いっぱい食べる君が好き




私は、小さい時から人より少しぽっちゃりしていた。
ダイエットを試みるも、食べることが大好きな私の結果は芳しくなく、リバウンドするばかりだった。
それでも高校生になったからには彼氏が欲しい。
素敵な彼と一緒に、あちこちおでかけがしたい。
その思いを胸に、人生何十回目かのダイエットに挑んだ。

……そしてその結果は最悪だった。
始業式に空腹と貧血で倒れ、保健室に運ばれたのだ。

「大丈夫か?」
「あ、はい……すみません……。」

クラスの男子では私を抱え上げることができず、3年の先輩のお世話になってしまった。
まさか空腹で倒れましたなんて言えるわけもなく、ただ謝ることしかできない。
そしてその時、空気の読めないお腹の虫が鳴いてしまった。

「なんだ、腹減ってんのか。」

先輩はそう言うと、にかっと笑ってパワーバーを私にくれた。
とても大きな体ににこやかな笑顔の先輩は、まるでクマさんのようで、私の心を鷲掴みにした。

「あ、ありがとうございます!私、小鳥遊雛美っていいます!あの、お名前を……。」
「俺か?俺は3年の田所だ。飯はしっかり食えよ、小鳥遊さん。」
「田所先輩……。」
「おう、じゃぁな。」

頭をわしわしと撫でてから、先輩は保健室を出て行った。
それが私と先輩の運命の出会いだった。


それから私は田所先輩の元へ通いつめた。
お菓子やお弁当を作っては差し入れし、レースに出ると聞けば応援しにいった。
その日も、いつものようにお弁当を届けに行った。

「先輩、今日も作ってきました!よかったら食べてください!」
「いつもありがとよ。今日はあいつらいねぇんだ、一緒にくわねぇか。」
「いいんですか!?」
「おう。」

いつもは届けるだけだったのに。
今日は一緒にご飯が食べられる!
私の心はいつもよりも浮き足立っていた。

「一緒に食うのは初めてだな」
「はい!」

ガツガツとご飯をたくさん食べる田所先輩は本当に素敵で、私はしばらく見とれていた。
こんなに美味しそうに食べてくれる人は、初めてだ。

「雛美ちゃんはくわねぇのか?」
「い、いただきます!」

私はすっかり、自分が食べることを忘れていた。
慌てておにぎりに齧りつくと、、田所先輩がぷっと吹き出した。

「食ってるとこがハムスターみてぇだな」

そう言うと田所先輩はわしわしと頭を撫でてくれた。
大好きな人と一緒にご飯を食べるって、なんて幸せなことなんだろう。
先に食べ終わった田所先輩は、私のお弁当箱を指さした。

「メシ、少なくねぇか。」
「あ、あの…私、太ってるから。ダイエットしてるんです!」
「あぁ?そんなに気にすることねぇだろ。女はちょっとくれぇふっくらしてる方がいいだろうが。」

飯をうまそうに食えるのが一番だ、そう言って笑う田所先輩。
あぁ、やっぱり私はこの人が大好きだ。
田所先輩のそばに、ずっと居られたら。

「先輩、1つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「先輩は、彼女が太ってても気にならないんですか?」
「俺か?俺は一緒にうまいメシ食って一緒に笑えたらそれでいい。」

そう言ってまた、わしわしと頭を撫でてくれる。
暖かいその手が、私は大好きだ。
この手を、私だけのものにしたい。
そう思ったら、思わず口にしていた。
美味しそうにご飯を食べてくれる、豪快に笑う、優しいクマさんみたいな……

「先輩が好きです!」
「おう、俺も好きだぜ。今度メシでも食いにいくか。」
「……!はい!」
「腹いっぱい食えよ?」

俺が行くのはバイキングだからな、そう言って笑う。
太陽のように暖かい、私のクマさん。


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