開いた。

「ハッ、気づいてたのォ?」
「う、うん。ごめんね、なんかストーカーみたいで……よくくるからつい。」
「それ言うなら俺の方なんだけどォ。」
「荒北くんがストーカー?」
「ン。」
「誰の?」
「小鳥遊サン?」
「……うん?」

荒北くんが言っている意味がわからない。
私のストーカー?どういうこと?
もしかして、隼人の友達だというのはうそなんだろうか。
頭の中がぐちゃぐちゃでよくわからない。

「マジで新開から何も聞いてねェの?」」
「うん、会わせたい友達がいるから今日10時にここにこいって言われただけで……。」
「マジかよ……。」

荒北くんは顔を伏せてしまった。
一体どういうことなのだろう。
そして肝心の隼人は一体いつになったらくるんだろう。
荒北くんは申し訳なさそうに、一言謝った。

「悪ィ、今日は新開こねぇ。」
「え?」
「俺と小鳥遊サンだけ。」

全く理解できない私に、荒北くんは一つずつ丁寧に説明してくれた。
隼人と再会したあの日、荒北くんも一緒だったこと。
その時私と隼人が知り合いだと知って、隼人から私の話を聞いていたこと。
コンビニによく来ていたのは、私が働いていたからだということ。
そして今日、隼人に頼んで私を呼び出してもらったということ。
箱学からここまではかなり距離があるはずだ。
まさか本当に箱学から通っていたのだろうか。
そこで思い出した。
隼人は「しょっちゅう行っているから大丈夫」と言っていた。
本当に、そういうことなのか。
話が進むにつれて真っ赤になってしまった荒北くんは、顔を伏せたまま黙ってしまった。

「あ、あの……ごめん。隼人に一回電話してもいいかな……?」
「アー、俺ちょっと便所。」

気を使ってくれたのだろう。
荒北くんがトイレに行くのを見送ってから、私は隼人に電話をかけた。
2コール目で出た隼人の声は、妙に楽しそうだ。

「雛美か?どうだ、調子は!」
「コラ隼人。説明足りなさすぎでしょ!どういうことよ。」
「いやー、俺があれこれ言うと靖友のことも言っちまいそうでさ。黙ってた。」

ごめんな、という言葉に重みは全くない。
コイツ絶対反省してない。

「とりあえず今すぐきてよ。」
「おいおい、箱学からそっちまでどれくらいかかると思ってるんだよ。」
「荒北くんが来れるんだから隼人もこれるでしょ。」
「靖友のは愛の力だろ?」

私には見える、隼人がウィンクしてる姿が。
ワナワナと怒りが込み上げてくる。
でもファミレスで怒鳴るわけにはいかない。
私は落ち着くために、深呼吸した。

「隼人はどういうつもりで会わせたのよ。」
「雛美に会った日、実はコンビニの外でちょっと休憩しててさ。靖友が店の中じーっと見てるから、どうしたのかと思ったらずっと雛美を見てたんだよ。」
「それで?」
「知り合いだって言ったら、色々聞かれてさ。それで話しかけた。」
「懐かしんでたのは形だけだったってことね?」
「いや、懐かしい気持ちはウソじゃない。ただまぁ、恋愛の話は靖友のために聞いたんだけどな。」

悪く思うなよ、なんて言ったって冗談じゃない。
昔から掴めないやつだと思ってたけど、まさかここまでとは。
もうため息しかでない。

「もういいよ……隼人と話すの疲れた。」
「そんなこと言うなって。ところで靖友は?」
「トイレ行った。」
「そうか、上手くやれそうか?」
「上手くやるって何がよ。」
「ちょっと口は悪いけど、いいやつだろ?」

そう言われてハッとした。
隼人への怒りで忘れていたけど、もしかして私は荒北くんに好かれていたんだろうか。
急に顔に熱が集まる。
それなのに私は隼人に電話するなんて、なんて失礼なことを……。
自分のバカさ加減に頭が痛い。

