そばにいた理由





関西で生まれた私は中学二年生の時に、親の都合で関東に引っ越してきた。
もともと治安の悪い土地に住んでいたこともあり、口が悪かった私はクラスにもあまり馴染めずにいた。
そんな時、クラスメイトの新開が私に声をかけてくれた。
なんてことない雑談だったけど、イントネーションが違う私を個性として受け入れてくれた。
次第に話す機会も増え、友達が多かった新開のおかげで私は学校に馴染むことができた。
モテた新開のせいで、多少の被害も被ったけれど。
それでも余りあるくらいの楽しさをもらえた。
私にとって新開は、少し特別な友人だった。
そして私の中にはいつしか"新開がいればなんとかなる"という考えができてしまっていた。
甘えなのはわかっていた。
それでも新しい場所で居場所がないかもしれない不安から、私は新開と同じ高校へ進学した。




高校では幸いにも1年目から同じクラスになることが出来た。
福富くんとは離れてしまったけど、それでも見かければ声をかけてくれたりする。
高校でも新開のおかげで馴染むことができた。
もちろん嫉妬の対象にされることも多かったけど、それほど苦にならなかった。
そうして私的には平和な一年が終わり、2年に上がった時だ。
私はまた新開と同じクラスになれてホッとしていた。
するとお昼休みにクラスメイトから呼びたされた。

「小鳥遊さん、ちょっといい?」

同じクラスになったばかりで名前もあやふやなその子についていくと、案の定新開のことだった。

「小鳥遊さんって新開くんと付き合ってないんでしょ?だったらあんまりベタベタしないでくれる?」

鋭い目つきに強い口調は威圧的で、明らかに私を敵だと言っていた。
しかし私は新開を信頼こそしていたけど、ベタベタしたつもりはない。
むしろスキンシップが多いのは新開の方で、メールや電話も新開からの方が多い。
この子は一体、新開のどこを見ているんだろうと思ったら笑えてしまった。

「新開とは付き合ってないよ。だけどベタベタしとるつもりもないし、あなたにどうこう言われる筋合いないやろ?」

しまった、気を抜いたせいで昔の言葉が混じってしまった。
笑うとつい、口調が戻ってしまう。
それを聞いた相手は、クスクスと笑い始めた。

「なんなの、その言葉遣い。ダサ。」

その言葉に、中学の記憶がフラッシュバックした。
言葉遣いが直せず、1人で浮いてしまった教室はとても冷たくて無機質で居心地が悪かった。
辛い記憶が頭を駆け巡る。
気づけばポタポタと涙が滴っていた。
どうしていいかわからない。
泣き止みたいのに、止まらない。
その姿を見て、相手はますます笑っていた。

「何泣いてるの?ダサいって言われたのがそんなにショック?それならもっと言ってあげるよ?」

さらに続く嫌味に、思考回路はショートした。
新開、助けて。

「標準語もまともに話せないあなたなんか新開くんに似合わないから。本当に目障り。大阪弁だか何だが知らないけど、ダサい言葉はやめ」
「ダサくないだろ。」

相手の言葉に被せるように、優しい声が響いた。
顔をあげれば、少し怖い顔をした新開がいる。
新開は私と目が合うと優しく笑って、手を握ってくれた。

「な、新開くん!?」
「雛美を虐めるのはやめてもらえないか。」
「そんな、いじめてなんて……私はただ」
「泣かせといてよく言うぜ。」

相手は口を噤んだ。
私はやっとのことで泣き止むと、相手の顔を見据えた。
私を睨むその目は、新開がいるからか幾分柔らかい。

「ごめん、新開とは付き合ってないけど、新開のこと良く知りもしない人にとやかく言われたくない。」

じゃぁ、そう言って歩き出すと新開も手をつないだままついてきた。

「ごめん、巻き込んだ。」
「いや、元は俺のせいだろ。それより雛美。」
「なに?」

新開が私と手を繋いだまま立ち止まるから、私は少し後ろに引っ張られた。
振り向くと、新開は少し怖い顔をしている。
何か怒らせるようなことしたかな?
私は新開に向き直って、少し首を傾げた。

「さっきの話だけどさ。俺と付き合ってないってやつ。」
「うん、それが?」
「付き合ってくれないか。」
「……はぁ?」

いきなりのことに、変な声がでた。
今絶対アホ面している自信がある。
新開は少し悲しい顔をして、目を伏せた。

「やっぱり俺のこと、そうは見てないんだな。」
「いや、ちょっと待ってよ。いつから?どういうこと?」
「雛美が転校してきてすぐ。言葉遣いに慣れなくてちょっと不器用なのが気になってさ。ずっと好きだった。」
「……知らなかったよ。」
「雛美が俺と同じ高校行くって言ったときは、もしかしてって思ってたんだけどな。」

私は、新開に頭を撫でられながら小さく謝った。

「ごめん、考えたことなかった……。」
「なぁ、今からでもいい。俺のこと考えてくれないか?」

そのレース中に見せるような真剣な目に、私は断ることができなかった。

「考えて、ダメやったらどうするん?」
「頑張るしかないな。」
「それでもダメやったら?」
「もっと頑張るしかないな。」

そう言って笑う新開は、諦める気なんてないと言う。
かっこ良くて、スポーツが出来て、優しくて。
こんな出来た男が他にいるだろうか。
私はこれ以上の相手を見つけられるのだろうか。
強いて言うなら、中学の新開の方が可愛かったな。
そこまで考えて、やっと自分の中にあった特別の意味を理解した。
知らず知らずのうちに、私は新開に惹かれていたんだ。
きっともうずっと前から。

「ねぇ新開。」
「なんだ?」
「私さー、新開のこと好きやったみたい。」

新開の顔が、パッと明るくなる。
この子犬のような笑顔は相変わらずだな。

「本当か!」
「うん、でも中学の新開の方が可愛くて好きやったかも。今もかっこいいとは思うんやけど。」

少し意地悪を言ったつもりなのに、新開はニヤニヤと笑い出した。
一体どうしたんだろう。

「俺と弟ってすごく似ててさ。血は濃い方だと思うんだよ。」
「え?うん、確かに似てるよね。」

突拍子もない話に私の頭はついていけない。
それでも新開はとても嬉しそうだ。

「だからさ。俺の子なら俺にそっくりになると思わないか?」
「……うん?」
「大人の俺と子供の俺、二度美味しいだろ?」

そう言って私の手を握ると、新開は少しかがんで私を見据えた。

「雛美、俺と結婚して。」
「……はい!?」

つまり、自分と結婚して子供が生まれれば小さい自分をもう一度見れると言いたいらしい。
新開の言うことは本当にぶっ飛んでて、頭が着いていかない。
でも。

「末長く、よろしくね?」
「もちろん!」

この笑顔に、私が勝てる日はきっとこないだろう。
隼人と一緒にいるだけで、私は笑っていられるのだから。


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