「なぁ、雛美。」
「何よ……。」
「俺が保障する。靖友はいいやつだ。」
「隼人の保障なんてミジンコほども役に立たないわよ。」

そう言うと、電話の向こうでガタガタと音が聞こえた。
遠くで声がするけど、隼人の声だけじゃない。
耳を澄ませると、知っている声が響いた。

「小鳥遊か?いきなり済まない、福富だが。」
「なんだ、隼人と一緒にいたの?久しぶりだね。」
「あぁ、それで荒北のことだが。あいつは不器用だが自分の気持ちには素直だ。もちろん、小鳥遊への気持ちも偽りではないだろう。少し考えてやってはくれないか。」

まさか、福富くんから”不器用”なんて言葉を聞く日がくるなんて。
それでも隼人よりも信用できるその言葉は、私にしっかりと届いた。

「別に荒北くんのこと嫌いだとか苦手だとか思ってるわけじゃないよ。ただ隼人のやったことに怒ってるだけで。」
「そうか。」
「荒北くんのことちゃんと考えるから、隼人は絞めておいてね。」
「……わかった。」

後ろから「雛美!?」って声が聞こえたけど気にしない。
福富くんにまたね、と伝えて私は電話を切った。
通話時間をみると、結構長く話していたみたいだ。
荒北くん遅いな、そう思ってトイレの方をみると壁にもたれていた荒北くんと目が合った。
どうやら電話が終わるのを待っていてくれたらしい。
軽く手を振ると、荒北くんは席に戻ってきた。

「ごめんね、待たせちゃったみたいで。」
「別にィ。新開なんつってたァ?」
「荒北くんはいいやつだって。福富くんも言ってたよ。」
「福チャンまでいたのかよ。」

”福チャン”と呼ぶことに少し笑ってしまった。
あのポーカーフェイスで仏頂面の彼を、そんな可愛い呼び名がついているとは。
高校に入って、みんな少しずつ変わったのかもしれない。

「隼人たちと仲いいんだね。」
「ン、部活が一緒だかんなァ。」

そう言って荒北くんは、自転車競技部の話をたくさんしてくれた。
ところどころ話が飛んでわからないところもあった。
でも確かに福富くんが言ってたように不器用だし、口調もヤンキーみたいだけど根は優しいんだろう。
私のドリンクや動作に気を使ってくれているのがよくわかる。
それがなんだか少し申し訳なくて、私は荒北くんを外に連れ出すことにした。

「話すのも楽しいんだけどさ。せっかくだからどっか遊びに行こうよ。」

そう言った時、目の錯覚だろうか。
荒北くんのお尻についたしっぽが、ちぎれそうなほど振られているのが見えた。
でも表情は少し困ったように眉を下げてをしている。
このギャップに、私は気づけば落ちていた。








自転車で来ていた荒北くんには申し訳ないことに、私は徒歩できていた。
このあたりで徒歩でも行ける所と言えば、公園か小さなふれあい動物園か……。
映画館もあった気がするけど、顔も見ずに2時間も過ごすなんてもったいない。
どうしようか、とスマホとにらめっこしていると荒北くんが覗き込んできた。

「どっか行きたいトコでもあんのォ?」
「んー、徒歩だとあんまり行ける場所なくて。荒北くんはどこ行きたい?」
「小鳥遊サンが行きたいトコならどこでもいいヨ。」

口角を上げて笑うその笑顔は、少年のようでとても可愛い。
ころころと表情が変わる荒北くんと一緒にいるのは楽しかった。

「デートの定番で言えば公園とか動物園、ゲーセンかなぁ。」
「デートォ!?」
「違うの?」
「いや……違わねェけどォ……。」

真っ赤になった荒北くんは顔を逸らしてしまった。
隼人に仕組まれたと分かった時はあんなに荒れた心は、今はとっても弾んでいる。
からかっているつもりはないけど、自分の一言に一喜一憂してくれる姿は嬉しい。

「ねぇ、動物好き?」
「ン、結構スキ。」
「じゃぁふれあい動物園いかない?小さい所だけどエサやりとか出来るよ。」

荒北くんの目が、一瞬キラキラと輝いた気がした。
この選択は当たりだったかもしれない。
私が差し出した手を控え目に握った荒北くんはまた顔をそむけてしまったけど。
手を放すことはなくて、二人で手を繋いで歩き出した。








動物園につくと、土曜なこともあってか小さな子で賑わっていた。
その中に高校生が2人混じると、なんとも言えない雰囲気になる。
でも荒北くんはそんなこと気にならないようで、ニンジンを握りしめてヤギとにらめっこしてた。

「テメー目つき悪ィな。」

そう言いながらも嬉しそうにヤギに餌を与えている姿は、何だか微笑ましい。
私もニンジンを一本もらって羊に差し出すと、隣にいたヤギが身を乗り出して食べてしまった。
呆気にとられていると、荒北くんがプッと吹き出したかと思うと声を上げて笑い始めた。

「ヤギ、テメー食い意地張り過ぎだろォ!?どんだけニンジン食いてぇんだよ!」
「あんなに荒北くんがあげたのにねー。」
「小鳥遊サンの持ってるやつのが美味そうに見えたんじゃナァイ?」
「隣の芝生は青いってやつ?」

荒北くんはきょとん、としたあとにかっと笑った。

「違ェよ。可愛い子が持ってる方が美味そうに見えんのは当たり前だろォ?」
「え、えぇ!?」

荒北くんに私は一体どう見えているのだろう。
産まれてこのかた、身内以外に可愛いと言われたことなんて殆どない。
お世辞じゃなさそうなその言葉に、私の顔に熱が集まっていく。
まるでその熱が移ったかのように、荒北くんの顔もみるみる赤くなっていった。

「いや、その……小鳥遊サンは、可愛いと思うよォ。」
「あ、ありがとう。」

何だろうこれは。
とても恥ずかしくて顔が上げられない。
少しの沈黙のあと、荒北くんが私の手を握って歩き出した。

「あっち、ウサギいんだってよォ。見に行こうぜ。」
「う、うんっ!」

荒北くんの弾んだ声が、耳に心地よく響く。
繋がれている手が火をともしたように熱く感じる。
感じたことのない、暖かくてふわふわとしたものが心を満たしていく。
これが恋というものなら、なんて気持ちがいいんだろう。
荒北くんが、私を満たしていく。

「ねぇ荒北くん。」
「ナァニ?」
「私、好きだよ。」
「へ!?アー、ウサギィ?俺も好」
「ううん、荒北くんが好き。」

真っ赤になって立ち止まった荒北くんは、目を丸くして私を見ている。
驚かせてごめんね。
でも私、気がついたの。
コンビニによく来るお客さんを、個人として認識したのは荒北くんが初めてだった。
きっとあの時、私はもう荒北くんが気になっていたんだ。

「荒北靖友くんが、好きだよ。」
「……俺も雛美チャン、好きだよォ。」
「うん、だから付き合って?」
「それ雛美チャンが言っちゃうのォ?」

荒北くんはそう言って照れ笑いしながら、少し困ったように眉を下げた。
私は、実は肉食系だったのかもしれない。

「荒北くんが誰かの物になっちゃう前に言わないとね?」
「……もォ雛美チャンのだよォ。」

そう言って私を引き寄せて、軽く抱きしめてくれた。
耳元で”靖友って呼んでくれねぇの?”なんて囁くから、耳が熱くてくすぐったい。

「靖友くん。」
「おう。」
「好きだよ。」
「俺もォ。」

頬を染めながらキラキラと輝くような笑顔の靖友くんは、きっと私しか知らない。
それがすごく嬉しくて、私も気が付けば笑っていた。
初めてのことでドキドキする気持ちと、嬉しさとで足元がふわふわしているように感じる。
実はちょっと浮いていたりしないだろうか。
こんな心地よさも、全部靖友くんがくれたんだ。
ありがとう、そして。

「これから、よろしくね。」








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